WE ARE HAKOGAKU!!

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「はぁ…疲れた。」



鞄をドンッと床に置き、ベットに寝転がる。

放課後、ずっと行こうと思っていた自転車部の見学に行ってきた。
見学、の、はずだったのに。



「…やってしまった」



そう呟いて、枕に顔を埋める。
やってしまった、開始早々なにをやっているんだ、私は。



私は、自転車大好き一家で育った。
父はプロレーサーで、母親も、趣味程度だったがロードバイクに乗っていた。ちなみに5つ上の兄もレーサーで、現在明早という大学の自転車競技部でエースを勤めている。

そんな家族の影響を受けた私は、もちろんロードが大好きだし、ていうかロード共に育ってきたようなもんだ。

小さい時はよくレースにも出ていたし、それは中学でも…。



「……。」



そこまで思い出して、レースのことは、頭から消した。

まぁ、だ。
レースに出なくなって、でもこの自転車への思いは止まらなくて、だから寮生活にしてまでここに入学して、名門箱学自転車部に入った。

全国屈指の強豪校、王者箱根学園のマネージャーになれば、多く自転車に触れ合えるし、メカニックになれば、もっと自転車に触れる。


そう考えて、今日見学に行ったのに、
あの、みんなの、好奇の目。
他の女子生徒の、引く目。



「はあぁぁ……」



この光景、デジャヴ。
小学生のとき、あまりの自転車オタクさに皆にひかれたのを思い出す。

しかもまだ入学して数日だというのに、絶対、あの場にいた女の子たちにはひかれた。
どうしようまだちゃんと友達だっていないのに。


枕に向かって雄叫びを上げる。
「ばっかじゃねぇのまじほんとぉおおおぉお」が主なセリフである。



「終わった、完全に終わった。
どうしよう明日怖くて学校行けないどうしよう。」



私が逃避を考えた、そのとき。
鞄の中から、携帯の着信音が鳴り響いた。

ゴソゴソと鞄を漁り、携帯を取り出すと、ディスプレイに写されていたのは



「え、あ、寿一だ」



同じく箱根学園に入学し、これまた同じく箱根学園自転車競技部に所属していた、
福富寿一からの着信だった。

彼とは親同士とても仲がよかったから、私たち自身幼い頃からの仲である。
でも会うのも話すのも久しぶりだったからなぁ。


通話ボタンをポチッと押し、携帯を耳にあてる。



「もしもし、寿一?」

『棗、起きていたか』

「もちろん、今帰ってきたばっかりだし」



寿一の声は昔よりだいぶ低くなっていた。当たり前だけど。
彼のロードの実力はすごくて、なんとここの箱根学園に推薦で入ったのだ。

おじさんやお兄さんに続き、彼も高い能力を持っているのだろうと、改めて感心させられる。



『見学、どうだった』

「うん。やっぱり凄かったね、箱学は。
人も多いし、環境や整備も整ってる。」

『あぁ、俺もそう思ってここに入学したからな』

「そうでしょうね。寿一は神奈川に住んでいたし、ここに来ると思ってたよ」



私は千葉に住んでいて、寿一は神奈川。
絶対にここに入るだろうなぁと考えていた私の予想は見事的中。



『だが、お前はなぜ千葉からこんな遠いところまで来たんだ。自転車競技部は他にもあっただろう。』

「…ん、まぁ、それはほら。箱学はやっぱり有名だし、ね」



私がそういうと、寿一はそうか。とだけ短く返事を返した。
本当の理由は、違うけど。



『入部することにしたんだな』

「うん、そう。
だからこれからよろしくね、寿一」

『あぁ。こちらこそよろしく頼む。』



私が笑って、寿一も電話越しにフッと笑った。


それから数分間、寿一と他愛も無い会話をして、電話を切った。


もう、寝なきゃ。



「…おやすみ」



誰かから返事が返ってくるわけでもないその言葉を呟き、
私は瞳を閉じた、










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