one more time

□25
1ページ/1ページ










皆さん、こんにちは。
突然ですが、今日からテストです。



私の机の上には答案用紙。
大丈夫、しっかり勉強はしてきた、解ける…はず。


先生の始めの合図と共に、皆が一斉に裏返っていた答案用紙をめくった。



シャーペンの芯をカチカチと出し、いざ、勝負。















***********









「死んだ…」



現在、私は自販機の前に来ていた。
先ほどのテスト、やばいかもしれない。
ちゃんと勉強したというのは思い込みで、なんか全然解けなかった。



「はぁ…だめかも、本当。」



ピッとボタンを押すと、ガタンッとペットボトルが落ちる音。
…と、もう一回ガタンッという音が聞こえた。


え、と思い蓋を開けると、落ちたペットボトルは2つ。両方とも私が押したボタンの飲み物…ベプシだった。



「え、え、めっちゃラッキー!なにこの幸運!テスト頑張った私にご褒美!?」



くるくると自販機の前で回る。
はたから見たらただの変人だ。



や、でも2本も飲めるかなぁ…
一日2本炭酸飲料は、ちょっとキツいかも。


どうしようかとペットボトルとにらめっこしていると、あ、と聞きなれた声が聞こえた。




「……あ」

「……オォ」



荒北、だった。



「ひ、さしぶり」

「……アァ、ウン」



ど き ま ず い


あらから話せないでいた私達に、重い空気が流れる。
しかし先に動いたのは荒北だった。私が先ほどまでいた自販機の前にいき、小銭を入れている。

私はそこで、あ!と思い、ちょっと待って!と呼びかける。
荒北は怪訝な顔をしつつも振り返ってくれた。



「これ、なんか、2本出てきちゃったんだけど…いらない?」

「アァ?なんで2本も出てンのォ?」

「私も知らないけど、まァラッキーってことで」

「ハッ、なんだヨソレ。
まァもらっとくわ、アリガト」



荒北は私の手からベプシを取ると、おいしそうに飲む。
私も飲んだ。



「そういや前にも、ベプシくれたよネ」

「え、あ…差し入れ?」

「ソ。アンガトネェ」

「いや、はは…お礼とか、いいよ」




あまり聞かない素直なお礼に、私はなんだかくすぐったくなってしまい、そっぽを向いた。




「テスト終わったら、すぐ夏休みジャン」

「あ、うん、そうだね」

「……インターハイ、観にこねェ?」

「うん…………え!!?」



荒北の言葉に、思わず叫んでしまった。
廊下にいた数人の生徒が私を見る。やめろ観るな恥ずかしい。



「お前、前に自転車めっちゃ見てて楽しそうだったしィ、東堂とか新開とか、福チャンも喜びそうだし」

「え、いく!…行っていいの?」

「俺に聞くなヨ。来たかったら勝手にくればァ?」

「うん、いくよ!絶対いく!!」



荒北はそれを聞いて、少し嬉しそうに笑う。
おぉと言って、私の頭をなでた。


久しぶりに、撫でられた。
その瞬間に、ボッと顔が熱くなったのがわかった。


好きということを自覚してから、荒北が妙にカッコよく見えてしまい、久しぶりの行為に体温が上昇していく。



「オラ、戻ンぞ」

「あ、あ、うん!」



嬉しいな、インターハイいけるの。
たくさん、応援しよう。





私と荒北は、教室に戻った。


そのときは気づかなかった。
1つの視線が、私達を見ていたことを。













**********











テストが終わり、放課後。
この地獄が続くと思うと、正直やっていける気がしないよ、お母さん。


1人でとぼとぼと廊下を歩く私。
グランドから、陸上部の声が聞こえる。


部活かぁ…
自転車部の試合観にいけるの、本当に嬉しいなぁ。


数時間前の出来事を思い出し、にやける。



差し入れとかって、もってっていいかなぁ。
あぁ、楽しみだ。



「徒野さん」



後ろから、誰かに呼び止められた。
ソプラノの、高い声。


振り向くと、そこにいたのは



「赤坂、さん…」



現在荒北の彼女の、赤坂萌さんだった。



「聞きたいことがあるんだけど、いいかな」

「あ、うん…どうしたの?」



廊下には、なぜか私達2人だけしかいなかった。

いつも騒がしいのに、今は私達の声と、外から伝わる生徒達の遠い声しか聞こえない。



彼女が聞きたいことは、今の私には容易に理解できた。




「徒野さんて、靖友と仲が良いけど、どういう関係?」



それきた。私の予想は当たっていたのだ。
いつかはこうなるかなと思っていたけど、赤坂さんは私と荒北の仲がずいぶん気になっているようで。



「ただの友達、だよ」

「そうなんだ。
でも、あなたはそうは思ってないでしょう?」

「…何が言いたい?」



ずっとニコニコと笑っていた赤坂さんだが、私のその言葉を合図に、ピタリと笑うのをやめた。



「靖友に、近づかないで」



ピシャリと放たれたその言葉。
私はあまりの気迫に思わず生唾を飲む。



「貴方が靖友を好こうが、靖友が貴方を好こうが、今付き合っているのは私なの。
彼が別の女と仲良くするなんて、許さない。

ましてや貴方とは、絶対に」



赤坂さんの目が、私を射抜く。
彼女はかわいくて、優しくて、男女からも好かれて評判がよかった。


でも私が見ている彼女はなんだ。
そんな要素、どこにもないじゃないか。


しかし私は、退くわけにはいかない。




「…それは、無理だよ。
荒北の自由だと思うし、私も友達だから」

「私に、盾つく気?」

「いや、盾とかそんなんじゃなくて…」




「貴方は、恋をしない方がいいんじゃない?



また、暴力でも振るわれたらどうする気?」




その言葉に、私は勢いよく顔を上げた。
なんで、なんでそれを、


なんで、この子が。



「私結構顔広いの。
だから、あなたの知り合いとも接点があってね、昔のこと色々聞いちゃった」

「っ…」

「前の彼、貴方に散々酷いことしたみたいね。
束縛、暴力、暴言…そのせいで貴方も人が好きになれなくなったとか」



私は、言い返せなかった。
嫌な汗が、頬を伝う。



「ねぇ、そのことを、靖友は知ってるのかなぁ?」

「!!」

「傷とか、まだ残ってるんじゃないの?」



笑っているのに、目が笑っていない。
私は水を失った魚のように、ただ口をパクパクと小さく動かすことしか出来なかった。



「わかってるみたいだけど、ちゃんと言ってあげるね。

このことを靖友にバラされたくなかったら、これ以上靖友に近づくことは許さない。

もちろん、インターハイも来ないで」



赤坂さんはそれだけ言い放つと、私の横を通り過ぎ、去っていった。




私はただ、呼吸をすることしか出来なくなっていた。



それからどうやって寮まで帰ったか
覚えていない。











*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ