one more time

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俺の名前は東堂尽八。


登れる上にトークも切れる、さらにこの美形!
天に三物を与えられし俺は、この箱根学園の女子の注目の的である。


今日も今日とて俺はなんてこんなに美形なんだろう…
部室のロッカーにある鏡を見ながら俺はそう思った。
いや、口にも出ていたらしい。


ガラガラガラと部室の扉が開いた。
む、荒北か。



「あれ、靖友どうしたんだ?元気ないな」



隼人がそんな事を言うもんなのでよーく荒北を見ると、いつもの鋭くつり上がる目はどこかシュンとしていて、さながらそれは叱られた猫のような風であった。



「荒北、どうしたというのだその顔は。
俺のあまりの美しさに億劫になってしまったのか?」

「…………。」

「…………おい、荒北?」



いつもなら食って掛かる荒北は、俺の顔をただジッと見つめるだけだった。
正直かなり恐ろしい。
いつ右ストレートもしくは右フックが吹っ飛んでくるかわからない。

すると、荒北はその重たい口を開いた。



「俺がテメェぐらい顔整ってりゃァなァ…………」




重症だぁぁぁぁぁ!!!!

















********




「徒野さん」



荒北が狂った次の日。
俺は事の原因であろう人物に声をかけた。

徒野棗。
荒北に直接聞いた訳ではないが、分かりやすすぎる奴の思い人は、きっとこの女子であろう。


そして奴が狂ったのは、徒野さんが何かしら絡んでいると俺は推測した。


だから荒北がどこかにいっていない今、こうして彼女の元に俺は現れた。
2年間クラスは一緒だが、正直話したのは初めてだった。
俺に話しかけない女子など、本当に珍しい。

荒北を引いても、俺は以前から彼女に興味があったのだ。



「単刀直入に聞こう、荒北と何かあったのか?」

「……え、」



彼女の動きが止まる。
教室は昼休みということもあってざわついていたので、誰も俺達の話を聞いている者はいなかった。



「荒北の様子が変だったのだ。
だから、君が絡んでいるのではないかと思ってな」

「……なんで、私が?」

「もう知っているかもしれないが、荒北の好きな子は君だろう。」

「……」



彼女はだまる。
過剰な反応をしていないということは、やはり知っているのだな。

と、いうことは…奴は告白をしてフラれたということか。

仕方ない……俺の力をもってお前たちをくっつけてやろうではないか。



「徒野さん、荒北はああ見えてすごい良い奴だぞ。
確かに目付きは鋭いし顔もカッコいいとは言い難い。
だが自転車と仲間に対する情熱は計り知れないほど持っている男だ。
それに根はとても優しい。きっと徒野さんのことも大事にしてくれるだろう」



俺が奴の良いところをあれよあれよという間にあげると、彼女は段々笑顔になっていった。

ふっ……さすが俺。今日もトークが完璧である。



「知ってるよ、私。
荒北がいい人なのも、仲間思いなのも、自転車が大好きなのも。
きっと、私のことを大事にしてくれるのも」



彼女は笑顔でそういう。
そんなにもあいつの事をわかっているのに、なぜ彼女は付き合おうとしないのだ?

俺にはわからない。



「じゃあなんで付き合わないんだって顔してるね」

「あぁ……俺にはさっぱり理解できんのだよ。
そんなにも奴のことを知っているのなら、奴の良さを知っているのなら、なぜダメなんだ。」



すると彼女はさっきの笑顔ではなく、
儚げな笑顔を浮かべた。







「私ね、もう誰も好きになれないの」














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