one more time

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私は、また授業をサボった。
どこを目指すわけでもなく、ただ広い校舎を走った。

先生に怒られるんじゃないかってぐらい走ったけど、幸い先生には見つからなかった。


たどり着いた場所は、ひとつの飼育小屋。
初めてきた場所だった。



荒い息を整えつつ、私は小屋に近づく。
そこにいたのは、ウサギだった。


長い耳をピンと立てて、急に現れた私をジッと見ている。



「……かわいい」




こんなときでも、動物を見ると私は笑顔になってしまう。
小さい鼻をヒコヒコさせながら、うさぎは裂くまで近づいてきた。

触れるほど柵の穴は広くないので、私はただジッとうさぎを見つめた。



「私は、お前より行動力がないかもしれないね。
お前は見ず知らずの私にも、こんなに平気で近寄るのに」



言ってはいけないことを、また言ってしまった気がした。
荒北の顔が、また頭から離れない。

前にもこんなこと、あったなぁ。





「私、傷つけてばっかりだなぁ…。」




人を好きになることを恐れるあまり、
私は大事な人を傷つけすぎた。


これじゃ、友達ですらないじゃないか。





一時間目を鳴らす鐘が、鳴り響いた。












































*******














片手にはにんじん、もう片手にはパワーバー。


俺は昼休み、お気に入りの場所に来ていた。



ごく数人しか知らない、俺の場所。
俺の大好きな場所。



俺が飼っているウサギが待っている、飼育小屋。





「ウサ吉、今日もにんじん持ってき―…ん?」






顔を上げ小屋を見る、が、そこに人影があった。
制服を見るからに、女子生徒である。


後ろ姿に見覚えは、ない。
俺のクラスの人間じゃないのか?




「なぁ、おめぇさん誰だ?」

「っうわぁ!!」



そいつはかなりびっくりしたようで、思い切り立ち上がった。
どうやら寝ていたようで、ボーっと俺を見た後、ハッとしたように声をあげた。



「えー…と、新開くん!」

「あれ、おめぇさん確か…」



振り向いた彼女の顔は見たことがあった。
たしか…靖友が好きな女の子だ、尽八があれだあれだと指を指し教えてくれた気がする。



「荒北と東堂くんと同じクラスの、徒野棗。」

「あぁそうだ!徒野さんだ!」

「知ってたんだ。よろしくね」

「あぁ、よろしくな」



ふわりと徒野さんは笑って、またウサ吉のほうに向かって座る。
俺もウサ吉に用があったので、とりあえず隣に腰掛けた。




「どうして、新開くんここにいるの?
まだ授業中じゃ…」

「いや、もうお昼だぞ」

「え……えぇ!?お昼!?」




徒野さんは自分の腕時計で時間を確認すると、うなだれた。
まさか、そんなに長い間ここで寝てたのか?





「どうしよ…そろそろ出席日数やばい…」

「まぁ、大丈夫じゃねぇか?俺もやばい」

「そうかなぁ、大丈夫だよねぇ」





徒野さんは1つため息をついた後、俺にそういえばと話しかけてきた。
あ、はっきり顔みたけど、可愛い。




「このウサギ、新開くんのウサギなの?」

「あ、あぁ…ウサ吉っていうんだ。
ほぅらウサ吉、にんじんだぞ」



ボーッとしていた意識を引っ張り戻し、俺は小屋に向かってにんじんを差し出す。
するとウサ吉はそれをもひもひと食べ始めた。
その光景を見て、徒野さんは笑う。



「かわいいね、ウサ吉」

「あぁ、そうだろ?俺もこいつが大好きなんだ」

「そっか。よかったね〜ウサ吉。」

「触るか?」

「え、いいの?」

「あぁ」




ウサ吉を小屋から抱きかかえて出す。
徒野さんの目は、キラキラと輝いていた。
俺はウサ吉を抱えたまましゃがみ、徒野さんの触りやすい位置までウサ吉を下ろす。



「う、うわぁ〜!やわらか!小さい!」

「はは、動物は好きかい?」

「もう大っ好き!家にも犬いるんだけどね、それがもうかわいっくて!!」




徒野さんは興奮気味に、飼い犬の話をし始める。
俺はその犬の話をする徒野さんがかわいいなと、思った。




「そんな好きなら、触りに来なよ。
俺、昼は大抵ここにいるから。」

「え、本当?じゃあ、来ようかなぁ…いい?」

「あぁ、勿論」



俺が笑うと、徒野さんもニッコリと笑う。
太陽みたいな笑顔に、俺は見惚れてしまいそうになるが、言葉をつなぐ。




「それより、どうしてこんな所で寝てたんだ?
授業、さぼったってことだろ?」

「あ…そ、れは…」

「?」



徒野さんは口ごもる。
なんだろ、寝坊とかか?それなら俺もよくするから、恥ずかしいことなんかねぇのに。




「ちょっとクラスで、色々あって…
居辛くなって、逃げちゃってさ…そんで走って走って、着いた場所がここだった」

「クラスで?何があったんだ?
―…いじめ、か?」

「いや!全然そんなんじゃない!
…ほら、よくあるじゃん。男女間の問題というか、周りの囃し立てとか、さ。」

「あぁ、なるほど。
徒野さんがキレるぐらいしつこかったら、それは、キレてもいいと思うぜ」

「ん、そうかな…。
でも、その噂された人まで傷つけるような言葉言っちゃったし、皆がひくぐらいキレちゃったし…。」



噂の相手は、誰だろうと俺は考えていた。
きっと靖友らへんだろうな。あいつに彼女…ましてや顔のいい徒野さんみたいな彼女できれば、そりゃ囃し立てるよな、この年代の男は。


だが徒野さんは酷く参っているようで、俺は、次にどうすればいいかを考えた。




「大丈夫さ、皆やりすぎたと思ってる。
男ってのはガキだからさ、叱られれば反省する生き物だ。」

「そ、かなぁ…」

「あぁ。
それに、その噂の相手も、きっと突発的に言っちまったことだって、ちゃんと分かってるさ。」

「………ん」




他のヤツラは分からないが、きっと靖友なら大丈夫だろう。
傷ついたとは思うが、そういうところも理解してくれるのが靖友の優しさだ。




「もうすぐ昼休み終わるし、俺と一緒にクラスに行こう」

「え、え!?いいよそんな…悪いし」

「気にすんな!困ったときはお互い様だろ。
また何かあったら、ここに来いよ。
ウサ吉にも会えるし、お互い相談会の場にしよう」

「……新開くん」

「ん?」




「……―ありがとう」





俺の心臓が、ドクリと跳ね上がった。


先ほどの元気な笑顔と違い、静かに微笑んだ彼女の顔からは、彼女そのものを現しているような空気がぶわっと俺を包み込んだ。



バクバクと心臓が高鳴る。
顔が、あつい。





「私、ちょっと行きたいところあるんだけど、寄ってもいい?すぐ終わるから」

「……」

「?新開くん?」

「――っぁ、あ…ぁ、うん、行こう」

「ありがとう!」



徒野さんは鞄から鮭缶を取り出すと、歩き始めた。
俺の足は、浮いたみたいにふわふわだった。

















*

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