one more time
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先日
ひょんなことから荒北とお出かけすることになってしまった徒野棗です。
とうとう、その約束の日。
日曜日がやってきて参りました。
待ち合わせは、いつものあのコンビニ。
さすがに近くの寮に住んでるんだし、駅で待ち合わせってのもねぇ。
ただいま、10時。今日はしっかりと起きる事が出来た。
約束の時刻までまだ時間があるし、今から色々準備をしなければならない。
いや、でも相手は荒北だ。友人。
そんなに気合を入れることはないだろうと思いつつも、私の机の上には化粧道具が広がっている。
化粧するなんて、何ヶ月ぶりだろう。
友人達と遊ぶときしか化粧なんてしなかったから、正直やり方忘れてしまっていないか不安である。
髪の毛も、軽く巻いた。服も、ちょっと女の子っぽいやつ。カジュアルめの。
「―乙女か!!」
思わず持っていたファンデーションのパフを握り締めながら叫んでしまった。
いや、これは違う。きっと私の中の女子力が、男性だから、異性だからと本能的にこういう行動をさせているだけに違いない。
私は自分に言い聞かせ、化粧を進めていく。
荒北って、そんなに化粧濃いの好きじゃなさそうだなぁ…かといって男らしすぎるのも、微妙そう。
マスカラはしなかった。皆に長いと評判の地まつげがある。
シャドウは今の季節らしい明るい色、ファンでもし、チークは濃くならないように、オレンジにしてみた。
……うん、中々女子らしいんじゃないか?この顔。
いつもの芋くさい感じとは違う。
服も身にまとい、全身鏡でチェックする。
あぁ、こんなに女の子らしいことしたのいつ振りだろう…女子としてどうなんだ、私は。
鞄に荷物をつめ、時計を見る。
そろそろいかなくては。
私はいそいそと、部屋から出た。
*********
約束まであと10分、少々急ぎすぎてしまったらしい。
コンビニが見えてきた。少し中で休もう。
そう思いながらコンビニに近づくと、入り口には人が。
荒北だった。
あれ、私の方が早いと思ったんだけどなぁ。
「荒北」
「アァ、ハヨ。遅刻しなかった……ネ…」
「でしょ?ちゃんと起きられたんだよ。
……て、何で固まってるの?」
私が声をかけると、気づいた荒北は近づいてきた。
が、何故か私を見て固まってしまった。
え、どっか変?なんかついてた?化粧も服も似合わない!?
「え、え、荒北!私なんか変!?」
「あ、アァ!?」
「やっぱ女子っぽい格好とか似合わなかったかなぁ…スカートとかスースーするから私服であんまはかなくて…」
「………ってんよ」
「え?」
「〜〜…っだぁから!!似合ってるっつってんだヨ!!」
「!!」
顔を真っ赤にさせながらそう叫んだ荒北は、舌打ちを1つしたあと、足早に1人で歩いていってしまった。
突然の言葉に呆けてしまっていた私は、直ぐに荒北のあとを追いかけた。
心臓の鼓動が早いのは、きっとびっくりしたからだろう。
お出かけ、スタートしました。
********
「すごい自転車の量!部品も多い!油くさい!!」
「ウッセェはしゃぐな!!」
「いやだってすごいよ!私サイクリングショップとか初めてだし!」
電車に揺られ、隣町のサイクリングショップへと来た私達。
初めてだった私のテンションは、マックスだった。
元々スポーツ関係は好きだったから(観る専で)、こういうスポーツショップ系のところに来るとテンションがあがってしまう。
荒北はガキあやしてるみてェと呟いたあと、自身の目的の場所に向かっていった。
私はというと、並べられた自転車を見ている。
ロードの種類のところまでいくと、より一層テンションがあがった。
自転車部の人たちは、これに乗ってるのかぁ…よくあんなにもスピードが出せるものだ、凄い。
1つ1つ分からないなりにも、真剣に見ていく。
メーカーごとにタイプや色が違ったり、本当に細かいところまで味がでているというか、なんというか。
そして私の足は、1つの自転車の前で止まった。
「わぁ…綺麗な色…」
そこには、綺麗な青空の色をしたようなロードバイクが置いてあった。
自転車の横には、ビアンキ(チェレステ)と書かれた札。
私はそのロードバイクの綺麗な色から、目が離せなくなっていた。
チェレステっていうんだ、この色。
本当に綺麗だなぁ。
この色、何かに似てる
この色は……
「あらきた―」
「呼んだァ?」
「どわぁ!!」
真後ろから声が聞こえ、おっさんみたいな声を出しながら私は軽く飛んだ。
荒北はおっさんかヨと言いながらクツクツ笑っていた。死。
「なに見てたワケェ?」
「ん、このロードバイク」
「アァ?ビアンキじゃん、しかもチェレステ」
「そう、すごい綺麗な色だなって。
青空みたいで、澄んでて…」
「ハッ、見る目あるじゃナァイ」
「でしょ?荒北もそう思う?
だからなのかなぁ…この色、すごく荒北みたいだなって思った。」
「ア…?」
「私の中で、荒北って青っていうか、このチェレステみたいに澄んだ青のイメージがあったから」
「―――バッ…カじゃねェ!!?」
「いだっ!!」
拳骨を私にくらわせた後、荒北はズイズイとレジの方に向かってってしまった。
なんだよぉ、殴る事ないじゃないか。本当に思ったことなんだから。
私は痛い頭をさすりながら、レジへと向かった荒北のあとを追いかけた。
*