WE ARE HAKOGAKU!!

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「俺のこと、知ってる?」



そう話しかけてきた彼の瞳は、
おもしろいほどタレていた。



あの騒動から数カ月が経ち、
彼女達が私を姉御と呼ぶのも慣れてきた頃、


今日は終業式で、1学期最後の一斉委員会が放課後にあった。

なので、早く集まりが終わった私達生活委員に所属している者と、集まりが今日たまたま無かった保健委員の者以外、まだ人があまり部活来ていなかった。
そんな時。


私に話しかけてきたのは、同じクラスで、同じ部活である新開くんが、話しかけてきた。


ちなみに私は今、皆がくる前にジャグを作っていた最中だった。
キュッと蛇口をしめて、水をとめる。



「知ってるよ、同じクラスだし。
新開隼人くん。」

「そっか!知ってたのか、俺のこと」

「当たり前だよ。
こうやって喋ったのは初めてだけどね」



私がそういうと、嬉しそうに微笑む新開くん。
彼女達4人組みが言っていた通り、確かに格好いいなぁ、こうやって見ると。

しかも彼、スプリンターなのだが、とてつもなく速い。
一年生の中ではずば抜けているし、いや先輩よりも速いのではないかと思わせるほどの実力だ。



「まだそんな部員いねぇし、ちょっと話してみたくってさ」

「なんだ、教室でも話しかけてくれればいいのに」

「あぁ、それも考えたんだけどよ。
…なんか、いつも4人組の元マネの子達に、えらく囲まれてるから」

「……ごめんなさい」



昼休み、ならびに休み時間を思い出して、私はため息をついた。
彼女達のなにを、私のヤクザ要素が刺激してしまったのだろうか。恐ろしい話である。



「徒野さん、ロード詳しいんだな」

「あぁ、そうなの。昔から好きで…」

「もしかして、徒野選手の娘…だったりするか?」

「!!知ってるの!?」



あぁ。と新開くんは頷く。
うそ、まさか、知っている人がいたなんて。
確かに父親は一応プロだし有名だったが、それは前の話で、もうずいぶんと前に引退してしまったから、知っている人はあまりいないと思っていた。



「徒野選手のスプリント、最高だからな。俺の憧れだったんだぜ」

「え、え!そうなの!?
うわ、嬉しいなぁ…お父さん喜ぶよ」



今まで父の話になど触れられたことがなかったので、素直に喜んでしまう自分。

芸能人とかいる子どもの反応の中にしたら、きっとイラつかれてしまう反応なんだろうけど、でも喜ばずにはいられなかった。



「徒野選手…いや、徒野の親父さんか、元気か?」

「うん、元気だよ。まだ自転車乗ってるし」

「そっか、嬉しいな。
よかった、ずっと聞いてみたかったんだ、この話」

「もっと早く聞いてくれればよかったのに!」



お互いにハハハと笑う。
新開くん初めて喋ったけど、いい人。



「いいな、親がプロのレーサーって。
寿一の親父さんも、実はそうなんだぜ」

「あ、知ってるよ、寿一のお父さんでしょ。
私のお父さんとライバルだったもん」

「え!?そうなのか!?
…あ、いや、そうか。言われてみればよく、競ってるところみたな…。」



新開くんは思い出すように言葉をつなぐ。
まぁ、あんまりテレビとかで放映されなかったからね、日本では。

めっきり海外だったし、あの人達。



「だから寿一と知り合いなのか?」

「そう、幼い頃から。
よく2人で、私の親が俺の親が勝つんだーって、言い合いしてたなぁ」

「……羨ましいな」

「え?」

「あ!い、いや!何でもねぇ!」



急に何か呟いたかと思えば、急に慌てる新開くん。
ごめん、でもさっきなんていったのか聞こえなかったよ。


慌てる新開くんかわいいなぁと思いながら眺めていると、ぞろぞろと委員会を終わらせた選手の皆さんがやってきた。

こんにちわーと挨拶して、また蛇口をひねって水を出す。
今日はボカリにしようか、アクエミにしようか、迷う。


さっきまで後ろにいた新開くんも先輩に連れて行っていかれてしまったようだ。
おもしろかったなぁ、また話したい。





蛇口をひねって水をとめ、選ばれたアクエミの粉を溜まった水の中にいれた。












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