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□ひっつき虫
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ドンッと壁に思い切り手をついた靖友、顔くそ怖い。
壁と靖友にはさまれた私、いわゆる壁ドンをされている私。なんだこの萌えない壁ドン。恐怖の壁ドン。


ここは休み時間でもあまり人が通らない体育館の裏。
まさかここに連れてこられると思わなかった私は、あぁいよいよ殺されると心の中でひっそりと自分へお経を唱えていた。安らかに成仏できますように。


ちらりと靖友を見ると、無言でこちらをにらんでいる。
そ、そんなに見られたら穴が開いちゃうよ靖友くん。


黙りこくった靖友に誤解を解くため口を開こうとするが、急に泣きそうな顔をした靖友に勢いよく抱きしめられる。何が起こった。



「棗」

「は、はい」

「俺のコト、嫌いなのォ?」



珍しく消え入りそうな声でそう言った靖友に、私はびっくらこいた。
絶対に怒られると思っていたのに、まるで叱られた子犬のようにしっぽを下げる荒北。

ちょ、ちょっとかわいい…。



「どこから話聞いてたの?」

「俺に嫌われたいとか、どーたらのトコォ」

「あ、あぁ…そこから聞いちゃったのかぁ」



靖友は恐らく酷い誤解をしているようだ。
私が靖友のことを嫌いで、でもフレないから、逆に嫌われたい、と。
だから新開くんと浮気をすると、そう私が2人に相談をもちかけていると思ってしまったらしい。

そんなこと、絶対に有り得ないんだけどなぁ。



「違うの、靖友。
靖友がいない時に2人とご飯食べてたのごめんね。でもそれは本当に相談ごとがあったからなの」

「俺に相談するンじゃダメなワケェ?」

「だって、相談は靖友のことだったんだもん。
靖友のクラスでも私にベッタリなこと相談するためだったの」



それを言うと、靖友は顔を上げる。
え、泣いてた?ちょっと目赤いんですけど。
あぁ写真を撮りたいけど、撮ったらきっと殺されるからやめよう。



「俺にベッタリされんの、嫌なのォ?」

「嫌じゃないけど、人前はダメでしょ。
キスは特に」

「ンでキスのとこちっちぇんだヨ」

「恥ずかしいから」

「ハッ、かーわい」

「まてまてまてまて、どさくさに紛れてキスをしようとするな」



鼻をぐすりと鳴らしながら顔を近づけてきた靖友の頭を遠ざけるように押し返す。
不服そうな顔をするそいつに、私はもっとふざけんなと言いたげな顔をした。



「靖友が私のこと好きすぎてくれているのはわかるし、私も靖友のこと大好きだけど、もうちょっと控えよう、人前は」

「…」

「そうしないと、本当に新開くんと浮気すっぞ」

「アァ!?ふざけんじゃねぇよ!!」



先ほどまであんなにしおらしかった子犬は、また狼へと変貌した。
こいつのこういう威嚇も、私にはもう怖くなかった。

私が黙りこくっていると、靖友は観念したように「……ワーッタヨ」と絶対に分かってないような声で返事をした。



「人前で、べたつくのはダメなんだよな?人前で」

「そう、人前は」

「じゃァ、今はいいってことネェ」



そう言ってニヤリと笑うと、靖友の顔が近づく。
いや学校ではやめようよという前に、私のそれと靖友のが重なる。
数秒間さんざん良い様にされた後、離れたと思ったら、首筋に移動する。


え、なに?と真っ白になった頭でボーっと見ていると、首筋から激痛が走る。
痛すぎて叫ぶと、靖友が嬉しそうに顔を上げる。



「他のヤツが近づかねェように、人前じゃねェとこで、俺のって印いっぱいつけるからァ、覚悟しとけよ」



首筋に触れると、しっかりとついた靖友の歯型。
この野郎ふざけんなという前に、まだ先ほどのキスでポヤポヤとした私に、もう一度降り注いだキスのせいで、もうどうでも良くなってしまった。








私の彼氏は口が悪いし目つきは鋭い、短気でぶっきら棒。
だけど根はとても優しいし、面倒見いいし、仲間思いだし私のこととても大切にしてくれるとても良い彼氏。


そんな私のこと大好きひっつき虫は、
本日より私のこと大好き噛み付き虫になりま
した。





私の最近のあだ名は、ガム(たくさん噛まれるから)です。















後日東堂くんと新開くんが、部活中狼におっかけられていたというのは、

また別のお話である。




















ひっつき虫
きっとこれからも悩みとあだ名は増え続けるけど
それでも私は結局彼のことが
大大大大好きです。










→あとがき
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