と宝物

□はなさないでください
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手を繋ぐ感覚。
それは、自分がまだ木の葉の里にいて、尚且つまだ母親に甘えた時期に体験した事。

忍びになった日を境に、大人ぶったつもりだったのだろうか、母親に自分から故意に手を繋いでもらおうとした事がなかった。

別に、手を繋ぐのが嫌な訳ではない
だけど、繋がなくなった






「あと数時間程歩きましたら、休憩する…で大丈夫ですか?」

「………………ああ、問題ない」

鬼鮫の声にはっとして、返事を返す。

歩いていた森の中。
人工的な物だろうか、森の中ながら道が出来たその道を歩く。

珍しく、色々考えていた。

それというのも、全て先程の出来事が悪い。

ずっと変わらず自分の隣で、同じ歩幅で歩く鬼鮫の足元をちらと見て、また思考が浮かぶ。



―――あれは、少し坂になった道を歩いていた時の事だ

暗くなり始めた視界には慣れていたつもりだった。
日が1番高い所にあったって自分の視界は暗く、またぼやけている。

ただそれには慣れていると考えていて、別段歩くだけなら困る事はなかった。

のだが、坂道を暫く歩いていたら、暗い視界からか足元に石があったのに気付けなくて、自分はそれに蹴つまずいてしまった。

まあそれくらいならすぐ体制は直せる。
だから直そうとした所、隣でずっと俺の様子を見ていたのか

体制を崩した瞬間、鬼鮫が俺の手を掴んで…否、握って、よろけた体制を直してくれた。



―――で、まあすぐに「大丈夫ですか」やら「気をつけて下さい」やらを言われ、手を離された訳だが。

(……淋しいのか?)

先程握られた右手。
どこか変な感覚がする右手を、開いたり閉じたりして首を傾げる。
淋しい、と言ってしまうと少し表現が合っていない気がした。

(………虚しいのか)

それも少し違う。

なんだろう、と再び首を捻った。

とりあえず、昔母親と手を繋いで、離されたさいの感情はあまり覚えてはいないが、多分似たようなものだったのではないかと思う。


「イタチさん?」

「……ん、ああ」

呼ばれ、前方の鬼鮫を見遣る。
大分離れた距離。

歩きながらの思想で、歩きが遅まっていたみたいのようだ。

再び歩幅を合わせてくれた鬼鮫を見上げ、それから視線を下げる。

下げた視線に鬼鮫の手が眼に入り、暫く見た。

変な感覚が残る右手を、再び握って開く。

握ってもまだ変な感覚がした。

そうしてから、ふ、と視線を鬼鮫の顔に移す。
先程まで前を向いていた鬼鮫の視線は、不思議に思ったのかこちらを向いていた。

それから、鬼鮫は無言で足を止め、どうしましたと言うように首を傾げた。
それに合わせて自分も足を止める。

「……手を」

「…手?」

「……何も言わず、手を握ってくれないか?…一つ確かめたい事があるんだ」

「……構いませんが」

不思議そうながら、鬼鮫は自分の右手を確認して、それからこっちに差し出した。
その行為を見届け、それからまだ変な感覚の残る自分の右手をその掌に重ねる。

(…ああ、やっぱり)

変な感覚の変わりに満たされる感覚。
それに確証地味た思考を向けていたら、鬼鮫が躊躇いがちに手を握った。

確証地味た、ではなく確証になった感覚に一人頷く。

「……すまない、もういい…大丈夫だ」

「………そうですか」

見上げた鬼鮫に言えば、手はゆるゆると離された。
ありがとう、と一度だけ呟き、鬼鮫の返事も聞かずに歩き出す。

それから足跡が聞こえ、また隣に鬼鮫が並んで歩いた。






手を繋ぐ感覚。
何度か父とも、弟とも繋いだ。

けれどその感覚は母と、それと鬼鮫とも違った。

確かに父は尊敬していたし、弟も大切にしていた。
だが、違った。


淋しい感覚でも虚しい感覚でもなく、
母や鬼鮫と手を繋ぐ感覚に


ただ自分は、愛しかったのだと分かった


愛しくて、失いたくなくて、離されたくなくて、

それからいつまでもそうしていたくて


そういう感覚だったのだと、自分の右手を左手で確かめるように触った。


(サスケの所へ着く前に気付けて良かった)

手の感覚は、霞む眼に焼き付ける映像より遥かに支えになるから


手なら、いつでも触れられるから



まあ、そんな綺麗事を言ったって、きっと自分は最後、
床に倒れ、背中に床の感覚を感じ血が流れる感触を堪え、揺れて霞む眼でサスケを見上げながら掠れた思考で考えるのだろう


最後は手を繋いでいたかったな


だなんて




.


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