WE ARE HAKOGAKU!!

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「うぅぅ〜……さっむ」



気温はすっかり下がり、
季節は冬となりました。

オフシーズンに入った我々箱根学園自転車競技部は、筋トレを行ったり、ローラー台でひたすらに漕いだり、とにかく冬にできる最大限のメニューを行った。もちろん、外周も行ったりしていたが。

度重なるレースで疲れた体を癒す選手もいたりするので、現在の箱学チャリ部はそう慌しい忙しさはなかった。それでも他校の自転車競技部より忙しいが。


ジャグも用意することなく、個人のボトルですむようになるこの冬は、マネの仕事も少し減る。
個人で給水したりするし、ジャグも見なくていいし、まぁ夏の疲労のせいで急に怪我が発症する者もいるが、そういったこと以外は夏に比べてとても暇だった。


さて、どうしたものか。
この暇な時間を。



「よぉ、棗」

「あ、隼人。」



私に声を掛けてきたのは、新開隼人くんだった。
あの2人で話した一件からすっかり意気投合した私達は、気付けばお互いのことを名前で呼んでいた。

新開くんだけではない。この数ヶ月で、私は色々な選手と仲良くなれた気がする。嬉しいことだ。

そんなことを考えている私をよそに、新開くんは少し困った顔をしている。そしてその困り顔の彼が引き連れているのは、彼の愛車、サーヴェロ。




「どうしたの?」

「いやぁ、何だかこいつの調子が悪くてさ…ちょっと見てくれねぇか?」

「あぁいいよ。任せて。」




着いてきてと言って、私は歩き出した。後ろから隼人が着いてくる。
トレーニングルームから出て、少し歩いた所。用があるときはほぼ一日居座る、私の大好きなメンテナンス倉庫。

とりあえず彼の自転車を私てもらい、眺める。
うん、手入れもしっかりしてあるし、大事にしてあるのが伝わるね、これ。

でも、なんだろう。



「ねぇ隼人」

「ん?」

「もしかして、変速しにくかったりしない?」

「!なんでわかったんだ!?」




隼人のびっくりした声。あぁいい反応するねぇ君は。

私はニヤリと笑ってから、損傷部分に触れる。なるほど、こいつのせいで動きが悪くなっているわけだ。

自分の工具箱を取り出し、必要な部品を集め、修理にとりかかる。

曲げないように、慎重に取り替えなければ…。


痛いほどの視線を送る隼人の目を背に感じながら、私は着々と作業を進めていった。



そして、数十分後。



「できたー!」

「おぉ!サンキュー!!」



手で顔をこすりながら、私は叫んだ。
隼人は喜んだ顔でこちらに近づきながら、確認する。

私は乗ってみてといい、その言葉に素直に隼人は自分の愛車にまたがって、少しだけ走行した。


そして、問題の変速。



「……なおってる…直ってるよ!しやすい!ありがとうな棗!」

「いえいえどういたしましてー」



私は興奮する隼人に微笑み返し、工具箱に物をしまい始めた。そういえば隼人のを修理したのは初めてだったなぁ。

最後の1つを仕舞い、工具箱を棚に置く。
すると、隼人の目はまた私に向けられていた。



「…棗」

「な、なに?」



私の名前を呟いたかと思うと、彼は愛車から降り私にずんずんと近づいてきた。

え、な、な、なに!?



「おめさん、」

「ぅうぇ!!?」

「油、顔についてるぜ」



そう言ってグイッと顔にあったであろう油を、彼の手で拭かれた。
突然の事態に、私は固まる。



「綺麗な顔してんのに、勿体ねぇぜ。
自転車部のマドンナさん」



彼はそういって、私の頭をポンッと撫でてから、もう一度お礼を言って練習場へと戻っていった。





「タラシだ………」




新開隼人は天然たらしでした。







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