dream

□微熱注意報
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男の子は苦手だ。
乱暴だし、下品な冗談ばかり言うし。
力で敵わないのも気に入らない。
女の子は優しいし、群れるのも悪くない。
だから、私は男子の名前を殆ど知らない。同じ訓練兵として共同生活を始めて二ヶ月経っているというのに、だ。
話題に上がる有名どころの名前はそこそこ覚えているけれど、顔と名前が一致するのは何人だろうか。
それで困ったことがなかったから、良しとしよう。

そんな風にのらりくらりと過ごしてきたツケだろうか。
今、目の前で起きているこの現実が理解できない。

「えーっと、ごめんね。あなたは…」
「ジャン・キルシュタイン。」
「そう、キルシュタイン君ね?」
「ジャンでいい。」
「…ジャン君。」
「何?」

何って、こっちが聞きたい。
いつもの食堂。いつもの昼食。
数日経てば、大抵の人はなんとなく席が固定される。
いつもなら友人が座ってる席に、割り込むようにして腰を下ろした彼。
困惑した友人は、反対隣に座ってくれた。
そういう日もあるかと、食事に向き合ったところで、グイッと身体を横に向かされたのだ。
勿論、そんなことをするのは友人ではない。
見ず知らずの彼である。
私の両肩を掴み、至近距離で顔を凝視する彼。同じ班になったことはないし、会話をしたこともない。
見たことは、あったかもしれないけれど。

「ジャン君、何か用…かな?」

当たり障りのないように、へらりと笑えば、彼の眉間に皺が寄る。
そんな顔をされましても、無言で凝視してくるほうが悪いのではないか。
隣の友人は、この状況に臆することなく昼食を食べ始めている。私だって空腹なのに。
あぁ、昼休みが終わってしまう。

「あの、ジャン君…?ご飯食べようよ」
「あぁ。」

返事はしてくれるものの、掴まれた肩はそのまま。ついでに眉間の皺も。
綺麗な顔をしているのに勿体無いな。
こちらも凝視してみると、彼の顔はなかなかに格好良いことがわかった。
綺麗な色の瞳をしている。顔の肉付きから、スタイルも良いのだろうと推測できる。
そこでふと、記憶の片隅に彼の姿が浮かんだ。
もしかして、彼はよくここで喧嘩をしているあの問題児集団兼優秀兵集団の一人ではなかったか。

まぁ、顔が良かろうと、成績が優秀だろうと、私には関係ない。

「顔、離してくれないかな」
「お前さ…」
「え、何?」


こつん。
軽い衝撃。近づいた顔。
額に触れた、これは何。


「やっぱり。熱あるだろ、名無しさん。」

溜息混じりにそう言って、彼の顔が離れていく。
ねつ。 熱。熱?そんなの、今上がっただけじゃないの?
どうして名前知ってるの。
どうしてそんな心配そうな顔をしているの。

「無理すんな。医務室行くから、落ちないように掴まってろよ?」

あぁ、もう訳がわからないよ。
何故私は横抱きにされているの。
何故君は顔が赤いの。


エマージェンシー。エマージェンシー。
体温上昇。脈拍異常。
胸も、少し苦しいみたいです。

顔が赤いのは、お互い様ね。
先ずは彼のことをもっと知りたい。
男の子は嫌い。でも君は、何かが違う気がするんだ。



END

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