one more time
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「それで、棗は誰派なの?」
「……え?何が?」
「だーめだこいつまた話聞いてないよ」
昼休み。
机をガタガタとくっつけ私と友達2人でお弁当を食べていた。
何かの話題で盛り上がっていた彼女達に話を振られたが、残念ながら話を聞いていなかった私にはさっぱり。理解不能だった。
「だから、棗は自転車部の人だったら誰推しなの?」
「……は?」
びっくらこいた。
何の話かと思えば、そんな事か。
皆大好き恋バナ〜である。
「私は断然東堂くん派かなぁ〜ファンクラブも入っちゃった〜」
「私もー!でも最近新開くんもカッコいいなって思うのー!!」
「わかるー!!」
私そっちのけで話は進む進む。
そう、我が箱根学園自転車競技部は強いだけではなく、イケメンも多い。何故か。
その中でも東堂くんという私と同じクラス、もとい彼女達とも同じクラスの男子がいるのだが、
彼にはファンクラブも付いてしまっているほどの人気っぷりだ。
まぁ…本人もそんな感じだしなぁ。
ほら、今も廊下で何人もの女子生徒と写真を撮っている。
そういえば彼とは2年から同じクラスだったな。
話したこと、あったっけ。
「それでそれで」
「棗は?」
「え」
それきた。次は私だ。
期待に満ちたような彼女たちの目に圧倒される。
推しメンなんか…考えたことすらなかったな…。
「あ、でも私わかる!棗の推しメン」
「え、まじ?」
「え」
なんと、友人の1人がそういった。
私ですら分からない私の推しメンがわかるというのか、こいつは。
「ずばり!荒北くんでしょう!!」
「ぶっ!!」
「うわ!きたなっ!!」
思わず飲んでいたお茶を噴出してしまった。
もろにかかった友人、申し訳ない。
だがそれどころじゃないのよ!!
「な、なんで荒北!?」
「だって棗、荒北くんとすごい仲いいじゃない。すっごい仲良い」
「何故2回言ったし。
そりゃぁクラスずっと一緒だし、なんか席隣になることも多いし…ていうか友達だし!」
「「え〜????」」
ニヤニヤとした友人達の顔。
あぁぁ面倒くさい、どうしてこんなことになった。
「そっか〜3年も恋してるのか〜」
「かわいらしいですな〜」
「ちょ、勝手に話進めないでよ…」
「でも私、荒北くんも棗のこと好きだと思うけどなぁ」
「!?」
「あーわかるそれ!荒北くん棗と話してるときだけすっごい楽しそうだよねー」
「ちょ、そんなわけ…」
「あ〜照れてるかわいい〜」
「ちがうから、まじ違うから」
友人達の話の進むスピードははやい。
あれよあれよという間に彼女達の妄想は進んでいく。
友よ、張本人の私を置いていくな。
「棗は顔もかわいいし、性格もいいし、文句なしじゃない?」
「そうね〜棗モテるもんねぇ、ただちょっとおっさんくさいところはあるけど」
「ねぇ褒めるなら最後まで褒めて、ねぇ」
「むしろ荒北くんにはもったいないかもね」
「それな〜」
「ちょ、失礼だから…」
2人はあははと腹を抱えて笑っている。
私はもうどうすれば状態だ。
そのときだった。
「徒野ー」
「げ、荒北」
「「あららららら〜??」」
なんてバッドタイミング…空気読めこいつ。無理か。
何も知らない荒北はずかずかと私に近づいてくる。
友人達のニヤケ具合はもうマックスだ。
「な、なに?」
「アー…今朝の礼すっからァ、購買行こうぜェ」
「「今朝の礼!!?」」
「アァ?」
「ちょ、うるさい!荒北いこう!!」
完全に勘違いしている友人の叫び声に、さすがの荒北もびっくりしていた。
これ以上面倒くさいことになるのは嫌なので、説明は後にして荒北を連れて教室をでた。
もう…2人して勝手なことばっか言ってさぁ…
(大体私は、もう…)
人好きになることなんて
無理なんだから…
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