WE ARE HAKOGAKU!!

□09
1ページ/1ページ














「うわーすごい汗。大変だね。」

「テメェぶっとばずぞ!!」




あのタケノコビアンキ事件から数ヶ月。

タケノコくん、
改め荒北くんが入部いたしました。



「荒北、無駄話をするな」

「ッセェ!コイツに言え!!」


彼は寿一の指導で、先ほどからずっとローラーの上でペダルを回しています。


私はそれを少し眺めた後(茶化した後)、ジャグを持って水道場に移動し、ジャグの中に水をため始めた。



「徒野さん、あまり奴に関わるべきではないぞ」

「うわ、びっくりした。」



急に後ろから現れた東堂くんが話しかけられた。
今日も彼のカチューシャはビシリときまっているようだ。



「なんで関わるべきじゃないの?」

「なぜならば!奴の美的センスは!いかれているからだ!!」




バッと効果音がつきそうなほど、腕を目一杯広げながら答えた東堂くん。
私はあなたのその美的センスの方が、不安だけれども。

あ、でも荒北くんの前の髪型は確かにいかれてるなぁ。
今はふつーの短髪だけど。


「うーんと、どこらへんが?」

「どこらへん。答えは1つ。
奴は俺の!この!ナイスセンスなカチューシャを侮辱したのだ!」

「……はぁ」



私はボカリを作りながら、東堂くんの話を聞き流す。
それにしてもナイスセンスって…。



「徒野さん、君も確かに些かセンスがおかしいところがあったが、奴に関われば君のセンスは更に低下するぞ!」

「まって、私のセンスはどこからの出発なの。東堂くんのセンスレベル10だったら、私確実にレベル150はいってるよ」

「どんだけ俺のレベル下なんだ!」



東堂くんは泣きそうな顔をしながらそう叫んだ。
今はそんな話に構っている暇はないのだ、私はこのボカリを運ばなければならない。



「よいしょ、と…」

「むっ!待て、待つんだ徒野さん。」

「なにカチューシャくん。」

「東堂だ!
それ、そのジャグ、徒野さんが1人で持っていくのか?」

「うん、そうだよ。いつも。」

「……ならんね、」

「え?――っあ!ちょ、」



私が持ち上げたジャグを、東堂くんはヒョイッと持ち上げてしまった。
そんな細っちい体にどこにそんなパワーあるんだと疑いたくなるほどに、彼は易々とジャグを置き場まで持っていく。


「…あ、ありがとう、東堂くん」

「いや、なんのこれしきだ。
大体、女子がこんな重いものを持ってはいかんよ」

「女子の前に、私はマネージャーだからね。
皆の手を煩わすわけにはいかないから。」

「わっはっは、徒野さんのマネ魂はすごいな。」



東堂くんは笑って、私の肩をポンッと叩く。
少し近づいた距離に、私は東堂くんの想像していたよりも高い身長に驚いた。



「そんな素晴らしきマネージャーに、約束しよう。

俺たちが3年になったときは、必ず、君をインターハイの、優勝の舞台に立たせると」

「!」



いつものあの顔ではない、真剣な顔で、
彼は微笑みながら、そう言った。



「おーい東堂!集合ー!」

「…おっと、呼ばれているみたいだ。
では徒野さん!頑張ってくれ!」

「……う、ん」



東堂くんは私に向かって片手をあげてから、皆のところに戻っていった。





「カチューシャかっけー」



私の美的センスが、狂った瞬間だった。








*
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ