WE ARE HAKOGAKU!!

□01
1ページ/1ページ









彼女を初めて見た時、
綺麗だと

そう思った。



「入部させてください。」



だから、彼女のその凛とした声で
その言葉を聞いたとき、
俺はまさかと思ったんだ。














WE ARE HAKOGAKU!!











「あーえっと、マネージャーってことで良いのかな?」



入学式が先日終わって、授業が始まって、数日が経った。


俺が入学したのは、箱根学園。
それも、箱根学園には全国屈指の強豪チームである、箱根学園自転車競技部という部活があるからだ。

今日も今日とて、俺はまだ慣れない強豪校のメニューをこなし、ペダルを回す。
もっと、もっと早く。このチームでのエーススプリンターの座を勝ち取るために。


そんな、ある日。
自転車部に入部したいという、マネージャー希望の女子生徒の何人かに、一際目立つ女の子がいた。


俺と同じクラスの、確か…徒野棗さん。
入学当初から美人だと、クラスでひっそりと騒がれていた。
俺も確かにそう思っていたりもする。

そんな彼女が、なぜここに。
しかも他の女子生徒のように、何人かで来ているわけではなかった。
1人で、男子マネージャーの説明を受けていた。



「隼人、あの女子生徒、お前のクラスの女子生徒だろう」

「あぁ、尽八。」



休憩中、声を掛けてきたのは同じ学年の東堂尽八だった。
少しズレたカチューシャを直しながら、来ている女子をジッと見ている。



「ふむ、皆マネージャー希望か」

「そうだろうな。女の子は選手じゃないから」



しかし、残酷な話、ここにいる女子生徒の何人が引退まで残るか分からない。
現在自転車部のマネージャーに、女子はいない。
なぜなら、あまりの忙しさに、マネージャーが追い付かないからだ。部員数だって多い。

先輩達も「何人残るかねー」と面白半分で見ている始末だ。
尽八にもそれが聞こえたみたいで、なんだか難しい顔している。



「心無い言葉とは思うが、確かにここでのマネージャー業は厳しいだろう。
しかし!俺を応援してくれる女子が増えるのは大いに結構だ!!」

「尽八、それもはやマネージャーじゃなくて、お前のファンじゃないか?」

「…ふむ、ファンか。それもいいな…」



俺の言葉に、尽八は独り言をブツブツ言い始めた。
すると、先ほどまで先輩と会話をしていた寿一がこちらに向かって歩いてきた。



「寿一、」

「あの女子生徒たちはなんだ、見学か」

「マネージャー志望らしいぜ。
その話を今尽八としてたんだ。」

「先輩方も言っていたな、何人残るかと。」

「あぁ、酷い話だけど、確かにここじゃ厳しいだろうな」

「そうだろう。
しかし、それは普通の女子生徒、だったらだ」

「?」



寿一がある一点を見ながら、そう言う。
俺がその言葉の意味を理解できずにその視線の先をたどると、そこには1人の人間。

徒野さんがいた。


なんで、徒野さん?
しかし寿一とその子を交互に見るが、確かにその目は徒野さんを見ていた。

どういうことだ、寿一。
徒野さんが普通じゃないっていうのか?

俺は訳がわからず、ただ徒野さんを寿一と同じように見つめる。



「それじゃあ、説明はここまで。
後は見学だけだけど、何か質問ある人はいる?」



マネージャーの先輩がそう女子生徒たちに声をかける。
女子生徒たちはお互いに顔を見合わせ、大変そうだねとか、頑張れるかなぁと早くも不安の声を上げていた。

そしてその中に、



「はい」



またも凛とした声で、手を上げる一人の女子生徒の姿。
徒野さんだ。



「はい、そこの子」



先輩が徒野さんに気付き、声をかける。
他の女子生徒たち、そして休憩中の俺たちの視線も徒野さんに集中する。


そして徒野さんは、ハッキリした口調でそう言葉を発した。




「マネージャーと、それともう1つ。
メカニックの役職も、与えてもらうことは可能ですか?」


「えっ…」



思わず、小さく声が出る。
俺だけじゃない、他の選手も、ざわざわとざわめき始める。直球でその質問をされたマネの先輩も、困惑した表情を浮かべている。

他の女子生徒に限っては、メカニックってなにー?などの声を上げているが。

とにかく、だ。
徒野さんの口からそんな言葉が出るなんて、思わなかった。



「メカニックって、え?ロードバイクの?」

「はい、勿論です。」

「いじれるの?」

「得意です」



徒野さんはその先輩をジッと見ながら、ハッキリと答える。
するとそこに茶化すように現れた、3年の先輩。彼の手には、先ほどの練習で故障したー!と騒いでいた自分の愛車。



「それじゃあ君、これ直せたりする?」



なるほど、腕試しってわけか。
意地悪く言う先輩とは対照的に、徒野さんは静かに頷くと、他の部員から、近くにあった工具箱を受け取る。


俺たちは、珍しく練習そっちのけで、ただその徒野さんの行動を見つめる。

徒野さんはそんな視線お構いなしに、自転車をジッと見つめる。
そして異変に気付いたように眉毛をピクリと上げると、工具箱から道具を取り出した。


そこから、流れるように作業をする。
まるで一瞬かのように、その修理は終わった。
彼女は終わってから1つ息を吐き、先輩に「どうでしょうか」と問うて、先輩に自転車を見せる。

すると先輩はその故障したと箇所を
何度も、何度も確かめる。

そして何かが分かったように、自転車から手を離す。



「………直ってる。」



その一言を聞いた瞬間、おぉぉぉと関心したような声が上がった。
茶化した先輩は「ありがとう!!」と嬉しそうにお礼を徒野さんに言う。徒野さんも少し嬉しそうだ。

それから徒野さんはその先輩に原因とかもろもろを伝え、工具箱を返した。



「…凄いな、彼女。」

「あいつは昔からロードが大好きだからな。
いじるのも、朝飯前なのだろう」

「え、寿一…知り合いなのか?」



うむ。と頷く寿一。
嘘だろ、聞いてないぞ、俺。
この話は今度ゆっくり聞くとして、徒野さんだ。


彼女はまたマネージャーの先輩に向かって何かを喋っていた。


そして、その綺麗な声で、またも凛と言葉を発した。




「入部させてください。」

























この物語は、
そんな彼女と
俺たち箱根学園自転車部の
日常を描いた話である。








*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ