短編

□名前を呼ばせてよ!
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「やっぱ好きな人には名前で呼ばれたいよねぇ」
騒がしい昼休みの教室で友達が言った。
「アンタもそう思うでしょ!?」
そう質問してくる彼女に少しの間考えて口を開いた。
『....うーん、そうかもね』
「そうかもねって、名前で呼ばれたくないの?」
『そういう訳じゃないんだけど...』
私の場合は好きな人に名前を呼ばれようものならば嬉しさと恥ずかしさで蒸発して消えてしまう。
そう伝えると、デコピンをくらった。
『いたっ!』
「乙女か!!」
『乙女だ!』
ちょっぴりじんじんするおでこをさする。
容赦ないなこの子。
「それじゃあアンタが相手の名前を呼んであげたら?」
『相手?』
そう聞く私に向かって彼女はにやっとする。
「影山飛雄くん」
『さぁて、5限目の授業は何だったかな』
「コラコラ。話をそらすな」
『...考えてみてください。』
私と影山は中学も一緒、部活も一緒で高校も高校での部活も一緒。
長い付き合いだけどどちらも名字呼びです。
それに私の片想いです。
果たして私が影山のことを名前呼びしたところで彼は嬉しいのでしょうか。
いや、嬉しいはずがない。
「分かんないじゃん。嬉しいかもじゃん」
『だって〜...変な顔されたら嫌じゃんか』
「物は試し! 早速明日からやってみよう!」
友達は有無を言わさず笑顔で言い切った。
『まじか...』









朝練のために体育館へと向かう途中、見覚えのある後ろ姿を見つけた。
よしっ、と意気込んで声をかけた。
『トビオちゃーん』
「っ!?」
名前を呼ばれた彼がゆっくり振り返る。
私の姿を確認した影山の表情は少し不機嫌だ。
『おはよ!』
「...その呼び方、やめろ」
『何で?及川さんだってそう呼んでるじゃん』
そう言うとますますむすっとした。
やっぱり影山は私に名前を呼ばれるのが嫌なんじゃないだろうか。
「あの人のマネなんかするな」
『えー、じゃあ何て呼べばいい?』
「別に、今まで通りでいいだろ」
ほら来たよ。この鈍感バレー馬鹿。
ちょっとくらい察しろ。
なんだか悔しいので影山の目を見つめてはっきりと名前を呼んでやった。
『 飛雄 』
すると見つめていた目が開かれ、頬がみるみる赤く染まる。
『あれ?これは怒らないの?
及川さんも言ってるのに、マネするなって言わないの?』
「それは...いいんだよ」
影山はそっぽを向きながら言った。
なんと意外にも名前呼びのお許しが出た。
影山が私に名前を呼ばれることが嫌じゃないんだと分かると嬉しくなった。
『そっか! 飛雄!』
「っ!!」
『飛雄、飛雄!』
「何回も呼んでんじゃねぇ!」
調子に乗って名前を繰り返し呼んでいると怒鳴られた。
『あははは!』


その真っ赤になった姿に私は
期待してもいいですか?





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