one more time
□08
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教室はうるさい。
でも、私の目の前の東堂くんは固まっている。
訳が分からないという顔、本日2回目である。
東堂くんでもこういう顔するんだなぁ。
「な、なんだそれは。どういうことだ。」
「そのまんま、だよ。
私はもう人を好きになれない…というか、好きになりたくない」
「なぜだ!何故そんなこと…」
「さぁ、何でだろう」
私がニッコリと微笑めば、東堂くんはますます顔を歪ませた。
訳わかんないよねぇ、華の女子高生が笑顔で人を好きになりたくないですなんていってたら。
でもごめん、紛れも無い事実なんだよ。
私はもう何をされても、だめみたいだから。
すんでの所で、先生が教室に入ってきた。
気づけば東堂くんの代わりに、荒北がもう自席に座っていた。
あぁ、東堂くんこれが秘密事ってわかるかなぁ。
私これ、人に喋った事ないんだけど。
特に荒北には、内緒にしていてほしいな。
もしバレたら、嫌だなぁ。
「…なんで、嫌なんだろう。」
周りに聞こえるか聞こえないかの声で、私はぼそりと言葉を口にした。
「荒北」
「ンァ?なんだよ東堂」
今日は俺が一番早く部室に来た。
福チャンは部長会議だし、新開も委員会がどーたらで、遅くなるらしい。他の学年のヤツラは、まぁこんな授業終わってすぐ来ることはないだろう。
普段ガヤガヤとした部室で1人静かに着替える。
すると、その静寂を破ったのは東堂だった。
その顔にいつものアホヅラはなく、奇妙に思ったがすぐに声を掛けられた。
なんだ?
「徒野さんのことだが」
「ブッ」
「うわ!汚いぞ荒北!!」
急に徒野の名前を出すもんだから、思い切り吹いてしまった。
俺は悪くねぇ。
「徒野がなんだヨ。てかお前徒野と話したことあんのか?」
「あるぞ。今日話した」
「こりゃまたタイムリーだな」
「お前の事を聞いたのだ。」
「ハァ!!?」
思いもしなかった一言。
俺の叫びを流し、東堂は部室の真ん中にあるベンチに腰掛けた。
待てまてマテ。
俺のこと?どういうことだ??俺のことってナニ???
「お前、徒野さんに告白したのか?」
「アァ!?な、なんでンなこと聞くんだヨ!!」
「その動揺っぷり…図星か」
「ち、ちげェヨ!!大体なんでテメェがンなコト知って…―」
「徒野さんはやめた方がいいと思うぞ」
「……アァ?」
何を言うかと思えば、何だそれ。
こいつ徒野と喧嘩でもしたのか?それともなんだ、自分のファンじゃねぇからキレてんのか?―いや、こいつはそんな性格は悪くねぇか。
じゃあなんだ、自分も好きになったとか、か…?
「ンでだヨ、まさか…お前も好きになったワケェ?」
「なっ違うわ!確かに美人だとは思ったが…俺が言いたいのはそういう事ではなくてだな!!」
「あれ、先輩たち喧嘩ですか?」
東堂が立ち上がったところで、部活一の不思議チャン真波が部室に入ってきた。
続いて泉田、黒田…他の後輩も何人も入ってき、静かだった部室は一気にガヤガヤとした空気に包まれた。
俺と東堂は必然にその会話をやめ、今日のメニューの話に移る。
それから福チャンも新開も来て、練習は開始し、俺達はいつものようにペダルを回す。
だが、俺の頭から東堂の言葉が離れることはなかった。
『徒野さんはやめた方がいいと思うぞ』
東堂、テメェあいつから何聞いたんだよ…
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