one more time

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テストも終わって、季節はもう夏休み。




今日は、特別な日。




「インターハイ、一日目…」



教えてもらった開始の時刻は、もうすぐ。
だけど私がいるのは会場でも、ましてや外でもない。
1人で、寮のテレビの前にいた。



赤坂さんのあの脅し、冗談には聞こえなかった。
私は、彼女の気迫に負けてしまったのだ。


一緒に行こうといってくれた友人達には体調が優れないと嘘をつき、私はインターハイを直接観に行く事はしなかった。



「約束、したのになぁ…」



ごめんね、荒北。












******







『選手の皆さんは、学校番号ごとに並んでくださーい』



アナウンスの声が響く。
俺は並びつつ、ある人物を必死に探していた。

いねェ、どこにも。
スタート前に、挨拶に行くとか言ってたクセにヨォ。



「靖友!」

「!……ンだよテメェか」



女の声が聞こえまさかと思い振り向いたが、そこには徒野ではなく、赤坂がいた。



「頑張ってね、レース」

「ッセェ、俺ァ頑張ってって言葉が一番嫌いなんだヨ」

「ふふ、そっか。
…ところで、なんだよテメェかってことは、私以外に誰かを探してたの?」

「……」

「徒野さん、ね」



俺は返事をしない。
それを肯定とみなしたのか、赤坂はまたふふと笑う。

そして、その笑顔のまま口を開く。



「徒野さんなら、来ないよ」

「あ?」



俺と赤坂の間に、不穏な空気が流れる。
俺は静かに、赤坂をにらむ。

てめぇ…まさか…。



「体調、崩しちゃったんだって」



その言葉に、俺は肩をおろす。
まさか赤坂が何かしたのかと考えた俺の考えは、はずれたらしい。

ンだよアイツ…弱ェなァ。



「そーかよ、じゃあ俺そろそろ行くからァ」

「うん、ゴールで待ってるね」



赤坂はそういうと、スタスタと歩いていってしまった。
わけわかんねェヤツだなァ。



「徒野…」



一目会いたかった女の名前を小さく呼び、俺は列の最前へと向かった。













******






私はかじりついたように、テレビを眺める。
先ほど、レースがスタートされたのだ。


今回のレース地は箱根だから、こうして中継で映し出される。
よかった、まだテレビで見れて。


箱学は…今のところ先頭か。




初めてこうしてロードレースの試合を見たわけだが、本当に圧倒されるというか、こんなに凄いものだとは思わなかった。


箱学はファーストリザルトというところを目指して二年の泉田くんを出すが、総北が出した一年の子と三年の人に敗れる。


そのスプリント勝負も、これが自転車なの?と思わせるほどのスピードで、あっという間に決着が着いてしまった。


その後は、山岳リザルト。
箱学のエースクライマー東堂くんと、3分ほど遅れて勝負を挑んだ巻島くんという三年の人との対戦。

これまた登りと思わせないほどのスピードで、お互い一歩もひかず、ぶつかり合いながら、山頂を目指した本気の走行。

結果は僅差で東堂くん。
彼の普段の性格とは考えられないほど、レース中…いや、登っているときの彼はまさしく山神。

山に愛され、山を愛す彼は、さすが箱学のエースクライマーといったところか。



そして、1日目は大詰めをむかえた。



「寿一くん…荒北っ…」



ゴール地点まであと少し。
飛び出してきたのはエースとエースアシスト。


箱学は寿一くんと、荒北。



「……って、荒北のロードバイク…」



カメラがアップされるまで気づかなかったか、彼が乗っているロードバイクには見覚えがあった。


以前私と彼が出かけたときに見た、
あの澄んだ青の、ロードバイク。



ビアンキの、チェレステ




「なんだ、やっぱり荒北の色じゃん」









その後は最終地点を目指すとだけあって、より白熱したバトルだった。

総北も負けじと張り付く。
僅差で総北の主将と寿一くんがゴールを目指し走る。

しかしそこで現れた、京都伏見という学校の子。



そのままお互いに譲らず、ゴールは初の三校同時着となった。




「はぁ…すごいな…。」



レースが終わった後、私はため息をつくことしか出来なかった。


もしこれを、あそこで見れたら、もっと凄かったんだろうな…。





すると、手の中のものが震える。メールだ。
画面を開くと、友人達から。


画像が添付されている。




「……わぁ」



そこに写っていたのは、レース前の箱学の人達、山岳リザルトをとった瞬間の東堂くん、そして寿一くんと荒北。

きっと何人もの人達がいるから、色んな人に声をかけて画像をもらったんだろう。
ありがたい。


女子高生は写真がうまいというが、本当だ。
綺麗に撮れている。



「……お疲れ様」



きっと私の予想よりはるかに力を出した彼等に、届かない労いの言葉を発した。








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