恋物語のはじまりを

□綺麗なあの子に会った日に
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「よっしゃ!!次はチーム戦にしようぜ。」

「俺、竜也兄と組みたい」

「俺も!!」

どんよりとした灰色の雲が青空を覆い隠してしまう午後。

三人悪も家にいる竜也兄を取り囲むようにゲーム機を前にはしゃいでいる。


「じゃ、竜也兄は誰と組みたい?」

「んー、てつしかな?」

「ズッリィィィィィ」


そんな4人の姿を後ろから眺めて私は、手元の学校の図書室から借りた本に目を移した。

ゲームの機器は2対2の4つしかないから、私は彼らが楽しげにテレビ画面に釘付けになるのを後ろから見ていることしか出来ない。

私はまた顔を上げると、今にも雨が降りそうな空を窓から覗き込んだ。

こんな日は本当に不吉な予感がしてお尻がむずむずするの。

でも、こんなこと誰にも理解してもらえないから黙るしかない。


「ぐーぱーじゃすッ!!」


ぐーとぱーを同時に出すと、良次と竜也兄がグーを、椎名とてつしがパーをだした。


「やったー!!竜也兄とだ!!」


良次は嬉しそうにその拳を天井に突き上げる。

その横でてつしが涙を我慢するような声を荒げる。


「へッ!チームがなんだ!俺なんか竜也兄の弟だもんね!!悔しくなんかねーよッ!!」


そんなてつしの姿に、

(餓鬼ね・・・)

と半笑いで私は肩をすくめた。

結局男の子はいつまでも子供なんだから。

だからといって私自身が大人かかと聞かれたとき頷けないので、ぐっと思いを飲み込んだ。


「じゃぁ、このチームで再戦スタートッ」


「竜ちゃん、ちょっといらっしゃい。」



良次の言葉を遮るようにてつしママが竜也兄を手招きした。


「えー。」


再戦できなかった不服そうな良次に私は、笑いを堪えた。


竜也兄が腰を上げて玄関へ向かう後ろを椎名、てつし。良次の順に部屋からこっそりのぞき見る。


私も釣られて顔を出すと、玄関には見慣れたおじさんとおばさんが肩を寄せて立っていた。


この近くの西崎さんだ。


そして、西崎さん夫婦の間に立つのは見慣れない少女。

髪の色も大きな目も日本人かとは疑ってしまう。

いや、人間かと疑ってしまうほどの可愛らしい女の子。



「西崎さんちの由宇ちゃん。今度、竜ちゃんの学校に転校してくるんですって」



由宇、と呼ばれた少女。

それは本当に少女なのか。

あまりの可愛らしさに、私は逆にゾッとしてしまった。


「かっ…可愛い!!」


「人形みてぇだ…」


良次とてつしは、あんぐりと口をあけて見惚れている。


なんだかんだ言って、椎名も冷静を装って、ピンクに染まった頬を隠せていない。


「つまんない」


私は唇を尖らせると奥に顔を引っ込めて、本を開いた。

今読んでいるフィクションのヒロインと由宇が被る。

白く透き通った肌、色の抜けた髪。

それも染めているような痛みは見られないから地毛なんだろう。

大きくつぶらな瞳。

明るい笑顔。

そして男性衆の心を奪うスタイル。


お話の中のヒロインも男性衆の心を奪って沢山の人に婚約を求められる。

私はまた唇を突き出すと、ごろりと畳に寝転がった。


玄関の方から聞こえる談笑に耳を澄ませる。


「新しく西崎家の一員となった、西崎由宇です。よろしくお願いします!」


透き通った綺麗な声が金森家に響く。

その声にまたゾクゾクとした感覚が爪先から這い上がってくる。


どうも由宇は西崎さんが引き取った養女らしい。


「おめでとう」
「おめでとう」


と騒ぐ三人たちの笑い声に、また私は声を漏らした。


「つまんない」



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