one more time

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徒野さんを教室に送り、自分のクラスに戻り、授業を受けた。


そして、昼休み。
いつもは4人で食べている昼食も、今日は尽八と2人だった。


寿一は顧問に呼び出されていて、荒北は、彼女とお昼を食べるらしい。


難しい顔をして今日のAランチを頬張る尽八。
俺は早速質問してみることにした。



「なぁ尽八、おめさん、色々隠してる事あるだろう?」

「ふぐっ!」

「…図星みたいだな」



蛙がつぶれたみたいな声を出した尽八は、ご飯を喉に詰まらせたらしい。
動揺っぷり、分かりやすいなぁ。



「な、なんだ藪から某に」

「今日徒野さんに聞いたんだ。靖友に急に彼女が出来たって。」

「なにっ徒野さんと!?いつだ!!」

「朝だったな。徒野さん、すげぇ泣いてた」

「……そうか、やはり泣いてしまったか…」



尽八は食べる手を止め、顎に手を添えて考える。
味噌汁は、すっかり湯気がなくなってしまっていた。



「俺は荒北のことも、徒野さんの秘密も知っている」

「徒野さん?」

「彼女は、人が好きになれないのだ」



尽八の一言に、今度は俺の食べる手がとまる。
箸に掴まれていた卵焼きは、ぽとんと皿に帰っていった。



「どういうことだ?」

「いや、俺にもわからんのだ。
ただ彼女は、そういった」

「……そうか、でも、今日認めてたぜ。
自分はあいつが好きだって」

「なに!?そ、それは本当なのか!!?」



尽八は今にも俺に掴みかかりそうな勢いで席を立ちあがる。

しかし、いやでもますますまずいのか?となにやら1人でぼそぼそと喋っている。



「何がまずいんだ?」

「……隼人よ、俺はお前のことを信じているからな」

「ん?」

「この話は他言してはならんぞ。特に徒野さんには!」

「あぁもちろん。
なんだ、靖友の話か?」

「そうだ、なぜあいつが付き合ったのか…
俺は、その現場をたまたま見てしまった。」



実はな―
尽八は俺に少し顔を近づけ、小声で話し始めた。














**********










「靖友」




練習が終わり、部室には俺達3人だけが残っていた。
寿一は部活に少し遅れたため、まだ自主練をしている。


俺が呼びかけた靖友は、うざそうにこちらを見た。
靖友の今日の調子はいつもどおりだったが、その走行は荒々しかった。


それは、昼に尽八が話してくれた事と関係があるのか、俺にはわからない。



「ンだよ…ナンか用か?」

「おめさん、なんで付き合ったんだ?」

「アァ?」



俺の問いかけに、靖友はさらに眉間の皺を深くする。
相当キているようで、明らかに不機嫌オーラが漂っていた。

尽八は小声であまり煽るなよといってきた。



「おめさん、靖友は徒野さんが好きだったんだろう?」

「……ンなの前の話だ」

「嘘つけ。今も好きなの、わかるぞ。
なのになんで、徒野さんじゃなくてあの女子と付き合ったんだ」

「…っせぇなァ!テメェに関係ねェだろ!!」

「おい荒北やめろ!!」



靖友が俺に掴みかかる。
ガンッとロッカーに俺の頭がぶつかる。痛い。

尽八が止めにはいるが、靖友の力は緩まない。



「テメェにアイツと俺のナニがわかんだよ!何もわかんねぇだろ!どいつもこいつも…外野は黙ってやがれ!!」

「外野じゃないよ、俺は」

「アァ!?外野だろ!徒野のこともナンモしらねェくせしやがって…」

「俺だって、徒野さんが好きなんだ」

「……アァ?」

「なっ!」



靖友だけでなく、尽八も驚いている。
そりゃそうか、昼はこのこと言わなかったもんな。



「靖友の好きな子だったから、我慢してた。
だけど、おめさんに彼女が出来たんなら別だと思って、弱ってるとこに漬け込んじまった」

「弱ってるだァ?」

「徒野さん、おめさんが彼女出来たって聞いて、泣いてたんだぜ」

「!!」



靖友の力が弱まる。
そんなことも、想像してなかったのか、靖友。



「俺はその時に徒野さんに告白した。
俺なら、悲しませないって。
…だけど、ダメだったんだ、俺じゃ。」

「…ナンの話だヨ」

「靖友、徒野さんがお前の気持ちにこたえなかったのは、単純にお前のことを好きじゃなかったわけじゃないんだ。」

「アァ?わけわかんねェんだけど」

「その話は俺がしよう」



黙って俺達のやり取りを見ていた尽八が口を開く。
靖友は俺から離れ、ベンチにどかっと座る。



「荒北よ、徒野さんは人を好きになれないのだ」

「ハァ?ナンダソレ」


「俺も詳しくは知らん。
だが、それは事実だ。だから徒野さんはお前の気持ちに答えることができなかったんだ。」

「……。」

「でも徒野さんは、今日、そこから進んだんだ。
好きな奴がいるって、言ってた」



あのまっすぐな目を、俺は知っている。
覚悟をきめた奴の目だ。



「キスしちまったことがなんだ。そんなことのせいで本当に好きな子と付き合えないなんて、そんな酷いことないぜ」

「!なんでそれ知ってンだよ!!」

「すまん、俺実はお前達の一部始終見ていたんだ…」

「!?テンメ東堂ッ…!!」

「靖友、」



今度は尽八に掴みかかろうとする靖友に呼びかける。

靖友は動きを止め、俺をまた見た。



「徒野さんは進んだ。
次はおめさんも、もっかい進む番だ」

「……。」



ガシガシと頭をかき、ため息をつく。
だけど靖友の顔は、少し晴れやかだった。



「テェカその様子だと、あいつの好きなヤツってさァ……期待していいワケェ?」

「そこは自分で考えろ」

「靖友、フラれても俺のせいにしないでくれよ」

「アァ!?ッザケンナてめ!!」



でも、と続ける。
後ろを向いてしまった靖友の表情は読めない。



「……アンガトネェ」



その言葉に俺達はニコリと笑って、あぁと答えた。










*

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