one more time
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三日目。
いよいよ、ラストだ。
バクバクと、鼓動が高鳴る。
ハッ、俺でもキンチョーとかすんだなァ。
この鼓動は、似ている。
中学ン時の、野球の、公式戦と―
そこまで考えて、俺は頭を振る。
あの時と違う、鼻を掠めるのは土の臭いではなく、アスファルトの臭い、目の前に広がるのはバッターボックスではない、まっすぐに広がる道。
俺は、変わった。
箱学を、福チャンを、勝利に導く。
俺は、運び屋だ。
俺が1人で考えていると、なぁと後ろにいる新開が俺の肩をとんとんと叩く。
「ンだヨ」
「やっぱり徒野さん、体調戻んなかったんだな」
「……アァ」
結局、徒野の姿を見ることはなかった。
俺の読みは当たっていたらしく、きっと徒野は赤坂に脅されている。
このレースが終わったら、全てにケリをつける。
でもまずは
「優勝するしかねェダロ」
*****
「やっぱ体調なおらなかったね、棗」
「そうだね…」
私は携帯を眺める。
先ほど来ないか?というメールを送ったが、棗から返ってくることはなかった。
棗はこのレースを楽しみにしていたのに、インターハイが始まる一日前ぐらいから体調を崩したといって寮に籠もってしまった。
結局彼女は、このレースを見ることが出来なかった。
箱学が、荒北が走るラストのレースなのに。
「……」
「ちょ、ねぇ!あれって…」
「え?」
私の服を引っ張りながら、一方を指差す友人。
え、と目を凝らし、その一点を見る。
「えっ…」
何で、ここに
*********
足が、ちぎれそうだ。
広島のマチミヤと競って、真波と小野田チャン連れて、ここまで戻って。
今俺は、新開に代わって、福チャンを引く。
3年間、短いようで長かった。
走馬灯のように、記憶がめぐる。
なァ福チャン。
俺はお前のおかげで、変われたんだ。
俺にもう一度大事なモン教えてくれたのは福チャン、お前だ。
こんな俺を仲間にしてくれた新開、東堂…てめぇらにも感謝してる。
あぁ、 インハイラスステの先頭は
ハンパなくキモチイイ
俺の前に新開が出る。
ハッ、なんて顔してんだヨ、新開。
新開の手が俺に伸びる。
悪ィ、その手に掴まる力すらねェわ
あとは頼んだぜ
箱学―
自分が失速していくのが分かる。
箱学が、離れる。
こんなとこ、あいつに見られたら
バカ野郎って、叫ばれそうだな―…
なァ
徒野
「荒北!!!!」
聞こえたその声に、俺は下げていた顔を上げる。
他のは全部認識することのできないぐらい視界が霞んでいたのに、そこだけははっきりとわかる。
澄んだ、青空。
「ハッ……来れたじゃ、ねェか…」
顔を涙でぐっちゃぐちゃにした、徒野がいた。
その顔をみて、俺の顔に、汗とは違ったものが流れた。
*