夢小説

□死体の花婿 前編
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村の外れに、その墓は存在していた。深い深い森の中。日も滅多に当たらない。苔や雑草に覆われたその墓周辺は、地元では幽霊が出ると有名で、肝試しをしようとする若者以外滅多に人が訪れない。
これは一体誰のお墓なの?
子供たちは疑問に思う。
誰も知らないんだよ。
大人たちは答えることが出来ない。昔は知っている人がいたとかなんとか言う人もいたが、それすらはっきりしない。
唯一の手がかりになりそうなものは、墓石の代わりになっている古びた剣のみである。



「はあ…結婚、したくないなあ…」
村の少女名前は、右手の中にある指輪を見ながらため息をついた。それを眺めつつ、ひたすら森の中を歩く。
彼女は近々結婚することになっていた。一度も会ったことのない相手の元へ嫁ぐのだ。ここら地域一帯の領主に、である。
数年に一度、村から若くて綺麗な女の人は領主の元へ嫁がせなくてはならない決まりになっている。
「止めたい止めたい…」
だがしかし、村は過疎化が進んでいて、現在嫁げる年齢の女性は名前しかおらず、断ることなど出来ない。ため息をついた。
森全体が暗いせいか、名前の気分も先程より落ち込んでいる。一人になりたいと森に入ったのは失敗だったらしい。
領主がいい人なのか悪い人なのか、彼女は知らない。辺境の村だ、外界がどうなっているのかなんてほとんどわからない。数多くいる領主の子供の一番上が、名前と同じ年くらいなので年の差がすごいことだけはわかっていた。それだけでかなりの抵抗がわく。
ぶつぶつ文句をいいながら歩いていると、だいぶ奥まで来てしまったらしく、昼間だというのによく周りが見えない。カラスだろうか、鳥の鳴き声が響いている。
ようやく顔をあげた名前は、周りを見渡して顔を青くした。
そういえばここ、いわゆる出る場所じゃなかったか。
彼女が動きを止めたことに呼応するように大きく鳥が鳴いた。木も揺れて、ざわざわと聞こえる。
恐怖で逃げたいのに固まってしまった体が、さらに動かなくなった。
「か、帰ろう…」
村からほぼまっすぐ歩いてきたから後ろ振り向いてそのまままっすぐ行けば村に戻れる。動かない足を叱咤して、無理矢理動かし、後ろを向く、そして走り___出そうとして、目の前にカラスが飛び出してきた。
「うわぁ!!?」
びっくりして尻餅をつく。思わず目をつむって、腕を頭の腕で交差させる。もしかしたら先程のカラスに襲われるかもしれないと思ったからだ。しかし、暫く待っても何の音も聞こえない。おそるおそる目を開けると、そこにはカラスはおらず、ただ暗い森があった。
「な、なんなのさ…」
立ち上がっておしりについた泥やら葉っぱなどを払う。少し湿っていた。帰ったら着替えなければいけないだろう。
そこで、はた、と動きを止め、おそるおそる右手の中を見る。なんにもない。
「あれ……」
指輪、どこいった?

今度は恐怖ではなく、(ある意味恐怖だけども)事態のヤバさに気づいて顔が青くなった。あの指輪は彼女が領主からもらった結婚指輪だ。今回の婚約の証でもある大切な。
結婚できない心配ではなく、領主直々に戴いた指輪を無くしたとあれば、相手側から責められる可能性がある、ということへの心配だ。そんなことになったら、村八分にされるだろう。二度と平穏な生活は出来ない。やばいやばいとパニックになった頭で考え、周りを見て探し始める。
そして、
「…あ!」
先程まで全く気づいていなかった墓の存在に気づいた。しかも、指輪はそこにあった。墓から突き出ている何かに引っ掛かってしまっているらしい。まさかあそこに転がっていってしまうとは。
見つかったことによる安心と、何でよりによってそこなんだよというわずかな恐怖がまざった表情をしながら、名前はお墓に近づいた。

「…墓石、じゃなくて、…くすんでボロボロだけど、剣?」
近づいてみると、剣は周りが暗いこともあるが、もうボロボロでもとの色がわからない。近くにこの墓の主の名前が彫ってある何かも置かれていない。本当に異様なお墓である。
お墓お墓と言っているが、実際にこの下に骨があるのかなんてことは知らない。ただ単に誰かがこんな辺鄙な場所に剣を突き立てただけだろう。名前はそう思っていた。ところが、いざ指輪を取ろうと屈んでみて、また尻餅をついて、今度はそのままズザザザザッと後ろに下がった。
「ほ、骨があああぁぁぁぁぁ!!!」
なんてことだろうか、指輪は地面から僅かに出ていた白い何かに引っ掛かっていた。
咄嗟に骨だと思い込んだ名前は距離をとったはいいが、そこから動けなくなった。

指輪は大事なものだ、もって帰らなければいけない。でも引っ掛かっているのは骨(仮)だ。普通に考えて触りたくない。だがしかし、持って帰らなければ確実にお先真っ暗である。村から追い出されるかもしれない、と悪い方悪い方へと考えが進んでしまう。
じっとしているだけでは事態は好転しないし、なにより早く帰りたい名前は震えながらも再度墓に近づいた。震えのせいで上手く動かせない手を伸ばし、いざ指輪を取ろうとしたときにその声は聞こえてきた。
「あんたの申し出、快く受けとろう。」
「ふぁ!?」
また尻餅ついてずざざざざざ!っと後ろに下がらざる終えなかった。なんだ今の。とりあえず、なんか声がした。低かったし男の人っぽい。だがしかし、周りには名前以外に人影なんてない。
「だ、だだだ誰だこら姿見せろぉぉぉお…!!」
震えながら叫んでとりあえず威嚇してみた。
怖いものなんて見たくもないのに、視線は何か異様なものを探して動き回る。木々の奥、暗くてよく見えないところ、、木の影、そして先程のお墓に視線を戻した。
「……!!?」
驚きすぎて声すら出なかった。白骨した手が突き出ていた。どう考えたって異常なそれに視線は固定され、ガタガタと震えながらその場に経垂れ込んでいることしか出来ない。
声が聞こえるまでは確かに白いものが見えていたが、ここまで明確に手だ、とわかるほどじゃなかった。
そこからが早かった。周りの土が、落ち葉が、石が、枝が、その白骨の手に集まり、やがて、まごうことなき人の手の形をとった。
ぼこっ。
手の周りの土が膨れた。それは徐々に膨張していき、------破裂した。
「ひ、ひぎゃああああああミイラゾンビキョンシぃいい!!!!」
とりあえず墓から出てきそうな怖いものを思い付く限り叫んで顔を覆い隠した。
「げほっ、ゲホっ………」
視界真っ暗。耳に誰かの咳き込む声が入る。逃げないと、と思っているのに体は動かず顔すらあげられない。
暫くじっとしていると、
「おい。」
男の人の声がした。
「おい、顔をあげろ。見えないだろ。」
あまりにハキハキとした物言いに呆気にとられて思わず首が動いた。墓から出てくるような怖いものは変な叫び声とかしかあげないと思っていた。
そして目の前にいるであろう化け物を見る。
「……え、」
一体どんな恐ろしい外見をしてるのかさっきの声の主はどんなやつなんだと、顔をあげるまで考えていたこと全部ふっとんだ。
端正な顔立ちをした、到底化け物には見えない歴とした人がそこにいたのである。


※長くなるのでここで一旦カット。続きます。
時期としては暁後にアイクが旅に出てテリウスには二度と戻らないまま、旅先の地で死亡してから100〜200年後。
三ヶ月くらい試行錯誤して書いたので続きもおそくなるかもしれません。

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