WE ARE HAKOGAKU!!

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「あ」

「む」





今日はいつもより早く起きて、しかも天気もよくて、窓の外をボーッと眺めていた、そんな休日の朝。

寝ぼけた私の口から出た言葉は、「…自転車乗ろ」だった。

すぐに準備をして、着替えて、部屋を出て、自転車に跨がる。
普段は夜しか走っていなかったから、朝に走るのもまた格別で、たまらない。

ペダルを回し、坂を降る。
今日は久々の休み。久々にロードバイクに1日乗れる日。どこにいこう。箱根の山でも登りにいこうか。

今日は昨日のハードな練習にあわせて作られた休養日。マネも精神的肉体的に疲れはあるが、ロードは別だ。


ああ、走りたい、全速力で。
レースが、したい。


なんだか興奮してきた私が、より一層速く漕ごうとペダルを踏む足に力をいれた。

その時。



「……あれ、」



目の前を走る、1台のロードバイク。
しかもその自転車には見覚えがあった。


ビアンキの、チェレステ。
空をそのままロードバイクに浸透させたような、澄んだ色。

そしてそれに跨がる、金色の髪。

私はまさかと思い速度を上げ、彼の横に並んだ。


そして、冒頭に戻るのであった。


私とほぼ同じタイミングで声を上げたのビアンキに跨がる人物は、福富寿一であった。


「寿一!まさかこんな朝早くから自主練してるとは思わなかったよ」

「お前こそ。随分と朝早くからロードに乗っているな」

「今日は久々に1日乗れるからね。なんだかすっと起きちゃって。」

「相変わらずのロード好きだな」



寿一がそう言って微笑み、私も笑った。

道はまだ平坦、私と寿一は並んで走行していく。こうやって彼とロードに乗るのは、何年ぶりだろうか。



「久しぶりだな。お前とこうやってロードに乗るのは。」

「そうだね、本当。
小学生ぶりかなぁ。」



どうやら彼も同じことを考えていたようで、私は嬉しくなって笑顔でそう答えた。

すると彼は何思ったのか、ぐんっとペダルを踏み始めた。



「え、ちょ…寿一!?」

「久しぶりのお前とのロードだ。
競ってみるか?昔のように」

「!!」



寿一は前を向きながらそう言った。
その言葉を聞いて、確かに私のハンドルを握る手に力がこもった。


勝負?競う?
寿一と、私が?


寿一は箱学の選手で、今までずっとペダルを回してきた人間で。
私は……



「やるのか、やらないのか?
…いや、お前の答えはもう決まっているか」

「…私は…」



高まる鼓動、力がはいる手。
寿一と勝負、箱学の選手と勝負、


そんな、そんなのって……




「最高に燃えるじゃんか!!」



私はそう叫んで、前にいる寿一向かって一直線に進んだ。

























******





「はぁ…っはぁ…げほ!」




原っぱに寝転がりながら、私はほぼ酸素が空になりそうな体内に、新しい酸素を取り込む。
暑い、もう夏も終わったっていうのに、私の体からは汗はひかない。

あれから寿一と競争して、私は全力で力を出し切った。
坂が得意な私は最初有利だったが、そんなのすぐ終わって、あっという間に寿一に抜かされた。

やっぱり、強いなぁ。



「大丈夫か、棗」

「…っうん、平気ぃ。ありがとう」



寿一が私に差し出してきたボカリを受け取り、まだ呼吸が荒い体内にボカリを無理矢理入れた。むせた。

負けてしまったけど、勝てなかったけど、



「最っ高に…気持ちいいね!」




ロードは、素晴らしい。



「相変わらず早いな、棗」

「ふふ、寿一には負けるけどね。」

「いや、俺も一瞬抜かされてしまった。まだまだ鍛錬がなりないようだ。」

「そうね、あまり無理しない程度に。」



そういうと、寿一に頭をくしゃくしゃとなでられた。
小さいときから好きだよなぁ、私の頭なでるの。



「お前が選手ならば、箱学王者維持への道もまた近くなっていたかもしれんな」

「…それは、無いよ。」



寿一のその言葉に、私は首を振った。

男ならよかったと、そしたら寿一とずっと共に走れたと本気で悩んだ時期もあったっけなぁ。


でも、性別の壁は乗り越えられない。



「お前はまだまだ強くなるだろう。
お前さえ望むのなら、プロの世界だって―」

「寿一。」



私は彼の言葉を遮り、立ち上がった。
その先の言葉は、今の私が聞くべきではないと思ったから。



「もっかい、勝負しよう」




私はレースには出れないけれど、
彼とこうして走ることができるのなら、


それでいいんだ。









*

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