馬鹿やって幸せ
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俺らと一緒に旅に出た、多分成人してる男性のナルさん。
俺とキョウヘイ、それからメイがヒウンのジムリーダーのアーティーさんを倒してから皆でナルさんのバトルを観覧させてもらった。
その試合は学ぶ事がたくさんあるバトルだったと思う。攻撃はあまり目立ったところはなかったが、避けろの指示が完璧だったと言える。俺らのポケモンに比べてダメージは最小限に抑えられていた。
「ふえぇぇえ……もうポケモントレーナーやめるぅぅ…ふえぇぇえ…」
「むぅまっ」
「りるぅ」
『何言ってるのぐずってないでシャキッとしなさい』
「ウゥッ…」
それにも関わらず手持ちの傷ついたポケモン達を抱きしめポケモントレーナーを辞めるとポケモンセンターで喚いている。
回復から戻ってきたムウマージとマリルはジム戦でシザークロスやはっぱカッターを受け切り傷が多少あったがやっぱり俺らの手持ちよりは軽傷だった。
と言うか、普通ポケモンバトルというのはポケモンが傷つくのは当たり前なのに一々泣いていたらこの先どうなるんだか。
彼の相棒のゴンベにせっつかれて、ようやく落ち着き始めた。それからメイとキョウヘイに手を引かれ次の街、ライモンシティに向かう。
それにしても、アイツは何処にいるのだろうか。
イーブイをさらっていった自分勝手な女。アーティーさん曰く、姿を変えたイーブイにコテンパにされたと苦笑していた。
ヒウンはやることがないからライモンに速攻いく、アーティーさんも来ませんか?などと言われたらしいがジムリーダーである彼は丁重にお断りしたそうだ。
「ヒュウ兄?」
「…!わりぃ、ボサっとしてたわ…」
「怖い顔してたぞー?せっかくのライモンシティだぞ!」
「そうだよ!メイ、サブウェイ行ってみようぜ!!」
「うん!どんな強い人なんだろう!!」
「おう、行ってこい行ってこい」
ライモンシティに足を踏み入れるとメイとキョウヘイはテンション高く落ち着かない様子だ。無理もないか、ライモンシティは田舎暮らしの俺達からしたら想像もつかない楽しそうなところだ。
正直俺も回って歩きたい。
二人が忙しなくしているとナルさんが頭を撫でて落ち着かせてから自由行動の許可を出す。
それから二人の行動は早かった。それを穏やかな表情で見送るナルさん。…なんか逆に静か過ぎて怖いな。この人だったら一緒になって騒ぎそうなものだけど…。
「あ、ヒュウ君もご自由にどうぞ。俺もちょっと、ご自由にするから。」
「…なんか元気ないすけどまだ気にしてんスカ?傷が痛むとか。」
「んー…。んん、ちょっと色々考えることがあるなって。」
「考えすぎは良くないっすよ…」
「ははは、その言葉、そのまま返すよ」
それからさっき二人にやったように俺の頭を撫でると横で黙っていたリオを俺に預けると言って猫背で去っていった。
…普通相棒おいてくか?
気を使ってリオの方を見ると目が合った。ゴンベは困ったように笑った。
『常にハイテンションだからたまにああやって静かになるんだ。あんまり気にしなくていいよ。』
「良く知ってるな。」
『友達ですから!さて、僕もちょっと一人でフラフラしてくるよ。』
「ポケモン一人で危ないだろ…!しゃべれるとわかったら余計…」
『大丈夫、行くのは草むらだから!』
じゃあ、ポケモンセンターで!そう言ってリオも笑顔で手を振って俺に背を向けて走っていった。
一人になった俺はやる事がなく、仕方なく一人でそこら辺を回ることにした。
メイとキョウヘイはサブウェイ、ナルさんはアトラクションの方、リオは草むら方面に向かった。
なら俺はあえてスポーツが盛んなスタジアムに行くことに決めた。でも俺はその日、スタジアムに行く事はなかった。
向かう道中、ミュージカル会場にとある影を見つけた。
そいつは、探していた誘拐犯。
「エンリー!!!!!」
「あ、ヒュウ!!先に行っちゃうなんてひどい…きゃっ!!」
意味の分からない事を言う反省の色のないエンリーを見て俺は自分の中で静かに燻っていた黒い怒りが押し上げてきた。
コイツはあのクズなプラズマ団と同じだ。チョロネコを奪ったあいつらと変わりない。
俺はエンリーの旅に向かない小さなポーチの紐を掴み上げた。本当は胸倉を掴んで壁かなにかに叩きつけたかったが流石に女にやるほど俺の理性は焼き切れてなかった。
「お前は最低な奴だ。」
「な、何言ってるのヒュウ!!!まだあのゴンベに囚われてるの!!?」
「囚われてるのはあのイーブイだろ?!」
「っ!?……なに、エンリー、イーブイを捉えてなんて、ないわよ」
「アーティーさんから聞いてるんだ。進化も退化もできるイーブイをお前が使ってたって。監視カメラにだって写ってる。」
「…ヒュウ、勘違いよ?魅恋、イーブイは自分から仲間になったのよ?」
「いい加減にしろ!!!!」
なおも適当なことを言うエンリーに怒鳴りつけるとびくりと肩を震わせ一瞬怯えた表情を見せた。けどそれは一瞬、俺と同じように怒りを顔に滲ませた。
「…なんなの?ヒュウはエンリーの敵なの!?なんで惚れないのよ!!!」
「訳のわかんないこと言ってんなよっ!イーブイを返して皆に謝罪しろ!!!」
「っヒュウなんていらない!!!!!」
「っつ…!おいっ…!」
エンリーは甲高い声で叫び俺から逃げるために大暴れする。ヒステリックになったエンリーは俺の腕に爪を立て痛みにひるんで手を離してしまった俺から逃げ出し人混みの中に消えていってしまった。
辺りで見ていた人は俺を心配して声をかけてくれたが俺は怒りを抑えることで必死だった。
いや、もう既に怒りを通り越して呆れに近い。
おそるるに足らない少女、ただなんでだか、彼女が人の道を外す程とんでもない事をやらかしそうな、そんな気がした。
さようなら嫌いじゃなかったよ