one more time

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「私彼氏と遠距離なんて絶対無理!!」



ガタンッと私の机が大きく揺れた。



昼休み。今日は週一で決められた友人達とのお昼だった。
普段は靖友と昼を共にしているが、お互い付き合ったからといって友人達との仲を遠ざけたくはなかったので、そういう約束を作った。

3人でもさもさと昼食を食べながら他愛もない会話をする。今日の授業はあーだ、最近の人間関係はどーだ、私と靖友の中はこーだなど、それはもう色々な話。

そしてそんな会話をしているのは私達だけではなくて。他の生徒達も思い思いの会話をしていた。
教室の中は広くはないので、その会話は嫌でも聞こえる。

そんな中聞こえた、1つの会話。女子生徒6人ほどで構成されているグループの1つ。
その子たちが先ほどからわーぎゃー騒いでいるなと思ったが、1人の女子生徒が急に立ち上がったかと思うと、叫んだ。

そして冒頭に戻る。



「ちょっと棗…あんた何やってんのよ。」



私がその言葉に過剰なまでに反応し机を揺らした事で、友人の1人にとても不振な目で見られた。私は足を思い切り机にぶつけたので痛い。とても。

友人達の話題は既に私の心配から切り替わっていて、先ほど女子生徒が話した言葉へと移行してた。



「なに、どうしてあの子は叫んでるわけ?」

「あーあいつさぁ、別の高校に彼氏いるじゃん。中学からの彼氏で。」

「あーそういや言ってたねぇいつだかに」

「そいつと大学だけは一緒にしようと思ってたらしいんだけど、なんだかうまくいかなかったみたいで」



叫んだ女子と仲がいい友人の1人が、スラスラとそう喋っていくのを、もう1人が質問攻めし、私はジュースを飲みながら真剣に聞いていた。

途中で言葉をやめた友人に、もう1人が「なになに!?どうして!?」と興奮気味に聞いている。どんだけ好きなんだこの手の話が。



「いやなんだか、彼氏が本当の志望校教えてくれなかったみたいで。そしたらあの子に何も言わずに夏休みの推薦で受かっちゃったんだって。しかもめっちゃレベル高いところ。」

「ひえーそりゃまた酷い話だね。」

「うわぁ…」



友人の言葉に、私ともう1人が信じられないといった声を上げた。
どうして教えてあげなかったのか、その彼氏は彼女と同じ学校は嫌だったのだろうか。

私がそう頭の中で考えていると、友人がまんまその通り質問した。



「彼氏曰くね、俺の志望校聞いたら、絶対お前俺に合わせてくるだろって。将来のことなんだから、お前の本当に行きたい所探せって。それで黙ってたらしいのよ。」

「あらぁ〜いい彼氏なんだかどうだか」

「あの子も自分で志望校決めてなかったからね。彼氏と同じとこ行くとしか言ってなかったし。」

「それはイカンわ。自分で決めろって話よ〜」

「……。」



2人がぺらぺらと話を進めていく中、私だけ1人固まっていた。

だって、私、何も否定できない。
今まさに、そんな状況だからだ。



「そういう棗はどうするの?」

「ぅぇえ!?」

「志望校、まだ決めてないんでしょう。しかも荒北くんの志望校も聞いてないんでしょう?」



突然飛んできた話題。
私はうっ…と唸って、しかし図星なので何も言い返せずに机に突っ伏した。



「あんたのことだから、荒北くんのこと気にして決めてないんでしょ」

「……実は」

「バッカだねー」



グサッと言葉の矢が突き刺さった気がする。
あぁ痛い。



「棗は今、どこを視野に入れてるの?」

「…先生に進められたのは、東京。実家がそこだから、1人暮らしもすなくてすむって。」

「あー東京ね、それはいいね。」

「ね、私達も東京だし」



いぇーいとハイタッチを交わす2人。
そう、彼女達はすでに志望校が決まっていて、2人とも東京の大学なのだ。
私だけが決まっていない。



「棗そこそこ頭良いんだから、上目指してみたら?」

「そうそう。あとあんた子ども好きだし、勉強の教え方もまぁまぁ上手いし、教師とか、保育士とかの勉強しよーとか思わない?」

「……あぁ確かに、いいかも…」



彼女達はまるで私のこと完璧にわかってますといわんばかりに、的確なアドバイスをばんばかしてくる。

確かに考えていなかった、教育学部という手もあるじゃないか。どうしてわかっていなかったんだろう。


東京で、レベルが高くて、しかも教育学部もあって、四年制…

そうだな、あの大学なんていったっけ。
確か、確か……



「「「明早大」」」



私が言葉を発したと共に、2人も同じ単語を発した。



「やっぱり棗もそう思う?」

「明早はいいわよ。レベルも高い教育学部もあるしかも東京。」

「有名なところってここだよね」



私がいうと、2人もうんうんと頷いた。すると友人の1人が「まだまだ良い情報があるよ〜」とニヤニヤしながら言ってきた。



「明早大学のサークルはご存知ですか?」

「えっと…テニスとか野球とか、サッカー?」

「そう、オーソドックスなサークルはもちろん、たくさんのサークルがあります。
その中で、一番すごいのは何か知ってる?」

「…?野球?」

「違うよ。



自転車競技部」

「!!」



その言葉に私は目を見開いた。
自転車競技部?それってあの、靖友たちが入ってたとこだよね?



「明早大学の自転車競技部って強いらしいよ。いろんな県から強い人たちが集まるし。」

「いろんな、県から…」

「もちろん神奈川、箱学からも。」

「え!?」

「新開くんと福富くん、明早に行くらしいよ。」

「えっ!あの2人が!?」



また私は机から立ち上がった。
あの2人が、箱学のエースとエーススプリンターの2人が、明早に?

じゃあ、それなら、もしかして



「荒北くんも、明早じゃない?」



私が考えていた事を、またもや友人は口にしてくれた。
そう、もしかしたら靖友も、明早を目指しているのかもしれない。きっとそうだ。だって寿一くんのアシストだったし、なんだかんだで新開くんとも仲がいいし。



「あんたのことだから、まだ大学聞けてないんでしょ?」

「…なぜそれを」

「わかるよ棗の性格上そうだって。
でもよかったじゃん、これで一緒かもしれないって確立が増えたんだから。」



そういってニコリと笑う友人。
聞いていいのかわからず聞けなかったこと、話してくれなかったこと。

でももう大丈夫。きっと靖友は明早に来る。
さっきの女の子じゃないけど、これで靖友とも遠距離にならなくてすむ。


私はルンルン気分で2人にお礼を言った。








でも、私は間違ってた。
どうして気付かなかったんだろう。









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