短編

□雨の日
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じっと目をあわせていると、やがて疲れたように猫は下を向いた。
その小さな姿は庇護欲をくすぐり、たまらずに抱き上げると、やはり寒かったのか抵抗はされなかった。
「おまえをうちで飼えたら良かったんだけど......。ゴメンね」
体を暖めるように撫でながら、そう小さく謝った。
するとそのとき、後ろから声がかけられた。
「佐倉さん、どうしたの?」
「......羽山さん」
クラスメイトの羽山さんだった。
彼女はわたしが抱いているものが何かを理解すると、困ったように顔をしかめた。
「捨て猫......だよね、その子。今日は雨が降るって言ってたのに」
「うん」
立ち上がり羽山さんに向き直ると、羽山さんは仔猫の頭を指先で撫で、切な気な顔をした。
わたしはそれを見ながら、淡い期待をもって羽山さんにたずねた。
「この子、うちじゃどうしても飼えないの。羽山さんのうちで飼えないかな」
少し考える素振りを見せたのち、、羽山さんはひどく残念そうにかぶりを振った。
「そっか......」
どうしたらいいのだろう。なんとかしてあげたい。そう思うのに、なにも思い浮かばない。
時がたつごとに強くなる雨が、容赦なく私たちを襲う。
傘からはみ出た鞄やスカートは、すでにびしょ濡れだった。
「......生き物を飼うのがね、怖いの」
不意に呟かれた言葉は、羽山さんのものだった。
わたしはそれにどう答えていいかわからず、仔猫の背を撫でた。
怖い......か。
確かにそうだ。でもだからと言って見過ごせないよね。
「そうだ、里親探しをしよう」
「......私たちで?」
「羽山さんも、手伝ってくれるの?」
「それは、もちろん。だけどどうやって?」
「まずは学校で声をかけて、それからポスターはったりとか。その間は、雨と風をしのげる場所でこの子のおせわをするの!」
そもそも、この方法しかない。それに、乗り掛かった船だもの。最後までやりきりたい。
それは、久しぶりに自ら意欲を発揮した瞬間だった。
「そう......そうだね、やろう!佐倉さんとなら、できる気がするよ」
「そうかな......。うん、この子のために、精一杯のことをしよう!」
雨が、少しずつ弱まりを見せていた。
わたしたちは一匹の猫のため、雨の中を再び歩き始めた。
明日は晴れますように。
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