WE ARE HAKOGAKU!!
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練習が終わって、一息。
女子更衣室でキャーキャー騒ぐ彼女たちとは離れたところで、一人ベプシを飲む。
あーこの炭酸が染み渡る感じとてもいい。
やっぱり疲れた体にはベプシでしょ。
そんなことを考えていると、「徒野さん!」と高い声で私を呼ぶ声が聞こえた。
うわ、めんどくさ。
なるべく笑顔を保ちながら「なに?」と聞く。
すると彼女達は興奮した様子で、私に話しかけてきた。
「徒野さん、一緒に抗議しない?」
「…え?」
なんだ、急に。
私にふりかかった質問は、よく分からないものだった。
「だって、徒野さんも不満あるでしょ?この仕事に!」
「…え、え?」
「練習は見れないし、選手と話せないし、しかもおまけに雑用ばっかり!」
「…。」
「おまけにマネなのにこんな辛いなんて、きいてないよー」
彼女達はそうお互いに不満を発した後、
ねー!と声を上げた。
私はただそれを黙って聞いている。
大丈夫、まだ大丈夫。
彼女達はまだ、仕事の愚痴しか言っていない。
いつかはこうなると思っていた。
だって、マネージャーといえどここは王者箱学の部活。マネージャーにだってきっと、辛い仕事が課せられるはずだ。
朝だって早いし、夜は遅い。
化粧とか、マニキュアとか、ピアスとか。
そんなの一切できない。
普通の子が不満をあげるのも、分からなくはないのだ。
でも、きっと彼女達もこの数日耐えてきたし、いけるかなと思ってきていた。
それに、なにより、
ロードを好きになれば、こんなの耐えられる。
だから―
「それにさぁ、ロードだかなんだか知らないけど」
「ねーわかる!全然良さが伝わらないよね!」
「サッカーとか野球みたいに、ルールわからないし。正直ダサいしぃ?」
「ほんとそれ。
どこがおもしろいのか、全っ然わからない!!」
わかるー!!と、彼女達の高い声が、響く。
その声は、私の鼓膜を揺らし
「……っけんな」
「え?」
「徒野さん、なに――」
「っざけんじゃねぇって!言ってんだよ!!」
私の堪忍袋の緒さえも、切った。
「なぁにが良さが伝わらないだよ、ダサいだよ、おもしろいのかが分からないだよ!!
ロードの良さも知らねぇ奴が!勝手こいたこと抜かしてんじゃねぇよ!!アァ!?」
「あ、あの…徒野さん…?」
「大体よぉ、てめーらみてぇのにロードの良さわかると思ってんのかぁ?
ロードっつーのはなぁ、めっちゃくちゃ全身を使って、苦しくて、呼吸が止まりそうになるぐらいキツイスポーツなんだよ!お前らのいう野球とかサッカーみてぇに命がけでやるスポーツなんだよ!!」
「ちょ、こわ…徒野さん…」
「だけどなぁ!そんな苦しくても、リザルト獲ったり、優勝したりしちまうと、格別に最高で、たまらないほどの喜びが味わえる最高のスポーツなんだよ、このボケが!!
てめぇらにそれわかんのか!!?」
「徒野さ「答えろこのクソアマがぁ!!」……わ、わかりま、せん。」
「だろうなぁ、わかんねぇだろうなぁ!
じゃあわかんねぇんなら……とっとと辞表だして部活やめろこンのダァホが!!」
「「「「は、はい!!」」」」
ここ一番の返事をし、女子生徒4人は逃げるようにして女子更衣室から出て行ってしまった。
「はぁ、はぁ……………あ」
私は、というと。
「え、ま、え…?」
我にかえっていた。
「うわああああああ!!!やっちゃったああああああああああ!!!!」
ロッカーに頭を打ちつけながら、叫ぶ。
やってしまった、やってしまった二回目。
私には、どうしても直せない性格があった。
それは、ロードのことを悪く言われると、
口がこの世のものと思えないぐらい悪くなること。そして顔がヤクザのように酷くなること。
ていうか、ヤクザに豹変する。
「ださないって…ださないって決めてたのに…!!」
私はロッカーに頭をさらに強く打ちつけ、床でのた打ち回る。
高校では出さないと決めていたそれは、入学してわずか数週間で出してしまった。
小学、中学、ともにこの性格を出して、その後私を恐れおののいた人物数知れず。
死にたい、終わった。
私の学園生活。
「はぁ…かえろ…」
床で呆然と寝転がっていたかったが、そういうわけにもいかなかったので、私はとりあえず女子更衣室を出た。
後日、彼女達が震える手で退部届けを監督に提出したのと、
私に会うたび「はっざいぁぁあす!!」とまるで舎弟のような挨拶をしてくるようになったのは、
また別のお話である。
*