one more time

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ジリリリリリと、目覚まし時計の音が鳴り響く。
夢から一気に現実に引き戻された私は、眠い目を擦りながら時計を消した。

時刻は、7時。
夏休みも終わり、今日から学校だ。



「……もうちょっと、」



そう呟いて、パタリとベッドに倒れる。
学校、だるいなぁ、眠いなぁ。
もう1回寝てしまおうか。

そうやって私がもう一度夢の世界に入ろうとした、その時。

携帯の着信音が、部屋中に響き渡る。
おい、誰だよおい。私の眠りを妨げるのは。

のそのそと起き上がり、携帯を開く。
ディスプレイに表示された、名前。



「……?なんで荒北ぁ?」



覚めない頭で、携帯を開く。
なんで荒北から電話、どうしたんだと思いながら、通話ボタンを押す。



「なぁに荒北…こんなあさから、電話……」

『ハッ…やっぱ寝てやがったなァ、お前』

「んんー?よくわかんない……なんで荒北……?」

『日本語喋ってネ。
オラ、さっさと目ェ覚ませ』

「んー……」



荒北の声が遠く感じる、携帯を持つ手に力が入らない。
あぁ、もうすぐで、大好きな大好きな夢の世界にーー…



『さっさと起きようネェ。


棗チャァン』


「ーーー!!!」



グルリと、意識が勢いよく引き戻された。
先ほどまでバカみたいにふわふわとしていた脳は、一気に覚める。

血液がぶわああと熱くなる。顔も熱くなる。

そうか、そうだ。
荒北と、私は、



「お、おはよ…

やす、とも」



オハヨォと、嬉しそうに返ってくる返事。
そう、私とこの電話の相手、荒北靖友くんは、色々な困難を乗り越え、

見事、お付き合いいたしました。









********





「「二人ともー!!おめでとぉ!!!」」



教室に入ってきた瞬間に、まるで誕生日かのように祝われた。

夏休みも終わり、今日から登校日の私達箱学生。
昨日の夜に「一緒に学校行かねェ?」なんて可愛くお願いしてきた靖友に2つ返事で快く了承し、そんで今日の朝、寝ぼける私を起こしてもらって、一緒に学校に登校してきた。

久々に見た靖友の制服姿は、相変わらず格好よくて、それだけで私の心を鷲掴みにしてきた。
自分がどれだけ靖友バカなのか、痛感する。さすがにキモい。

そして、学校について。
教室に入るや否や、教室内の扉の前で待ち伏せしていた、友人たち二人、東堂くん、新開くん、寿一くん。

ニヤニヤと笑う彼らに疑問符を浮かべていると、ポケットから取り出された、クラッカー。瞬間、鳴らせれる。

そして先ほどに戻るのであった。



「え、え!なに!」

「棗!とりあえず抱き締めるからおいで!」

「え!?は!?ちょーーっぐえ」



カエルが潰れたような声が出た。
飛び付いてきた友人たち二人を、なんとか抱き止める。

それを見てる箱学チャリ部の面々。
なんだ、なんなんだ一体。



「わっはっは、ついにやったな荒北。
なに、これはお前たちカップルへ、俺達からのちょっとしたお祝いだ」

「アァ?」

「お祝い?」



2人でまた頭に疑問符を浮かべる。
しかし彼等はただニヤニヤと顔に笑みを浮かべるだけだった。



「やっとくっついたお前さんたちを、俺たちでお祝いしようってなったんだよ」

「え」

「言葉だけになってしまったが、俺たちはお前達を心から祝福しているぞ」

「え、えぇ!?」



口を開いた新開くん寿一くんに、私は声を上げてしまう。
確かに彼等に報告はしたが、まさか、こんな風にお祝いしてくれるなんて、思ってもみなかったのだ。


彼等には、彼女たちには、とてもお世話になった。迷惑もかけた。さらにこんなことまでしてくれるなんて、胸がいっぱいだった。



「……みんなぁ」

「「「!?」」」

「ちょ、ちょっと棗!?」

「あんた、もう…何泣いてるのよ、ばかねぇ」



溢れ出てしまった涙は、止まることをしらない。
私の涙を見て固まる三人、いつものことのように笑いながら私を慰める友人達。


そして、



「棗、オラ泣くな。」



大好きな笑顔で、私を撫でる靖友。



「ごめ、私……幸せ、だなぁって」



私が涙ながらにそういうと、皆は目を開いて、そしてすぐに笑った。



ありがとう、皆。
私、貴方達みたいな素敵な人たちと出会えて、本当に良かった。






















**********






「朝の棗チャンは可愛かったネェ」

「やめて、ほんと、やめてください」



昼休み。
私と靖友は、あのお決まりの場所で昼食をとっていた。
私と靖友の間には、あの黒猫。
がつがつとおいしそうに、猫缶をかっくらっている。



「オメェはいいなァ、授業とかねェから」

「黒猫にも悩みはあるよねぇ、靖友は授業中も寝てるからそんな支障ないもんねぇ」

「アァ?お前も寝てんだろ」

「失礼だなぁ、おきてるよ。
6授業に2回ぐらいは」

「ほぼ寝てンじゃねェか!」



ビンッと額をデコピンされる。いたい。
コイツデコピン好きだなぁ。デコピン北。



「でももう受験生だしなぁ、真面目に授業受けないと」

「オイやめろヨその話ィ。飯がまずくなる」

「あら、勉強はお嫌いで??現実逃避北??」

「……ッセェ!」

「っ!!」



私がニヤニヤと茶化していると、グイッと引っ張られる腕。
すぐ目の前には、瞳を閉じた靖友の顔。
唇に感じる、柔らかいもの。


わ、わ、わぁぁぁ…



「……っ勉強の話じゃなくてェ、楽しい話しようヨ、棗」

「……はい」



離れた唇、それでもなお熱い私の唇。
靖友は、自分でしかけた癖に、その顔は耳まで真っ赤だった。

ふざけんな、ばか、ここ学校だぞ。
でも、わかっているのに、



「……好きだなぁ」

「アァ!?」



ポツリと呟かれた言葉は、真っ赤な顔の靖友の顔を、さらに赤くさせた。



靖友と付き合って、皆とわいわい話して、こうやってお昼を靖友と食べて、こんなにも幸せな日常を送れるなんて、夢にも思わなかった。

恋がこんなにすばらしいものなんて、靖友に会わなかったら、きっと私はまだ恋に怯えていたんだろうなぁ。


大好きな人達と、大好きな靖友と一緒にいられて、幸せだ。





「いつまでも、続けばいいのに…」




私にしか聞こえないであろう小さな呟きは、
靖友に伝わることなく、空に消えていった。












*

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