銀魂

□あかい夢を見る
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夢を見ていた。
白い空間で一人さまよう俺。
回りを見渡すと……

後ろに小さい黒い点が見える。
もぞもぞと点が動く。
あれは点じゃなくて人だ。

人はゆっくりと俺の方に向かって歩いてくる。


「さーがるーどのぉーーー!!!」


その黒い点のような人から発せられた言葉を聞き、不快感とか恐れとか困惑とかいろんな感情が混ざりあって、気持ち悪くなって
それを書き消すために手を払った。
思いっきり


パンッ


それで目が覚めた。

「退殿はSでござるか?」

目の前に右頬が俺の手によって
潰された万斉の顔があった。
万斉は俺の右手を左手で押さえて
恍惚とした表情を浮かべているので
右手を思いっきり引っ込め布団の中にしまってやった。

「きもちわるい」

「起きたらまず最初におはよう。
でござるよ?」

そう言いながら俺の額に唇を落としてきた。昨日とまったく同じところだ。
昨日とまったく同じ感触だ。

「やめろよ……」

そういってごしごしと河上が触れたところを擦った。これも昨日と同じ。

「失敬でござる…」

しゅんとして見せるが、可愛くもないし
同情も湧かない。
ただ、いつもキリッと上がる眉毛が下がったのを見て優越感のようなものを感じた。
暫く河上は項垂れてぶつぶつと俺に対する不満を呟いていたが、俺が二度寝をしようとしたときに側に置いてあったお盆を引き寄せた。

「お腹が空いてるだろう。
今は6時。ちょうど夕飯時でござろう?」

あ。そういえば俺、一週間寝込んでたっけ。
起きたときには厠行きたいとか食べ物食べたいとか生理的欲求が一番先にくるはずだが、コイツのせいでそんな余裕もなかった。

「……じゃあ、もらおうかな。」

敵に食べ物を恵んで貰うのもおかしい話だな、と思ったが
今は自分のことを最優先すべきだし
コイツは敵だけど普通の敵じゃない

「たくさん食べるでござる〜」

そういってお盆を布団の脇に持ってくる。
お盆の上には美味しそうな卵粥(たまごがゆ)と日本茶。
そして俺に一口の量のそれを乗せたスプーンを差し出す河上。

「えっと………一人で食べれるんですけど……」

「あーん、でござるよ。」

「ちょっとそういうの困るんですけど…」

「あ〜〜ん」

「…………」

「あ〜〜ん」

うん駄目だ。俺のプライドが許さない。
大事なものをなにか失う気がする
いや、失うんじゃなくてコイツに破壊される気がする。

「食べないんでござるか?」


「お前がそんなことやるんだったら食べない。」

そう言ってるなか、俺のお腹がグーーと間抜けな音を出した。


「ほう。」


河上がにやにやしながら俺のお腹と顔を交互に見てくる。
うざい。その一言に尽きる。


「早くしないと冷めてしまう。」


河上はなおニヤニヤしながら
またスプーンを向けてきた。

俺は真選組の監察だ。
どんな拷問にも耐えてきた。飯を我慢することだって不可能じゃないだろう。
しかし、今は拷問の最中じゃないし
傷を直すのが目的。
食欲ぐらい我慢しなくてもいいじゃないか。
自分の中で精一杯の言い訳をして
食べることにした。
敵に食料を与えられるなんて
山崎退、一生の不覚です。

「おい、スプーンをはなせ」


「いやでござるー」


うぜェェェェ。今すぐコイツをぶん殴ってやりたい。
しかしそれは本意ではない
しかたなく
そう、しかたなく最初の一口は河上から食べさせて貰った。
スプーンに顔を近づけ口にする。
暖かいお粥が口の中に入ってきて
卵の優しい風味が広がる。
美味しいじゃないか。


何故か急に真顔になった河上の手からスプーンをひったくる。
案外簡単にとれた
とれたというよりはずれた、という感じ
河上はなにも言わずにいわば放心状態になっていた。

そんなことは気にせずに卵粥をすくい、河上の口につっこむ。

別にお裾分けとかそういうのじゃなくて
ただの毒見。
俺が先に食べてしまったからあまり意味はないのだけど、もし俺がコイツの思い道理に引っ掛かって死んでしまったなら悔しくて成仏できない。ふくちょーたちにも申し訳ない。
せめて河上は道連れにしてやろうと考えたのだ。
もし河上が食べなかったら危ないが
そのときはそのときだ。
事実、今ソイツはもぐもぐと口を動かしているから問題ない。

河上の喉がごくん、と動いたかと思うと
ポタ、ポタ、と畳の上に液体が落ちた。



それは、綺麗な赤色の鮮血だった。
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