=弐

□夢中なのは
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よく意外だと言われますが。私は本を読むのが好きです。夢中になって周りが見えなくなる事もしばしば。朝ご飯の後に読み始めて、気付いたら昼という事もあります。
でも、イタチさんは気にしたりせず、自分の事をしています。嬉しいと同時にちょっと寂しいです。

今日はお気に入りの作家がようやく出した、三冊の新刊を読んでいます。
どれも分厚いので、半分くらいで止めようと、シオリを持ちながら読んでいました。しかし、なかなか止める事ができぬまま、物語は佳境に。主人公が死にかけ、ヒロインが悲鳴をあげた、その時です。
その本が引っ張られて宙を舞った。

いきなり現実の世界に引き戻されて、何が何だか分からない。唯一分かるのは涙目のイタチさんが私を睨んでいる事。
混乱で、ただ目をぱちくりさせていると、壁に向かって指をさした。目で追うと、『22時』を指す時計が目に入った。
朝から、12時間読みっぱなしだったのだと、ようやく気付いた。飲まず食わずで12時間も耐え切れるとは、流石は忍だ、と他人事のように思った。

「鬼鮫」

感情を押さえ込んだ声色に慌てて視線を戻す。
一睨みされて、胸を叩かれた。

「少しは構わないと、天照で本を全て燃やす」

もう一度胸を叩こうとするイタチを抱きしめ、『寂しい思いをさせて、すみません』と詫びると、『明日の朝ご飯をロールキャベツにしたら許す』そう言って、抱きしめ返して服をギュッと握った。貴方だって、キャベツの事になると私の事を忘れまよね。思っても口には出さずに『コールスローも付けますね』と返せば、ようやく笑顔を向けてくれた。




一時の夢中は本。一生の夢中は貴方。
一時の夢中はキャベツ。一生の夢中はお前。



END


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