*オリジナル

□あるはずないって
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失礼します。

放課後の職員室はなにやら忙しそうだ
パソコンの打つ音が聞こえたり
進路について話し合う声が聞こえたり
そんななか私だけがのんびりしていた。

忘れた。プリント
数学のやつ

それを言いにきたのだ

職員室入ってすぐ右側の席
ご用のある先生はいる。
コーヒーを飲みつつパソコンを打っていた


お仕事中失礼します


そう声をかけると佐野先生は顔をあげた
二十代前半。数学教師。独身
かっこよくは…ない。
一部のマニアには人気だ


「どうしたの?」


うわっタバコくさっ
やめといた方がいいよ、タバコ
嫌いな女の子も多いんだよ


「あの、数学のやつ忘れちゃって…」



そこまで言うと佐野先生の表情が曇った
先生方は提出物には敏感だ


「あした、もっていってもいいですか?」


少し考えたあと
いいよ、今度からは気を付けろよ
と言ってくれた。
怒られなくて良かった
成績は下がるかもしれないが…



「ところで……みか見なかったか?」


その質問にギョッとする
みか先輩。先生のお気に入り
先輩も先生のことが大好きだ
補講と話をつけては放課後だいたい一緒にいる。
あまり、その関係は良くないと私は思う


先生はみかがなんとかかんとか
聞きたくない話を続けていたが
私の耳にはまったく入ってこなかった
目を引き付けられる人がいたから
佐野先生の他に


黒いスーツ セーター
がたいの良さそうな体。
噂に聞くと、すごく元気のいい、先生
名前は忘れた

今までその先生は佐野先生と同じようにパソコンを打っていたが
今、急にうつ伏せになった
大丈夫かな、と心配になった
知らない先生なのに


「みか先輩ならさっき廊下で見ましたよ。」

「ほんとうか?」


嘘です。見てません。
でも会話をすぐに終わらせたかった
先生も先輩のところにいきたいと思うし


「はい、お仕事中失礼しました」

「おう」


かたっくるしい挨拶して立ち去る。
私は出口の方向を向いたが、踵を返して名の知らない先生のところへ向かった


「あの」


つんつんと背中を叩くと先生は起きた
重そうなまぶたを擦ったあと
なに、と聞いた
テーブルの上には無造作に置かれたイヤホンと汚い字で書き込まれたノートと…
色々あった


「大丈夫ですか?眠いんですか?」

「いや、まぁ、な 」

余計なお世話だったかな
先生はそっぽを向きながら答えた
生徒に心配されて不服だったのだろうか
少し猫背気味の広い背中が、自分より長い間生きていたことを物語っている


「俺のこと心配してくれたの?」


「あ……はい」


先生は口角をあげた
あ、ちょっといいかも
なんてなにを考えているんだ私は


「へぇ、ありがとう」


さらに口角が上がる
文字に表すとすれば ニッという感じ
重たそうな瞼が私を見つめ
ぱたぱたと瞬きをする
いがいと睫毛が長いことに気がついた


「いえ、お仕事中すみませんでした」


私が頭を下げると
はは、と上から声が聞こえる。先生、変なところで笑うね



「いいんだよ。ありがとう頑張るね」



右手で敬礼した先生に笑みを返す
私も頑張ろ、そうおもって職員室を出た


廊下で、みき先輩と佐野先生が仲良さげに話していた。
あれ?先輩、廊下にいたのか

楽しく話す二人をさっきの先生と私に当てはめて考える。


いや、そんな親しくなるわけない、と思い誰も見ていないところでニッと笑ってみた

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