one more time

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俺は今、見てはいけない現場を見てしまっている。




今日はいつもより早く練習が終わる日で、俺は登り足りなかったから自主練をしようと山を登っていた。


坂を下りたところに、1つ小さな公園があるのだが、そこで見たことのあるロードバイクを見つけた。



ビアンキの、チェレステ。
以前福が使っていたもの、今は荒北が使っているもの。


なぜ、こんなところに。
自転車を止め、暗い公園の中をジッと見る。



するとベンチに2人の男女。
制服からして、箱学の者である。


ま、まさか…荒北と徒野さん?
付き合ったのか2人は!!


俺は好奇心からその光景を見たく、公園の裏側、ベンチから少し近いところまでペダルを回した。
そして、ベンチに座る2人の顔を確認する。




「――っ!?」




思わず、声が出そうになった。
ベンチに座っていたのは、荒北と徒野さんではなかった。



荒北と、赤坂さんというクラスのかわいい子だった。


そして、冒頭へと戻る。






(荒北貴様!ついに浮気か!?
…いや、付き合っているわけではないし、浮気にはならんか…でもそれはないだろう!!)



今にも飛びつきたくなる衝動を抑え、2人の会話に耳を済ませる。
静かな公園には、2人の声だけが響く。




「練習お疲れ様。来てくれて嬉しい」

「…で、出かけるってナニ。ここの公園のことかヨ」

「そう、だって公園の方が近いし、いいでしょう?」



赤坂さんのソプラノの声が耳に入る。
俺の好きな女の子の声、だが、最近はもう少し落ち着いた、低い…


徒野さんの声の方が、俺は好きだ。




「荒北くん、本当に徒野さんとは何でもないの?」

「アァ?ッセェなダチっつってんだろ。
大体なんでテメェにンなこと一々聞かれなきゃなんねェンだヨ」

「どうしてか、分からないの?」




赤坂さんがくすくすと笑う。
女の子と絡むことの多い俺は、その後の展開が容易によめた。

と同時に、まずいと頭の中で警報が鳴る。


荒北!お前いつもはあんなにも鋭いくせに、なぜこんなとこだけ鈍いんだ!




「メンドーくせェからいいわ、別に知ンなくても。
てェか用ねェなら俺もう―」

「好きだからだよ」

「…アァ?」





「荒北くんのことが、好きだから」




ギィとベンチが軋む音。
俺の目には、とんでもない光景が映っている。



赤坂さんはベンチに荒北を押し倒し、荒北の唇に自分のそれを押し付けていた。



荒北も突然のことに固まっている。
赤坂さんは数秒してから、その固まっている荒北から離れた。



「私、荒北くんが徒野さんを好きなこと知ってるよ。
フラれたことも、知ってる。」

「……っテメェ!!」

「でも私、諦めるなんて無理。私が好きになった人が、私以外を好きなんて認めない。」

「ナニ訳のわかんねェコト言ってンだヨ!」

「あ、そうそう。
ここに、こんなものがあります〜」

「「!!」」




赤坂さんは自分の携帯の画面を荒北に見せる。
暗い中に明るい画面はよく見えるため、俺にもその画面の中に映し出されているものが何か見えた。


俺たちが固まっている間に、赤坂さんは写真を撮っていたみたいだった。
荒北と自分の、キスしている写真を。



「これ、徒野さんが見たらどう思うかな。
自分を好きとかいっときながら、別の女と、しかも付き合ってもいない女とキスしてるなんて知ったら」

「……消せ」

「私と付き合ったら、消してあげるよ」



どうする?
赤坂さんはニコリと笑いながら言う。

恐ろしい、笑っているはずなのに。



「……徒野には、言うな」

「えぇ、言わない。
それじゃあ、荒北くんは私と?」

「………チッ」



その舌打ちを合意とみなしたのか、赤坂さんは嬉しいといって荒北に抱きついた。




その後荒北は抜け殻のような状態になりながらも、寮に帰っていった。
赤坂さんも、その場から去る。








「これは…悪い夢か…?」






ただ俺だけが、その場で動けないままでいた。














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