one more time
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まだ心臓がうるせぇ。
バクバクと、いつもより早く脈を打つ。
久々に、あいつと喋った。
もう喋る事などないのかと思っていたが、あそうでもなかった。
それに、案外すらすらと話せるもんだった。
きっと、あいつのおかげなんだろう。
そうだ、こうやって元通りになっていければいい。
だからいつものように、あいつの頭に触れた。
気持ち的には、平気だった。
だが、あいつが…徒野が予想外のことしやがっからァ…反則だろ、あれ。
普段犬みてぇなのに、猫のように擦り寄ってきたあいつが可愛すぎて、また何か口走っちまいそうになって、逃げた。
丁度昼休みも終わりそうだ。
どんだけあそこにいたんだろうな、俺。
(今日は、まァまァいい日。)
柄にもなくそんなことを思った。
今すぐにとはいかないが、ゆっくりこのあいつへの想いを消していき、今まで通りに戻ろう。
俺達は、その方がいい。
「ねぇ、荒北くん」
「アァ?」
「4時間目、サボったの?」
急に、隣から話しかけられた。
この前の席替えで始めて隣になったやつ…名前、なんだっけか。
以前クラスの男子が、この女がかわいいだのクラスで一番だの騒いでいたのしか覚えていない。
まァかわいいとは思うが、どこか胡散クセェ臭いがするこの女を、俺は好きにはなれねェでいた。
「アァ?関係ねェダロ」
「だって、あの後先生来たのよ。
荒北どこだーって、探してた。」
「ハァ?ンだよそれ…ぜってェ呼び出しくらうじゃねェか」
「この課題放課後までに提出すればいいらしいから、」
「コレェ?」
机の上にあったプリントを裏返すと、前回までの復習と書かれたプリント。
あの先公、こんな面倒くせェ課題だす野郎だったか?メンドクセェ…
「私の見ていいから、やっちゃいなよ」
「ア?イラネ、東堂にでも見せてもらう」
「いいから、はい!使って!!」
「あってめ………」
俺の机に半ば無理矢理自分のプリントを置いたその女は、嬉しそうに笑っている。
とりあえず礼を言ったが、何だこの女。
まァ自分でやる手間が省けたので、ありがたく写させてもらうことにした。
そこには綺麗な字で問題が解かれている。
ふと名前のとこに目がいったので、見てみる。
赤坂萌と書かれていた。
あぁこいつンな名前だったのか、一応覚えとくか。
LHRが始まり、担任の話が続く。
この授業はわりとゆるいので、俺は課題をやっていた。
俺はカリカリとプリントを写す。
しっかし本当に綺麗な字だな、こいつ。
見やすい。
そういやァ徒野にノート借りたとき、
所々漢字間違ってたり、無駄に落書きあったり、寝ぼけてたのか字がクソみてェになってたり、お世辞にも全体的に綺麗とは言えねェノートだったな。
あの不気味な猫の絵、まだ描いてあンのか?
あいつのノート。
そんなことを頭の片隅で思い出していると、気づけばプリントは終わっていた。
あぁ、疲れた。
「アー…おわったァ…」
「お疲れ様!あとは提出するだけだね」
「うお、急に話しかけんな」
「あぁ、ごめんね」
俺が周りに聞こえるか聞こえないかぐらいの声で呟くと、隣の赤坂が反応してきて、思わず肩を揺らした。
てェかよく聞こえたなこいつ。
そして俺はふと、疑問に思った事を口にした。
「この課題さァ、さっきの授業で提出するはずだったんじゃナァィノ?」
「うん、そうだよ。
でも放課後までいいって」
「お前、ンで終わってんのに出さなかったワケ?」
「そ、れは…荒北くんが、困るかなと思って。
写しちゃったほうが、早いでしょ?」
「アァ?いやそうだけどヨ…」
「じゃあ私の分と荒北くんの分一緒に出しちゃうから、もらうね」
「え、あ、オイ!いいヨ俺が…」
「いいの、荒北くんは部活あるし、ね?」
赤坂の強引さに、俺は奪われたプリントも取り返すことが出来ず、またドーモと礼をいってプリントを渡してしまった。
初めて喋ったのに、なんだコイツのおせっかいさは。
(そういやァ、前もこんなことあったヨネェ)
前の席のとき、サボった日があった。
だけど今日みてェに出さなければいけない課題があって、それが結構成績に関わるやつだった。
俺はその日部活までの授業全部休むつもりだったが、まずいと思ったのか徒野はわざわざ電話までよこして、いいから来いと部屋で寝てたのに俺をたたき起こした。
時刻はすでに3時半、締め切りは5時、部活が始まるのは4時半。
課題の量は、少ない。しかし内容はバカじゃねェのってぐれェ難しいやつ。
正直諦めた、だけど徒野が自分が一緒に解くと言って、放課後居残ってくれた。
答え教えろといっても、自分で解かなきゃ身につかないといわれてしまったが。
しかし徒野の協力あってか、無事締め切り時刻はもちろん、部活にも間に合った。
徒野は俺の課題をひったくると、部活ファイト!と言って廊下を走っていっちまったっけ。
後から聞いた話で、あの日あいつ、バイト遅刻して怒られたっつーのをあいつのダチが話していた。
ホォント、自分のことより人のこと、
どこまでお人よしなんだヨ、お前。
そういうとこが、俺は好きだった。
「そういやァあのお礼…まだしてなかったなァ」
ベプシでイイか。あいつも好きだし。
先公の話を右から左に流しつつ、俺の頭の中はあいつに何を驕ろうかということでいっぱいになってしまっていた。
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