one more time
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「徒野、お前いい加減志望校決めろ」
「……はい」
放課後。
後輩たちが部活動に励み、同学年たちが図書館やら家やら空き教室で勉強する中、
私は、担任と二者面談をしていた。
議題はもちろん、受験のこと。
私の、9月にして決まらない志望校のことであった。
担任はその事を、私より真剣に悩んでおり、だからなのか私だけ二者面談の時間がすっごい長かった。
ほら、今も眉間に皺を寄せて、難しい顔をしている。
「本当に行きたい大学ないのか?やりたい分野とか…」
「そうですねぇ…」
「それか、お前東京出身だろ?将来はそっちで住むんじゃないのか?だったら東京の大学で考えるとか」
「……全く考えてませんでした、そんなこと。」
私のその言葉に、先生はため息をつく。ごめんね先生。
私は少々、自分のことを考えなさすぎだなぁ。
でも、そうか。卒業したらここの寮にも住んでいられない。
だとしたら独り暮らし…といいたいところだが、生憎バイト代は食費とかなんやらで、あまり貯まっていない。
親は東京に住んでいるし、そこに家があるし、東京だから大学はたくさんあるし。
実家に帰るというのも1つの手だな……。
――あ、でも……
「とりあえず、これ東京の大学で、お前が目標にするとしての相応しいとこのだから。ちゃんと目通しとけよ。
再来週、お前だけまた面談やっから。」
「う……はい……」
ドサッと先生からパンフレットを何冊ももらい、その日の面談は終わった。
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「はぁ…どうしよう……」
場面変わって、図書室。
まだ時間があったので、私は先程もらったパンフレットたちをぱらぱらと眺めていた。
経済学部、経営学部、工学部……
色々な学部学科があったが、全部ピンとこない、全部自分に当てはまらない分野ばかりだった。
「はぁ……このまま大学決まらなかったら、やばいな……」
先生のこれでもかというほど歪められた難しい顔を思い浮かべて、ため息をつく。
再来週て…それまでに決めなきゃいけないなんて。
それに、私はまだ大学を東京にすると決めたわけではないのだ。
確かに東京になったら楽だ。
多分独り暮らしはしなくていいだろうし、不自由なく勉強に集中はできるだろう。
だけど、でも
「東京と、神奈川……」
そう、私が大学を東京にしてしまったら、
彼と、靖友と、
遠距離になってしまうかもしれないということ。
靖友の志望校はまだ知らない、聞いたこともない。
だがもし、もし彼が東京ではない別の大学だったら……
そう考えると、私は志望校を決めることができなかった。
彼氏のために大学を悩むなんて、そんなこと周りから見たらばかげてると思うし、私もばかげてるとは思うが、気にしないわけないのだ。
「……聞くしか、ないか」
何だかんだ聞きづらくて聞けなかった、彼の志望校。
覚悟を決めるためにも、そろそろ聞くべきなのかもしれない。
「……はぁ」
大きなため息が、私の口からこぼれた。
*