WE ARE HAKOGAKU!!

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短い短い春休みがあっという間に終わりをつげ、私達は2年生となった。

皆ワクワクお待ちかねのクラス替えでは、尽八荒北隼人と同じクラスになった。あのとき寿一が少し落ち込んでいたのが目に見えてわかって、皆で慰めてたな。おもしろかった。

階が変わってクラスも変わって担任も机椅子も変わって、一気に新鮮味が増した。そういえばあの4人とはなぜか全員ばらばらにされてしまった。多分先生の思惑だと思う。以前こわいと先生の間で評判になっていたらしいからな。解体されたのであろう。

ということは、新たにまたお友達作りという人間関係を構築する作業も行わなければいけなかったり、人の名前を覚えなければいけないと大変である。

が、とりあえず自転車部の3人がいてよかったのは確かだ。


とまぁ色々心機一転したわけだが、それは教室やクラスの人物だけではなかった。



「1年整列!!」


その掛け声とともに、バッと大人数の部員が横一列に並んだ。

そう、今年も箱根学園自転車競技部には、我こそはといわんばかりの自転車に自信のある者、自転車を愛してやまない者が入部してきた。

私はそれを見ながら、今日の練習の準備を進めていく。今年もまたキャラの濃さそうな部員が入ってきたなー、ほんと。

現在そのキャラが濃さそうな一年生たちは、元ヤンの荒北にクンカクンカと匂いを嗅がれていた。荒北は嗅いだ奴に向かって「すぐサボりそうなニオイだ」とか「すぐ辞めそうなニオイだ」とか言い放っている。皆泣きそうになっている。


まぁ半端な者がいるよりはイイか…なんて思いながら判定を繰り返している荒北の声を耳に入れつつ、私は作業に没頭した。

が、


「あぁ、クソエリートのニオイだ」


その言葉が耳に入って、私は顔を上げた。

言われている人物は、髪が水色に近いなんとも奇抜な色の1年生で、その言葉に驚きを隠せないみたいな顔をしている。

私は作業をやめて、その場をただ眺めることにした。


「プライドのかたまった ドロドロのォ…てめェをスーパースターだとでも勘違いして、世界の中心にいるみてぇなニオイだ…くっせ!

そのカッコイイ体で あらゆる競技をこなしてきた万能マンってとこか?辞めちまうんじゃねーの、自転車。

例えば… バスケのが本当のオレだとか言って」

「っそんなことはない!!」


その1年は荒北の言葉に激昂し、荒北の胸ぐらを掴んだ。あぁ面倒くさいことになりそうだ、少し焦った私の予感は的中し、荒北の拳がその1年目掛けて飛ぶ。

まずい!バカ!私はそう思い急いで荒北に駆け寄るが―


その拳は、1年の頬を掠めるだけだった。
いわゆる、寸止めというやつである。


「事実だったかァ。事実言われてカッとなったか1年。
図星ってヤツだな、ハッ!!」」

「取り消してください。」


荒北の言葉を無視し、1年がそう言葉を放つ。お互いにその手を退けようとはしなかった。


「自転車てのはカコクで地味だ。才能だけじゃどうにもなんねェ。辞めたくなるし、ツラいのなんて毎日だ。

いろいろスポーツできるとそっちに逃げるぜ!?本当に自転車できんの? 
甘チャン!?」

「―っ離せ!!」


すっかり荒北の挑発にのってしまった1年はそう叫び荒北の手を自分からはずす。
が、逆から同じように向かってきた拳。それも寸止めである。


「どした、蚊でもいたか?
オレはケンカはしねェ、福チャンに止められてるからな」


すっかりと寿一にご執心な荒北から出てきた言葉に思わず笑ってしまった。
ちゃんと護ってるが故の寸止めだったんだね。偉いよ。


「オレは、アンタみたいなヤツが一番キライだ。口ばっかりで 人の嫌なところばかり探して。
強くもないくせに暴力に頼ってるんだろ」


完全にヒートアップしてしまった1年から出てきた言葉に、荒北がニヤリと笑ったのがわかった。

あぁ、絶対面倒くさいことになる。


「だからァ図星なんだって…いいぜ、いつでも勝負来いヨ。
見せてやるよ、自転車しかねェオレの走りを」


その言葉を吐いて、荒北は練習するべく外へと出て行ってしまった。
悔しいのか、拳を握り締める1年。

羨ましい言葉だな、と。私はそう思いつつ、その1年に近づいた。


「悔しい?」

「…っ別に、あんな奴に負ける気、しないんで」

「そう、君名前は?」

「黒田、雪成です」


その名前を聞いて、ちらりと髪を見て、あぁ合うなと思ってしまった。


「ねぇ黒田。荒北は弱いと思う?」

「あらきた?」

「さっきの元ヤンみたいな奴」

「…いや、全然強そうに見えないっすね。あんな口だけの男」

「そう、だから負ける気はしないと」

「はい」


なんとなく、荒北のいっている意味がわかった気がした。
私はクスリと笑って、黒田に近づく。


「なら、やってみなさい、今すぐにでも。
勝負して、現実を見なさい」

「!」

「たった一つのものしかない人間っていうのは、とても強いものよ」


そう告げて、呆然とする黒田から離れて、私は倉庫へと向かった。

ああいう人間は、今はまだ弱い。
けれど、きっと強くなる。

今すぐにでも荒北と勝負して、きっと彼は負ける。
けれど、必ず這い上がって、必ずいい選手になる。

たくさん持っていたものが1つになったとき、人は必ず強くなる。



「……1つももっていない人間は、とても弱いけどね。」


私の1人ごとは、誰に届くわけでもなく、空に消えた。







後日
荒北と黒田の対決は、見事荒北が勝利し、黒田がロード以外見向きもしなくなったのは、また別のお話である。









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