one more time

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荒北とは、あれから会話できていなかったから。


前までしょっちゅう消しゴムを落とし拾ってもらっていたが、今は落とさなくなった。
絶対に落とすまいと思い物を机の上に陳列させていたから。



なーにが気まずくない、だ。
完璧に気まずがっているじゃないか、あほか自分。



そんな中、LHRでそろそろ席替えするかという先生の突拍子も無い提案で、席替えをすることになった。


私は窓際の一番前、荒北が廊下側の一番後ろという、良くも悪くも私たちは端と端の席になった。

また近くなったらどうしようと思っていたので、正直ホッとした。


しかしこれで、完璧に元の関係に戻るという機会を失ってしまったわけだ。アーメン。



「はぁ…」

「ため息などついてどうしたのだ!徒野さん。」

「げ、東堂くん」

「げ、とは何だ!失礼な!!」



埋まっていなかった隣の席を見ると、東堂くんが座っていた。

え、東堂くんが私の隣?―いやまさかな、きっと席が近いから、たまたまいた私に話しかけたんだろう。
さー東堂くんの席はどこかなー?そう思い探すが、他の席は全て埋まっている。おまけに席替えのクジ引きは終了していた。



「これから数ヶ月、よろしくな徒野さん!」

「……はい」




私の隣は、荒北から東堂くんに進化した。
あぁぁまじか…正直あの事があってから、東堂くんを少し苦手意識してしまっている。
それにあの日からやけに東堂くん話しかけてくるし、何なんだろう。

変わったやつだから、興味でもわいたのかな。



「徒野さん」

「ん?」

「荒北とは仲直りしたかね?」

「ぁ!?ゲフッゴホッ!!」

「俺の周りはよく咽るし噴出すな…」



東堂くんの言葉に、私は咽た。
なんだ急に、なんだこの人。



「仲直りって、別に喧嘩してるわけじゃ…」

「だが、最近話していないだろう?」

「そりゃ、そうだけど…」

「それでは俺の出番か?俺のトークでお前達を仲直り―」

「いい、絶対いい。やめてこじれそう。」

「なっ!そんな事ないぞ!!俺の技術は―」


「東堂、うるさいぞ」



先生の一喝により、東堂くんは小さくはい…と返事をした。
私はもちろん他の生徒も声を出して笑った。
東堂くんは苦手だけど、いじることに関しては飽きない。
まぁまぁ、良い席だったのかな?





そんな私と東堂くんを、1人が見つめているとは知らずに、私はそんなことを考えていた。










***********




「いいな〜棗、東堂くんと席となりで」

「ほんとだよね〜うらやましい」



お昼。
いつものように机をくっつけて、私達はお弁当の中身をつまんでいっていた。

友人達とはまた席が離れてしまったが、友人達はそんな事より私が東堂くんと席が隣だということの方が重大事のようだ。
私たちの友情はどこへ。



「でも東堂くんうるさいだけだし」

「きー!この贅沢者!!」

「東堂くんの吐いた息吸う息を共有できるだけで良いの!」

「限りなくアウトに近い発言してるよ」



ヒートアップする友人をなだめる。
そんなに中毒性がある人とは思えないけどなぁ、東堂くん。
私が知らないだけなのかな、彼のことを。



「ねぇ東堂くんのどこが良いの?」

「あらあああ棗ちゃん、気になっちゃう感じ??」

「東堂ファンクラブの仲間入りしちゃう感じぃぃ??」

「やばい殺意で人殺せそう」



私が静かに青筋を立てると、友人達は知ってか知らずか、まずはね!と紙を取り出した。
そこには『東堂尽八のちょっと良いとこ見てみたい』と意味の分からないキャッチフレーズが書かれた用紙であった。



「東堂くんは自転車部で一番に山を登るのが早い、そしてトークも切れる、さらに美形!」



あれ、どこかで聞いた事があるぞそれ。



「もーあの美形はやばいわね。ほんと。」

「いやいや自転車乗ってるときの東堂くんなんてやばいわよ。私倒れそう」

「私を置いていかないで、二人とも」



私を置いてヒートアップする友人。
あぁごめんと私に向き直った。



「あとなんといっても、東堂くんは優しいのよ。特に女の子には。
どんな時に話しかけても嫌そうな顔1つせず、笑顔で話してくれるの!それが最高に良い!」

「そうそう、人懐っこいところすごい良いよね〜」

「ふーん…」



女の子には特に優しい、か…
確かに嫌そうな顔をされるより、笑顔で話される方がいいか。


でも私はそんな平等的な優しさより、自分だけに見せてくれる笑顔とか、態度とか、そっちの方が好きだったりする。


ぶっきらぼうで、口が悪くて、でも本当は凄い優しくて…



「……ん?」



まて、それって―




「ねぇ、ちょっと棗聞いてる!?」

「ぅぇえ!?」

「まーた話聞いてなかったのね…」

「あ、と…ごめん」

「いいよ、いつもの事」



友人に意識を現実へと引き戻された私。
友人たちは尚も、東堂くんについて熱弁している。



私は先ほどまでの意識を完璧に遮断し、友人たちの話に耳を傾けた。
考えては、だめなような気がしたから。











*

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