one more time

□19
1ページ/1ページ








小屋を離れたあと、とりあえず黒猫に餌を上げにいった。
あいつは変わらず、まんまるとしていた。



そして新開くんに着いてきてもらい、教室に戻った。
震える手で教室の扉を開けると、皆が一斉に私を見た。
逃げ出そうかと思ったが、後ろで新開くんが大丈夫。と呟く。
グッとこらえ、教室の中に入る。



すると、男女何人かが近づいてきた。
朝、私と荒北の仲を茶化した奴等だった。



「徒野…その、悪かった!お前のこと考えないで、面白おかしくしちまって…」

「普段徒野は全然怒らないから、つい度が過ぎたわ…俺もごめん」

「俺達もごめん」

「私たちも…」



1人が謝ると、みんなが一斉に頭を下げてきた。
まさかこんな展開になると思っていなかったので、私は慌ててみんなに頭をあげるようお願いした。



「いいよ、私も急にキレたりしてごめんね。」



私が笑うと、泣きそうだった皆の顔も笑顔に変わっていた。
しかも、いやー徒野ってキレると般若みたいだなと言って来る始末だ。一発蹴りをいれた。



「な、大丈夫だっただろ?徒野さん」

「うん、ありがとう新開くん」



近づいてきた新開くんに改めて御礼を言うと、頭にポンッと触れられた。
それをみて、また数人の女子と男子が小さく声を上げる。


徒野は新開とだったのか!と叫ぶ男子がいたので、腹パンをお見舞いした。
新開くんは、笑っている。


ただ私はその時気づいていなかったのである。
あいつが、私と新開くんのことをジッと見ていたことなんて。

























***********





「まったく…驚かせないでよ、棗」

「教室ついたら棗はいないわ、クラスはパニックだわ…まぁ絶対にあいつ等が悪いから、私等も言っておいたけど」

「ありがとう…すまん迷惑かけて」




放課後。
私達3人は、学校の近くにあるワックに来ていた。
席につくなり、今日の騒動について問い詰められた私が、ぽつりぽつりと話したのがさっき。

クラスの人に友人達がキレているのが現在。
私は話をききつつも、フライドポテトをもさもさと食べている。




「てか、棗さん。結局荒北くんとはどうなの?」

「ずっと前に一回、荒北くんと気まずくなってたのはなんなの?
てか荒北くんと昼購買いって、なぜかそのまま帰った日のことも、ずっと聞きたかったんだけど。」

「え」

「「今すぐ、白状しなさい」」



ずい、と机をはさんで詰め寄られる。
また私の話す番が周ってきてしまったようだ。

荒北に一度告白?されたことを、この子達にはまだ言っていなかった。この子たちも気を使って聞いてはこなかったんだろう。


私は、話すべきなのかもしれない。



私はポテトを食べながら、あの日から今日まであったことをゆっくり話し始めた。
そして、この子達には話しておきたかった、私が人を好きになれない理由も、添えて。


友人達は携帯もいじらず、ポテトも食べず、ただ私の話を真剣に聞いてくれていた。


そして、話が終わる。
すると、2人も私の手を握ってきた。



「徒野」

「なに?」

「お疲れ様」

「1人でよく頑張ったね」



よしよしと頭をなでられる。
掴んでいたポテトが、霞む。


あ、泣いてるのか、私。



気づくと次から次に涙がでてきて。
友人達は微笑むと、私にハンカチを貸してくれた。



「あんたが人を好きになれない…いや、なりたくないのも無理ないよ」

「そうだよ。そんな最低な男…もし会ったらぶん殴ってやるから」

「はは、頼もしいわ」



友人達は元彼にそうとうイラついているようで、1人の友人なんて貧乏ゆすりがどえらいことになっている。



「だから、荒北くんのことは、好きになれないの?」

「う、ん…多分」

「…でもさ、私ずっと思ってたんだけど、棗荒北くんのこと、本当に好きじゃないの?」

「え?」

「だって、友達でいようってあっちに言われて、苦しかったんでしょ?」

「…う、ん」

「それさ、自分が周りの女の子と、変わらない存在になるのが嫌だったんじゃないの?」

「えぇ?」

「確かに、そうかも。
それにキスだって許可なくされたわけでしょ?いくら友達でも、普通はもう話したくもないでしょ」

「それは、荒北だから―」

「「ほらそこだよ!!!」」



ビシッと指を指された。
そのポーズはさながら、東堂くんのポーズと似ている気がする。



「質問します。
荒北くんに対し、鼓動が早くなったりしたことはありますか。」

「ん、ある、かも」

「他の人より荒北くんといた方が楽しいと思いますか」

「それはある」

「キスをされて、荒北くんのことを気持ち悪いと思いましたか?」

「それはない」

「荒北くんを他の人以上にかっこいいと思った事はありますか?」

「あいつふつーにかっこいい、と思う」

「え、それはない。
…では最後に、荒北くんと友達に戻ると聞いて、辛かったですか」

「ん…苦しかった」




質問を聞き終えた友人達はふむふむと頷く。
これで何がわかるっていうんだ。


私は少しだけあまったベプシをズズズ…と飲み干す、と。
友人達がズバリ!といってまた指を指してきた。



「棗さん、あなたは」

「荒北くんに、恋をしています」

「ぶふっ!!」

「「きたなっ!」」



あまりの言葉にベプシを噴出してしまった。
友人の顔にかかった。すまん許せ。



「なんで!私が!荒北に!?」

「わかった落ち着け。とりあえず口からこぼれているベプシを拭いてください。」

「私の顔にかかったベプシも拭いて下さい」



友人の顔を拭いてから、自分の顔をふく。
それを確認してから、友人はあのねと口をひらいた。



「今の質問の答え、明らか私は荒北くんが好きですっていってるようなもんだからね」

「てか荒北くんかっこいいって、顔はアウトでしょ」

「え、なんで。顔も性格も良いよ」

「「盲目じゃないですか…」」



友人達はあきれたようにため息を吐く。
なんだ、何なんだもう。



「棗、あんたが恋をしたくないのも無理はないよ。
だけどね、踏み出そうとしている足を、自分が止めちゃダメなんだよ」

「…べつに、荒北はそんなんじゃ…」

「棗、大切なものは、大切にしないとなくなっちゃうんだよ」

「―…。」

「好きっていう気持ちを見ないフリして、自分に嘘ついて、そのせいで失うなんて、そんな残酷なことってないよ。過去ばっか、見てちゃだめだよ。

一番の壁は、自分の心だよ」



いつもふざけている友人達は、いやに真剣な目で私を見てそういった。


私は、動けないでいた。




「ゆっくりでいい、ゆっくりでいいから自分の気持ちと向きあってみて。
棗は、きっと前を向けるよ」




2人は私に向かって、静かに微笑んだ。




ガヤガヤとうるさいはずなのに、私の耳には何の音も入ってこなかった。










*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ