-弐
□春の日
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それな何気ない春らしい暖かな一日に起きた。
その日、いつもは五月蝿い飛段が妙に静かだった。角都は珍しい事もあるな、とたいして気にはしていなかった。
任務に向かう道中、飛段はようやく喋った。
「角都…」
ようやく聞いた声に思わず振り返ると、飛段は真剣な顔つきで見つめていた。
「角都…真面目な話しなんだ、聞いてくれ」
声も真剣そのもの。角都は何も言わずに頷いた。
「角都にずっと秘密にしてた事があるんだ。俺…俺さァ…」
徐々に俯いて口ごもり、胸元のペンダントをいじる。しばらくいじると、グッと握りしめ顔を上げた。
「俺…、普通だったら死ぬ怪我しても死なないだろ。でも代わりに…記憶が無くなるんだ」
「…なんの冗談だ、飛段」
いきなりの告白に信じられるはずがなく聞き返す。
「冗談でこんな!!こんな事…言うわけ、ないだろ…?」
俯く飛段にどう声をかけて良いのか分からず、角都はただ呆然と銀髪を見つめる。
頭には認めたくないのに、納得している自分がいた。
だから、物覚えが悪かったのか。
だから、五月蝿いくらいお喋りなのに昔話しはしなかったのか。
だから…いちいち名前を呼ぶのか。
「角都…俺、角都の事だけは忘れたくない…」
「…飛段」
抱きしめようと手を伸ばす。だが、邪魔が入った。
「貴様ら、暁だな!」
追い忍が数名、現れ二人を囲む。
「っち。テメーら超スーパー邪魔!」
「…消し飛べ」
すぐさま戦闘体制に入り、硬化した腕で追い忍を蹴散らす。相性が良いらしく敵は簡単に地に落ちた。だが、何だろう嫌な予感がする。屠りながら飛段の様子を見る。
予感が当たった、当たってしまった。
飛段は体中を忍具で刺され、血溜まりに倒れ込んでいた。
「っ…飛段!」
珍しく感情剥き出しの声で名前を呼ぶと、肩がピクリと動き立ち上がった。
「痛ェな、ゴラァ!テメーら皆ぶっ殺してジャシン様に捧げてやっからなァ!?アァ!?」
起き上がった飛段の姿に恐怖し、士気が下がった者達を屠るなど簡単だ。あっという間にその場には飛段だけが残った。
「次はテメーだァ!!」
続いて飛段は角都の方へ向かって来た。俺の背後にまだ敵がいたのか!?角都は慌てて振り返ったがそこには誰も居なかった。
「死ね!」
飛段が鎌を向けたのは角都だった。
素早く硬化を発動し、鎌を受け止める。
「落ち着け、飛段!」
怒鳴られ、名前を呼ばれ、飛段は動きを止めた。
そして、不思議そうな顔で首を傾げてから言った。
「なぁ…あんた、誰?」
嘘だろ?なんの冗談だ、飛段。まったく笑えんぞ。いい加減にしろ。
そう言おうとするのに言葉が出ない。全身から血の気が引き、酷く冷たい。なのに頬には何か暖かいものが伝った。涙…?
泣き出す角都を見て、飛段はうろたえ、鎌を引っ込めた。そして肩に背負おうとしたが、いきなり抱きしめられて鎌は地に落ちた。
「俺を忘れても…いつか必ず殺してやるからな」
ぐぐもった優しい声で言い、銀髪を撫でた。
優しくされ、飛段は動揺する。背中には冷や汗が引っ切りなしに流れ、顔面は蒼白。
だって、今更…『なんちゃってー!嘘でしたァー!やっぱ角都は爺ィだからエイプリルフール知らなかったんだなァ!ゲハハハッ!』
とは言えないから。
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