と宝物
□記念リクエスト
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木村麻美様リクエスト
鬼鮫受け
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【恋愛ツンデレーション】
暁本部の廊下を誰かが走って移動している。
片手には水の入ったバケツと釣竿。海から帰ってきたのか、走る度にコートから細かい砂が落ちた。
ご自慢の銀髪にも砂が付着しているのに気にしていない。それよりも向かいたい場所がある。
たどり着いたのは鬼鮫の部屋、砂まみれの人物…飛段が1番好きな人の部屋。中に早く入りたい気持ちを押さえ込み、ちゃんとノックをして声をかける。
「鬼鮫ー!いいもんやる!」
渡したらどんな顔をして喜ぶだろうか、考えるこっちまで嬉しくなる。
しかし中から返事はなく、飛段は僅かに眉間にシワを寄せた。
「鬼鮫なら今いないぞ、うん」
「マジかよ。どこに居んだ」
声の方向へ振り向くと、両手の平に作品を乗っけているデイダラが居た。
「なんだそれ?」
「鬼鮫の旦那のために作ったんだ。でも、プレゼントしようと思ったのに居なくてな…うん」
「デイダラにしては、可愛い人形だな」
手の平に乗せられた粘土細工は小さな丸っこい鮫の形をしている。
「だろ?鬼鮫の旦那をイメージして作ったんだ、うん」
「俺も欲しい…」
「いいぞ、後で作ってやるよ、うん。飛段はそのバケツの中のあげるのか?」
「ああ。鬼鮫の好きな海老を食わせてやりたいなーって思ってさ。捕って来たんだ」
食われると知って驚いたのか、バケツの中で海老が跳ねた。
「デカイな、うん」
「だろ?アレだよアレ、イサエビ?とかいうやつ」
「うん?…伊勢海老じゃないか?」
「そうそう、イサエビ!」
「うーん…。もう、イサエビでいいや」
デイダラが諦めて苦笑していると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「なにやってんだお前ら」
「ん?なんだ、サソリの旦那か」
振り返ると、工具箱のようなものを提げているサソリがいた。
「サソリも鬼鮫に用があんのか?」
「あ?お前には関係ないだろ」
サソリはプイッと顔を背けて食堂のある方向へ歩いて行く。少し離れてからデイダラが飛段に耳打ちをした。
「サソリの旦那は良い研ぎ石が手に入ると、鬼鮫の旦那にあげるんだ、うん」
「マジで?鮫肌、研ぎ終わると石食っちまうのに?」
へー、と呟き前を見るとサソリがこちらを向いて立っていた。その表情、まさに鬼。
「あ、やべ」
「うん!」
「ソォラァ!!」
アジト内に爆発音が響き渡った。
食堂。
廊下を逃げ惑う二人と追い掛けるサソリは食堂から出て来た角都に一喝された後、治療を受けていた。といっても不死と傀儡に治療は必要なく、お世話になっているのはデイダラのみ。
「…子供か、お前達は」
「だから、悪かったって謝ってんだろーが、角都!」
「あぁ?俺をこいつらなんざと一緒にするな」
「もとはと言えばサソリの旦那が!」
騒ぎ立てる三人を再び一喝する。
「いい加減にしろ!…それと、デイダラ動くな。傷痕が残る」
「う、うん。ありがとうな」
意外と優しいんだな、とデイダラが嬉しくなっていると飛段がすぐさま横から茶々を入れた。
「あー、違う違う。角都はデイダラのために言ってんじゃなくて。傷痕を見て鬼鮫が心配すんのが嫌で言ってんだよ」
更にサソリが茶々を入れる。
「言い歳して色気づいたか爺」
「…心が無いと豪語しておきながら鬼鮫に惚れた愚か者に言われたくない」
サソリと角都の間に冷たい殺意が流れる。が、殺意を察知するなんてしたことない飛段は空気すら読まずに台所の鍋に夢中だった。
「なぁ、角都!これカレーだよな!?肉何?」
サソリと角都は"馬鹿には勝てん"と溜息をついた。
「…今日はシーフードカレーだ。肉は入っていない」
肉ではないと聞き、飛段は一瞬残念そうな顔をしたがシーフードは鬼鮫の大好物なので文句は言わなかった。
「んじゃ、俺が採ってきたイサエビも入れてくれよ、角都」
「…伊勢海老なら刺身にすべきだ」
空気が和やかになってきたと、皆が安堵(主にデイダラが)していると、台所にイタチが入ってきた。
ふらふらとまるで、夢遊病者の動きで椅子に近付き、力無く座り込んだ。
「オイオイ、どーしたんだよイタチちゃんよ」
イタチはそれはそれは悲しそうに言った。
「もう一時間も鬼鮫を見てない……」
ぐったりした様子でテーブルに突っ伏す。
普通だったら、『なんだそれ』とツッコミが入るところだが、此処に居る者は皆同じ気持ちだったため、同意するだけで終わった。
「なんなのこれ」
声のした方に顔を向けると、扉を開けた恰好のまま呆れ顔をしている小南がいた。
「鬼鮫不足、うん」
「ですってよ、鬼鮫」
小南が廊下に向かって声をかけると、鬼鮫が「なんです」と言いながら入って来た。
すると、台所にいたメンバー達は一斉に立ち上がる。
その中で1番最初に声を発したのはイタチ。
「も、もう帰ってきたのか。お前の顔が見れなくて清々したから団子を食べようと思っていたのに、これでは台なしだ!団子はお前が食べるなりして処分しておけ!」
棒読み気味で言い、甘栗甘の新作団子を鬼鮫に押し付けて、イタチは台所から出て行った。
イタチに続き、飛段が鬼鮫に近付く。
「オイ、鬼鮫!これ、クソまずそうだけど、捨てんのは勿体ないからテメーが食え!」
イサ…伊勢海老が入ったバケツを無理やり持たせて、台所から出て行った。
次にデイダラが近付く。
「この人形見て自分がどう思われてるかよく考えろ!うん!」
顔を真っ赤にして言うとダッシュで出て言った。
次にサソリが不機嫌そうな顔で近付く。
「研ぎ石を買ったら屑石が混ざってたからくれてやる」
押し付けると、すぐに顔を背けて出て言った。
最後は角都がゆっくり近付き言った。
「…お前が居ないせいで、夕餉を作り過ぎた。過剰分はお前が食べろ」
さっさと出ていく角都を見送ってから、小南は溜息をつき、呆然としている鬼鮫に声をかける。
「大変ね」
鬼鮫は苦笑い気味に笑いながら言った。
「いえ、慣れてますから。こんな面相なので昔からよく嫌がらせをされるんですよ」
「…は?」
「皆さんは嫌がらせのつもりでも、私は得してるんですけどねェ。意外とおバカさんですよね」
鬼鮫はクックッと笑い、お茶をいれるためにコンロへ向かった。
「………1番のおバカは貴方よ、鬼鮫。そこがいいんでしょうけど」
私も貴方みたいにおバカで天然な幼なじみが好きだし、と心の中で呟いたた。
END
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