one more time

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翌日。
体育の時間だったが、女子は座学となってしまった。

なんでも、体育館を借りていたらしいが2年生のガイダンスとかぶってしまい、使えなくなってしまったらしい。ちくしょう。


大人しく座学に勤しむ私達女子。
やはり男子がいないと、普段授業中もうるさい教室内は、今は先生の声と黒板を走るチョークの音だけが響いている。


さすがに飽きてきてしまった私は、携帯をいじるわけでもなく、ただ外で楽しそうに体育をしている男子たちを眺めることにした。


種目はソフトボールらしい。
あぁ楽しそうだな、私もソフトボール好きだからやりたいなぁ。


バッターボックスに立っているのは東堂くん、マウンドに立っているのは中野くんだ。
確か中野くん元野球部だから、強いんじゃないかなぁ。

その私の勘は当たったようで、東堂くんは中野くんの球を綺麗に空振りした。スリーアウトチェンジ。


東堂くんにも苦手なことあるんだなぁ。
思わず笑みがこぼれる。


その東堂くんはセカンドのポジションへ。
バッターは中野くん。
投手は誰だろう、目を凝らしマウンドに立つ人物をじっと見る。




「……え」



小さく声が漏れた。良かった、周りには聞こえていないらしい。



マウンドに立っていたのは、荒北だった。


あいつ、野球得意なのかな。
なんか、率先して投手ポジションにいかなさそうなヤツだから、意外だった。


私は先ほどより食い入るように外を見る。
さすがに素人じゃ、中野くんには勝てないだろうなぁ。

そんな中、先生のプレイボールという声が響く。
中野くんが構える。荒北が足を引く。




そして、投げた。





「―…!」





バシンッと良い音が響く。
ボールは中野くんが打つことはなく、キャッチャーミットの中に収まっていた。


ソフトボールなのに、あんな早く、しかも綺麗に投げられるんだ…あいつ。
見事空振りをとった荒北に沸く歓声、そして心なしか楽しそうな荒北の笑顔。


その後も次々と空振りをとっていき、バッターは三者凡退。
先ほどよりも早くチェンジした。


私は自然と荒北を目で追う。
仲間とハイタッチを交わし、グローブを置いてからバッターボックスに立つ荒北。


投手は勿論中野くん。彼は先ほどの打席が悔しかったのか、東堂くんたちに投げたような球ではなく、かなり本気の球を投げる。


しかし荒北は、それをも打ってしまった。
ホームランである。




(…かっこよ)



素直にそう思ってしまった。
あいつ自転車だけじゃないんだ、得意なの。


もし箱根学園に野球部があったら、エースになれたんじゃないのかな。




先生に外を見ていることがばれてないかちらりと黒板を見るが、先生はお経のように教科書を読み上げているだけだった。


私はまた校庭のほうに向き直る。
もうチェンジしただろうか、荒北はどこにいったんだろう。そう思い探す。
あ、見つけた。


が、




「―ぁ」




荒北を見つけた瞬間、その荒北と目がばっちり合ってしまった。


まさかこんな遠距離から目があうと思っていなかった私は、急な出来事に固まる。
あっちもびっくりしているのか、固まっている。


しかしバッターがアウトになったところで、ゲームセットの声が響き、収集がかかったようだ。

荒北はぱっと目をそらすと、そっちに戻っていった。



目があったのはほんの数秒だったのに、私にはもっとずっと長く感じた。





心臓が、また激しく鳴り響く。











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