one more time
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小屋を離れたあと、とりあえず黒猫に餌を上げにいった。
あいつは変わらず、まんまるとしていた。
そして新開くんに着いてきてもらい、教室に戻った。
震える手で教室の扉を開けると、皆が一斉に私を見た。
逃げ出そうかと思ったが、後ろで新開くんが大丈夫。と呟く。
グッとこらえ、教室の中に入る。
すると、男女何人かが近づいてきた。
朝、私と荒北の仲を茶化した奴等だった。
「徒野…その、悪かった!お前のこと考えないで、面白おかしくしちまって…」
「普段徒野は全然怒らないから、つい度が過ぎたわ…俺もごめん」
「俺達もごめん」
「私たちも…」
1人が謝ると、みんなが一斉に頭を下げてきた。
まさかこんな展開になると思っていなかったので、私は慌ててみんなに頭をあげるようお願いした。
「いいよ、私も急にキレたりしてごめんね。」
私が笑うと、泣きそうだった皆の顔も笑顔に変わっていた。
しかも、いやー徒野ってキレると般若みたいだなと言って来る始末だ。一発蹴りをいれた。
「な、大丈夫だっただろ?徒野さん」
「うん、ありがとう新開くん」
近づいてきた新開くんに改めて御礼を言うと、頭にポンッと触れられた。
それをみて、また数人の女子と男子が小さく声を上げる。
徒野は新開とだったのか!と叫ぶ男子がいたので、腹パンをお見舞いした。
新開くんは、笑っている。
ただ私はその時気づいていなかったのである。
あいつが、私と新開くんのことをジッと見ていたことなんて。
***********
「まったく…驚かせないでよ、棗」
「教室ついたら棗はいないわ、クラスはパニックだわ…まぁ絶対にあいつ等が悪いから、私等も言っておいたけど」
「ありがとう…すまん迷惑かけて」
放課後。
私達3人は、学校の近くにあるワックに来ていた。
席につくなり、今日の騒動について問い詰められた私が、ぽつりぽつりと話したのがさっき。
クラスの人に友人達がキレているのが現在。
私は話をききつつも、フライドポテトをもさもさと食べている。
「てか、棗さん。結局荒北くんとはどうなの?」
「ずっと前に一回、荒北くんと気まずくなってたのはなんなの?
てか荒北くんと昼購買いって、なぜかそのまま帰った日のことも、ずっと聞きたかったんだけど。」
「え」
「「今すぐ、白状しなさい」」
ずい、と机をはさんで詰め寄られる。
また私の話す番が周ってきてしまったようだ。
荒北に一度告白?されたことを、この子達にはまだ言っていなかった。この子たちも気を使って聞いてはこなかったんだろう。
私は、話すべきなのかもしれない。
私はポテトを食べながら、あの日から今日まであったことをゆっくり話し始めた。
そして、この子達には話しておきたかった、私が人を好きになれない理由も、添えて。
友人達は携帯もいじらず、ポテトも食べず、ただ私の話を真剣に聞いてくれていた。
そして、話が終わる。
すると、2人も私の手を握ってきた。
「徒野」
「なに?」
「お疲れ様」
「1人でよく頑張ったね」
よしよしと頭をなでられる。
掴んでいたポテトが、霞む。
あ、泣いてるのか、私。
気づくと次から次に涙がでてきて。
友人達は微笑むと、私にハンカチを貸してくれた。
「あんたが人を好きになれない…いや、なりたくないのも無理ないよ」
「そうだよ。そんな最低な男…もし会ったらぶん殴ってやるから」
「はは、頼もしいわ」
友人達は元彼にそうとうイラついているようで、1人の友人なんて貧乏ゆすりがどえらいことになっている。
「だから、荒北くんのことは、好きになれないの?」
「う、ん…多分」
「…でもさ、私ずっと思ってたんだけど、棗荒北くんのこと、本当に好きじゃないの?」
「え?」
「だって、友達でいようってあっちに言われて、苦しかったんでしょ?」
「…う、ん」
「それさ、自分が周りの女の子と、変わらない存在になるのが嫌だったんじゃないの?」
「えぇ?」
「確かに、そうかも。
それにキスだって許可なくされたわけでしょ?いくら友達でも、普通はもう話したくもないでしょ」
「それは、荒北だから―」
「「ほらそこだよ!!!」」
ビシッと指を指された。
そのポーズはさながら、東堂くんのポーズと似ている気がする。
「質問します。
荒北くんに対し、鼓動が早くなったりしたことはありますか。」
「ん、ある、かも」
「他の人より荒北くんといた方が楽しいと思いますか」
「それはある」
「キスをされて、荒北くんのことを気持ち悪いと思いましたか?」
「それはない」
「荒北くんを他の人以上にかっこいいと思った事はありますか?」
「あいつふつーにかっこいい、と思う」
「え、それはない。
…では最後に、荒北くんと友達に戻ると聞いて、辛かったですか」
「ん…苦しかった」
質問を聞き終えた友人達はふむふむと頷く。
これで何がわかるっていうんだ。
私は少しだけあまったベプシをズズズ…と飲み干す、と。
友人達がズバリ!といってまた指を指してきた。
「棗さん、あなたは」
「荒北くんに、恋をしています」
「ぶふっ!!」
「「きたなっ!」」
あまりの言葉にベプシを噴出してしまった。
友人の顔にかかった。すまん許せ。
「なんで!私が!荒北に!?」
「わかった落ち着け。とりあえず口からこぼれているベプシを拭いてください。」
「私の顔にかかったベプシも拭いて下さい」
友人の顔を拭いてから、自分の顔をふく。
それを確認してから、友人はあのねと口をひらいた。
「今の質問の答え、明らか私は荒北くんが好きですっていってるようなもんだからね」
「てか荒北くんかっこいいって、顔はアウトでしょ」
「え、なんで。顔も性格も良いよ」
「「盲目じゃないですか…」」
友人達はあきれたようにため息を吐く。
なんだ、何なんだもう。
「棗、あんたが恋をしたくないのも無理はないよ。
だけどね、踏み出そうとしている足を、自分が止めちゃダメなんだよ」
「…べつに、荒北はそんなんじゃ…」
「棗、大切なものは、大切にしないとなくなっちゃうんだよ」
「―…。」
「好きっていう気持ちを見ないフリして、自分に嘘ついて、そのせいで失うなんて、そんな残酷なことってないよ。過去ばっか、見てちゃだめだよ。
一番の壁は、自分の心だよ」
いつもふざけている友人達は、いやに真剣な目で私を見てそういった。
私は、動けないでいた。
「ゆっくりでいい、ゆっくりでいいから自分の気持ちと向きあってみて。
棗は、きっと前を向けるよ」
2人は私に向かって、静かに微笑んだ。
ガヤガヤとうるさいはずなのに、私の耳には何の音も入ってこなかった。
*