WE ARE HAKOGAKU!!

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彼女、
隼人のクラスメイトであり
フクの知り合いでもあった、あの、女子生徒。

名前は、そう、徒野棗。


彼女がこの箱学自転車競技部に入部してから
数日が経った。

彼女の仕事っぷりには、皆関心していた。
仕事の覚えも早く、メカニックとしても、マネとしても自転車のことも理解している彼女。
他のマネージャーもいるが、失礼ながら彼女達より、徒野さんの方が皆からの信頼は厚いだろう。

先輩方は口を揃え、箱学史上最強のマネかもしれないといっている程だし。



確かに、彼女は優れている。
仕事も、ロードへの愛も、そしてその容姿も、完璧だ。



しかし、だ。



「東堂くん、またその変なカチューシャ付けてるの?はずしなよ」

「変ではない!これは俺のアイデンティティだ!!」



俺に会うたび、そう言って来る徒野さん。
彼女は些か美的センスがおかしいようだ。

俺の!この!美しい!センスが!!
わからないなんて…



「徒野さん、君は美人だからセンスも良いと思っていのに」

「私センスはよくないけど、これだけは分かるよ。
そのカチューシャはダサい。あ、センス悪い。」

「言い方を変えるなよぉ!!」



俺の悲痛な叫びにも、徒野さんはただハハハと笑う。



この数日で思ったが、徒野さんはとても話しやすい人間であることが分かった。酷いことも言ってくるが。
まぁこの俺のトーク術が、彼女とのトークを円満かつ盛り上げているのだろうがな!


それに、徒野さんとの会話は、ロードの話8割ぐらいだが、他愛もない会話も最近出来るようになってきていた。
マネージャーと仲良くするのは大事だからな。俺は嬉しいぞ、徒野さん。



「ところで東堂くんて、どの自転車?」

「俺のか?俺のはコレだ!」



徒野さんに問われ、ズラリと並べられた自転車の中から1つを指差す。

リドレー、俺の愛車。



「へぇ、リドレーか。
しかもイタリアチャンピオンカラーとか、すごい、よく手に入ったね。
しかも綺麗、しっかりと整備が整ってある。」

「あぁ、俺の自慢の愛車だ。」



俺の愛車を眺める彼女の目は本当に楽しそうで、よほどロードバイクが好きなのか、俺もなんだか嬉しくなってしまった。



「徒野さんは、いつからロードが好きなのだ?」

「私は、物心ついたときからかな。
ロード一家だったから。」

「む、そうだったのか!ということは、自分のロードバイクも持っていたりするのかね?」

「勿論、」

「どこのメーカーのだ?」

「ピナレロだよ」

「おぉすごいな!ピナレロか!!」



俺がそういうと、いいでしょーと彼女はニコリと笑う。
そうか、徒野さんもロードレーサーだったのか。だからロードバイクにも詳しいのだな。


…と、いうことは、だ。
彼女は、大会にも出ていた経験があるのか?
趣味というより、彼女はどことなく、良いロードレーサーの風格もある。

いまだ俺のリドレーを眺めている徒野さんに、俺は少し、聞いてみることにした。



「なぁ、徒野さん」

「なぁにー?」

「君も、大会に出ていたりしたのか?」



俺がそう、徒野さんに問う。


しかし徒野さんは、そのまま固まった。
息をしているのかと思うほど、硬く。

まずいことを聞いてしまったのだろうか。
俺は慌てて、自慢のトークでその場を流すことにした。



「わっはっは、すまない、余計なことを聞いてしまったね!」

「…東堂くん、もう休憩、終わりじゃない?」

「む、本当だ。それでは俺はこの場で失礼する!
サポート頼むぞ、徒野さん!」

「当たり前」



ニコリと笑う徒野さん。
俺は徒野さんから愛車を受け取り、その場を去った。








「…どこがまずかったのだろうか」



俺は先ほどの会話を思い出しながら、
皆がいる集合場所へと向かって歩いた。









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