one more time

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私が通っている高校は、箱根学園。


自宅から片道2時間ほどもかかるので、
親には申し訳ないが寮生活をさせてもらっている。


なぜ私が地元の高校にしなかったかというと、
そういうことだ。
私の学校は田舎だったから、中学の大抵の人間がそこの高校に通うのだ。


奴もしかり。
だから私は変えた。

あいつに会わないような、遠い遠い箱根学園へ。



そんな私ももう高校3年生だ。
部活は…残念ながら入っていない。
バイト生活で、少しでも親の負担を減らそうとしているのだ。
まぁ、全然投資できていないが…


それに高3といったら地獄の受験生である。
まだ3年生になったばかりだが、一般で入学しようとしている人たちは、今からもう勉強しているぐらいだ。

私はどうしよう…



「オイ、徒野」

「あ、荒北おはよう」



めぐりめぐっていた思考は、とある声によって現実へと引き戻された。
声の主は、隣の席の荒北靖友だった。

彼とは三年間クラスが一緒だったか、正直最初は苦手だった。

目は鋭くて怖いし、変な頭してたし、よく先生やみんなにつっかかってたし…

だが自転車競技部という箱根学園の顔とも呼ばれる名門部活に入ってから、変わった。
口が悪いところは変わらないが、丸くなったというか…それから私も話すようになって、今ではもうすっかり仲良しである。



「何か食いモン持ってねェ?」

「あーあるよ。チ●ルチョコでいい?」

「オー全然。アンガトネェ」



きなこ餅のやつを取り出し、荒北の手のひらにちょこんと置く。
彼は種類を気にすることなく、ひょいっとその大きな口に放り入れた。



「朝練だったの?」

「そうだヨ。つっかれたァ」

「おつかれー。そんな貴方にはこの小さいアンパンもあげちゃいましょう」

「徒野チャン太っ腹ァ」



5個入りのあんぱんを1つだけ取り出し、これまた荒北の手のひらにのせる。
荒北はそれをまたさっきのお菓子ごとくペロリと一口でたいらげてしまった。



「ちょっと、もうちょっと味わって食べてよ」

「ッセ、腹減ってんだヨ。
にしても徒野って毎日なんか食いモン持ってるヨネェ。太るぞ」

「もう二度とあげない」

「アァ!?ッざけんなよこせ!」



荒北が叫んだと同時に教室の扉が開けられ、先生が入ってきた。
荒北は舌打ちをしつつ静かに自分の席に腰掛直す。
すると、今度はメモに何やら書いている。

そして、私の机に飛んできた。



広げてみる。





『謝るから、これからも食いモン頂戴ねェ』




思わず、笑顔がこぼれてしまった。








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