gift

□アツイ言葉
1ページ/1ページ

残暑厳しいフィオーレ王国。

ルーシィは、日差しが厳しくなる前にギルドへ朝早くやってきた。
ギルドにいる仲間達に挨拶をしながら、定位置であるカウンターの席に座ろうとすれば、そこには既にナツが座っており、テーブルに突っ伏して微動だにしていなかった。

「おはようナツ。今日も暑いわね。てか、あんたには暑いとか縁が無かったわね。あはは。」
「……い」
「え?なに?聞こえなんだけど?」

ナツは突っ伏したまま話しているせいか、彼の声がハッキリとは聞こえていなかった。片手を耳に当て、身体を近づけるとナツは突然席から立ち上がり、あっという間に距離を取った。

「だからアツイ!!」
「は?何言っているのナツ?」
「ルーシィが近くに居るとアツイんだよっ!!お前のせいでアツクルシイんだよっ!!」
「な、何それ。」

なぜか顔を真っ赤にしながら怒っているナツに戸惑っていると、ミラが(いったい誰がこんな朝っぱらから飲むのか)手にお酒の入ったジョッキを持って二人の前を通り過ぎようとしていた。

「おはようルーシィ。」
「おはようございますミラさん。ナツ、いったいどうしたんですか?あたし何もしていないのに責められているんですよ?」
「うふふ、そういえばさっきハッピーと何か話してから様子が可笑しくなったみたいね。」
「ミラ!!余計なこと言うなっ!!」
「あらあら、ナツに怒られちゃった。うふふ。じゃあ私忙しいからもう行くわね。」

ミラが通り過ぎて行き、再びナツに目を向けると今度は勢いよく顔を反らされる。
何やらぼそぼそと喋っているが全く内容が聞き取れない。言葉を聞こうと一歩近づくと、ナツは一歩後ろへと下がる。その間視線を合わそうとしないナツにルーシィは苛立ってきた。
そんな動作を繰り返しているうちに、ナツはとうとう壁を背に身動きが出来なくなってしまった。

バン

壁を叩きつける音がギルド内に響いたので、何事が起きたのかと仲間達は音が鳴った方向に顔を向けると、そこには信じがたい光景があった。
その光景とは、腰が引けて身体を縮こまらせているナツの逃げ場を塞ぐかのように両手を壁に付いているルーシィの姿だった。

「ナツ。」
「あい……」
「暑苦しいってどういう意味かしら?」
「あ、いあその……」
「あんたはよく人の話を聞くときは目を見ろっているけど、今はどうなの?思いっきり反らしてるじゃない?」
「あい、ごめんなさいぃ。」

この時仲間達は思った。
最近のルーシィはエルザ級の迫力が出てきたと。
ここでナツに助け船を出せば自分もただではすまないと判断した仲間達は、静かに見守る事に徹することにした。
あー、だの、うー、だのとハッキリしないナツの姿に業を煮やしたルーシィは、マフラーを掴むと無理矢理立たせ、顔を近づける。
何時もならルーシィの方が近いと言い離れるが、今日に限ってはナツが顔を離す。

「だからアツクルシイからから近寄んな。」

ナツの大声に驚いたルーシィは、マフラーから手を離す。眉を下げ寂しそうな顔をして。

「そっか、わかった。も、もう近寄らない。ごめんねナツ。暑苦しい奴でごめんね……」
「ルーシィ?」

俯いてしまったルーシィの顔を覗き込もうとしたが、一歩下がられた。
もう一度覗こうとナツは一歩前に出たが、彼女は背を向けギルドから走り去ってしまった。
ナツの手に温かいひと雫を落として。

「な、なんだよ?なんで……」

手に落ちた雫を、もう片方の手で包み込む。

「ナツ!!追いかけなきゃ!!」
「へ?なんでだ?」
「だって泣いてたよ。」
「それだハッピー。なんで泣いてるのか、わかんねぇし。」

飛び出したルーシィと入れ替わる様に慌てて駆け寄ってきたハッピーは、何故彼女が泣いていたのか理解出来ないナツに説明した。
初めは唇を尖らせ、不満な表情だったが、話を聞いている内にそれは真剣なものに変わっていった。

「じゃあ、俺が間違っていたのか。」
「うん。ナツは普段そんな言葉使わないから気が付かなかったかもしれないけど、ナツの言ってい意味とルーシィが受け取った意味は全然違うんだよ。」
「俺謝ってくる!!」

ハッピーが見送る言葉を最後まで言い終わる前に、ナツはギルドの扉を乱暴に開け出ていく。ルーシィが走り去ってから随分時間は経っていたが、ナツなら簡単に探しだせるだろうと確信し、背中の袋から魚を取り出し頬張った。


ルーシィの匂いを辿ると、その先には彼女の部屋が見えてきた。何時も通りに窓から侵入しようと壁に手を掛けたが、そこでナツの動きが止まる。
滅竜魔導士の耳に聞こえたのは、嗚咽。

俺が泣かせた。クルシイ。

さっきとは違う苦しさがナツを襲った。俯き、拳を握りしめ苦しさに耐えていたが、意を決して壁を登り窓枠を開ける。カタリと開いた窓に静かに息を吐き出して部屋に入り込む。

「帰って、また暑苦しくなるわよ。」
「ごめん!!」
「え?」
「俺、間違ってた。」

突然の謝罪に驚き振り返るが、頭を下げて謝るナツの真意が分からず涙に濡れた瞼で何度も瞬く。

「俺、アツイって言葉なんて使わないから、使い方間違ってた。俺が言っていたアツクルシイってのはっ……」

赤くなる頬を隠すかの様に口元までマフラーを上げたが、ルーシィにはしっかりと見られていた。

「み、見んな。」
「ごめん。ばっちり見えた。ねぇ、間違ってたって、どういう意味なの?」
「……それは。」

長いような短いような沈黙だったが、ルーシィは待った。そして、意を決してナツは口を開く。

「朝、ハッピーに相談していたんだ。」
「うん。」
「俺、最近変なんだって。」
「それいつものことじゃない。」
「うぐ、聞けって。最近ルーシィの傍に居ると体を動かしていないのに体が熱くなって心臓がドキドキ五月蝿くて苦しいんだ。それで、思わず略しちまった。」

ああ、それでアツクルシイなのか。とルーシィは理解した。理解したと同時に顔が真っ赤に染まる。

「な、ナツ、それって……」
「ハッピーが言うにはな、それは、」
「そ、それは?」
「それはルーシィに恋してるって言われた。なんか、すげぇ納得した。」
「な、何を納得したの?」
「俺、ルーシィが好きだって事。ルーシィが俺にとって特別な存在だって事だ。」
「ナツが、ぁた、あたしを好きって、嘘よね?」
「なんでルーシィに嘘つく必要なんてあるんだよ。こうなりゃ何度でも言ってやる。俺はルーシィが好きだぁぁぁあ!!」
「きゃああ!?声が大きい―――!?」
「あ、そうそう返事は?」
「そそ、そんないきなりで分かんないわよ。」
「じゃあ、返事くれるまで言い続ける。」

ナツの告白はルーシィからの返事があるまで、ずっと続いたらしい。


おしまい

2014/09 林檎

残暑見舞いの企画参加の文章。押しかけで参加させて頂きました。支離滅裂な文章を受け入れてくれた御方に大感謝です。
ありがとうございました。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ