WE ARE HAKOGAKU!!
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昔から、女子とはあまり仲良くすることが苦手だった。
周りの女子のように皆で服を買いに行ったり、恋話をしたり…なんてことが苦手だったから。そんなことをしている暇があるのなら、一秒でも多くロードバイクに乗っていたかったから。
そんな自分の性格だったから、気付けば女子の友達は年々少なくなっていっていたし、そしてゼロになった。いたとしても、それはあくまでチームメイトで、友人とはまた違ったものだった。
だから私はここ最近、初めて女子の世界の恐ろしさというものを実感している。
「はぁ……」
今日も今日とて私は顔面やジャージに油を付けながらロードバイクのメンテナンスを行っていた。しかし私の頭の中には珍しくロードバイク以外の事柄が大半を占めていた。
何を隠そうそれは、最近の女子の嫌がらせなるものだ。あの恐怖の手紙から二週間が経ったが、それはもう恐ろしいほどヒートアップしていた。今日なんてせっかく早起きして作ったお弁当がぐちゃぐちゃにされていた。恐らくたまたま私が教室を離れているときにでも揺すったのだろう。
それだけではない。通りすがりの暴言は勿論、物を隠されたり女子の間で変な噂を流されたり、足をひっかけられるなんてことも多々ある。
陰湿で、まるで小学生がやるような嫌がらせだなと頭ではわかっていても、精神的には正直参っている。
自分のロードバイクもさすがに危険かと思ったので、ここ最近は部室に入れさせてもらっている。
いつまでこんなことしなきゃいけないんだ…。
先ほどついた溜め息から数分後、また大きな溜め息が私の口から出てきた。
「どうかしたか、棗。」
「寿一…」
顔を上げれば、寿一がいつもの顔で私のことを覗き込んでいた。鉄仮面と呼ばれている彼だが、その目からは確かに心配しているんだといわんばかりのオーラが溢れ出ていた。
言ってしまおうか。最近、寿一たちと関わるなと女子に嫌がらせを受けていると。涙を流しながら、苦しいと言ってしまおうか。
だけど、
「…なんでもない!最近眠気がとれなくてさ〜」
「そうか。顔色が少し悪い、睡眠はしっかりとったほうが良いぞ」
「うん、ありがとう寿一」
あのね、そう開こうとした口をつぐみ、笑顔を向けながらなるべく明るくそう答えた。
言えるわけがないのだ。だって彼らには全く関係のないことだし、こんなどうでも良いことで少しでも彼らの気を煩わせるのは嫌だ。ロードバイクとは過酷であり、それを乗り越えるためには集中力、強靭な精神が何よりも大切だ。だから、言えない。
それにここで弱音を吐いたら、私は負けたことになるんだ。何も知らない女達に。
だから負けない。絶対に。
「はい寿一、終わったよ。」
「すまない、助かる。」
「いいえ、これが私の仕事だから。
さてとーそろそろドリンク補充しなきゃなぁ」
「そうだな、頼む。
…そうだ棗、今度の東堂たちの出るヒルクライムレースのことだが、お前に引率を頼みたいのだが」
「あぁ、うん任せて」
渡された用紙を眺めると、そこには尽八たちが出るヒルクライムレースの開催日時やらの詳細が記載されていた。ヒルクライムかぁ…こういうの見てると、自分も登りたくなってしまうんだよなぁ。
私がレースに出ることなんて、もうないけれど。
「おっけーこの日程ね…それじゃあいつも通り引率してくるね。」
「あぁ、頼んだ。」
「はーい」
「…それと、棗」
「んー?」
愛車を引き連れて倉庫から出て行こうとした寿一が足を止める。私はもうひとつ頼み忘れがあったのかなとメンテナンス用具をしまいながら軽く聞き返した。すると寿一は私に背を向けたまま、声を発した。
「もし何かあったのなら、構わず言え。頼りないかもしれないが、話を聞く事だけなら俺にも出来る」
寿一はそれだけ言って、愛車をカラカラと引きながら倉庫を出て行った。私は目を見開きながら、固まっていた。
どうして、なんで。何も言っていないのに、何も見せていないはずなのに。結構ポーカーフェイスとか、自信あるんだけど、私。
いや、わかってしまうのだろう。彼なら。ずっと幼い頃から仲良くしてきた彼なら、私の奥の奥の感情を読み取ってしまうのだろう。
「…はは、すごいなぁ、寿一」
そう小さく呟いた私の瞳から何かが零れ、
地面に一つのシミを作った。
*