祈神子

□罪悪感とマネージャー
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……あれから一週間、奈緒はテニス部のマネージャー業を熟していた。

最初はばれてしまうかもとビクビクしていたが、今のところ誰も奈緒を咎めたり、嫌がらせをしてきたりといった事態には陥っていない。

跡部達が口外しないでいてくれているおかげか、それとも裏方の為、単に皆が知らないだけか。どちらにせよ、奈緒にとっては非常に助かっていた。

しかし一つだけ。奈緒を不安にさせる事があった。
伊勢脇加奈……彼女に一度もお目にかかっていないのだ。跡部が言うには、彼女はほとんど部活には出ず、たまに気まぐれにやって来ては、レギュラーにしつこく絡み、散々練習の邪魔をして、勝手に帰って行くのだそう。つまり、マネージャー業は全くやっていないのだ。

(道理で部室が汚れてたり、洗濯物が溜まってたりしている訳だわ…)

跡部は自分達でやるから、放っておいていいと言ったが、彼らも大会が近く、一分一秒も無駄にはできないはずだ。それに、練習メニューの調整や繕いもの、ドリンク作りは部室でやる訳で………気になる物は気になる。

(力仕事はムリだけど、洗濯や掃除なら家でもやってるし)

一通り終わったメニューをファイリングし、ドリンクをカゴに分けて冷蔵庫に入れる。頼まれた繕いものを丁寧に畳み、テーブルの上に置くと、奈緒はロッカーから掃除用具を出し掃除を始めた。

はたきでホコリを落し、床を掃きながら洗濯物を集め、シャワー室の前にある洗濯機を回しながら、濡れ雑巾で棚やテーブルを拭く。
みるみる内に綺麗になっていく部室。それに比例して雑巾や奈緒のジャージも真っ黒に汚れ、ごみ袋が増えて行った。
ある程度片付いた部室を見渡し、奈緒は満足気に微笑んだ。

「よし!このくらいでいいかな?あ、洗濯物干さないと!!」

掃除用具をしまい、大きめのカゴを持ち、洗濯機の元に向かった。


カゴ一杯の洗濯物を抱え、裏口の物干し場に向かう奈緒の後ろから、誰かが声を掛けてきた。

「禊さん!?何してんの!?」
「あ、え……お、鳳くん?何……って、洗濯…」

銀髪を靡かせ、慌てて駆け寄ってきた鳳の迫力に、奈緒は言葉を詰まらせる。

……まずかったか……

奈緒は気まずそうに俯くと、その様子を見た鳳は慌てたように首を振る。

「あ、いや。怒ってるんじゃなくて……。そんな重いもの持ったら……って」
「あ………これ?」

どうやら、奈緒が山盛りの洗濯物が入ったカゴを持っている事に心配していたようだった。眉をハの字にしている彼を見た奈緒は本気で心配されていたのかと、不謹慎にも嬉しく思ってしまう。そして、そんな彼に感謝の気持ちを込め微笑んだ。

「このくらい大丈夫だよ。ありがとう鳳くん」
「/////う、うん……あ、俺が持っていくよ。物干し場だろう?」
「え?いいよ。練習あるでしょ?」
「いいから!ね?」
「でも………あ」

渋る奈緒の手からカゴを取った鳳は、にこりと微笑むと、さ、行こうと促し歩き出す。
その彼の後ろ姿を奈緒は慌てて追い掛けた。


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