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□if〜もしもの世界〜ボンボン・ア・ラ・リキュール
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此処は、魔導士ギルド『妖精の尻尾』


何時もなら、騒がしいほどの喧騒が、水を打ったように静かな様子に太陽が登り切ったお昼頃にギルドにやってきたルーシィとハッピーは首を傾げた。
仲間達がギルドの真ん中に集まり、一つのテーブルを囲んでいた。
ルーシィとハッピーが人垣を掻きわけテーブルに近ずくと、そこにはナツとカナが向かい合い小さなグラスを片手に睨みあっていた。テーブルの上には、二人の手の中にあるグラスと同じ物が積み上げられていた。
ナツ。とルーシィが声を掛けようとしたところに、ミラが唇に人差し指を当てながら、ルーシィをその場から連れ出す。

「ナツとカナが凄い睨み合っている上に、お酒臭かった。もしかして、酒飲み勝負ですか?」

ナツは普段お酒は飲まないし、進められても一切断っていた。 それなのに、よりにも寄ってあの酒豪ともいえるカナと酒飲み勝負をする事は、ルーシィにとっては信じられない光景だった。
ミラは、次のお酒を用意しながら、首を傾げる少女の質問に答えた。

「ふふ、なんでもね、カナが映像用の魔水晶でスクープ撮れたってナツに見せていたの。そうしたらね。うふふ。」
「ミ、ミラさん?」

珍しくミラが堪え切れずに声を出して笑い始めた姿に、ルーシィは早く理由を聞きたくてミラを急かした。




カウンターでミラから頼まれたドリンクの試飲していると、珍しくまだお酒を飲んでいないカナが隣に座って来た。

「ナツ。良いもん見せてあげる。」
「いい。」
「遠慮しないの。ほら!!」

目の前に出された魔水晶を、しぶしぶ覗いたナツの顔色が一瞬で変わった。その様子にミラが不思議に思い魔水晶を覗こうとしたが、カナはそれを見られない様にカウンターの下に隠した。

「ふっふー。どうナツ?あたしとしては、別に隠す必要はないんだけどね?」
「要求は?」
「流石話が早い。ナツが酔った姿を見て見たいんだよ。あたしが!」
「あのな、それってお前の自己満足じゃねえか。で?断ったら?」
「勿論、これは皆で鑑賞するだけだよ?」
「……分かった。要求は受ける。」

カナが出した要求は、『酒飲み勝負』
ナツが勝てば魔水晶はナツの手にし、カナは絶対に他言はしない。負ければ皆で鑑賞。と、いう内容だった。
どちらにしろ、ナツには不利な内容だったが選択の余地はなく、勝負を始めたのだった。


ナツの顔色が一瞬で変わる程の代物に興味を持った仲間達は、当然の如くカナを応援していた。
ギルドそのものを敵にまわした様な状態で、アルコールをナツは表情を変えることも無く飲んでいた。
いくら仲間でも、酒をナツに飲ませる状況を作った仲間に対してルーシィは怒りを露わにした。腰にあるホルダーに伸ばした手をミラが止める。

「大丈夫よルーシィ。あればそういう勝負用のお酒だから。それに、魔法の作用で本人の飲酒の限界が来る前に頭上に×マークが表示されて、負けってルールになっているしね。」

それに、今あの二人が飲んでいるお酒は、24時間後には体内で水に変化するために悪影響はないらしい。とは言っても、飲んでいる間はお酒を摂取した事に変わりはないので、15歳以上には禁止されている。

「でもでも!!カナはともかくナツにお酒飲ませるだなんてあんまりです!!」

それでも、お酒に関する経験の差を知っていながら勝負を持ちかけたカナを許せないルーシィは、宝瓶宮の鍵を取りだし、カウンターの水の入ったコップを手に持つと構える。
だが、その瞬間、歓声が上がった。どうやら勝負が付いたようだ。
ルーシィが慌ててナツの傍に駆け寄ると、ナツは手にした小型の魔水晶を粉々に握りつぶすと、涼しげな顔でテーブルに突っ伏したカナを見下ろしていた。

「カナ、わりぃけど、俺は酒には強い体質みたいでな。」
「ぅぅ、それも滅竜魔導士だからって言いたいっての?」
「さあ?そこは元々なのか竜体質なのかは分かんねぇよ。普段飲まねえのは、酒なんぞ上手いと思わねぇからだ。」
「あ、そ。先に言ってくれても良いんじゃない?」
「勝てる勝負に敢えて教える必要が有ると思うか?」
「だから、素直に勝負を受けたってのか…完敗だよ。ナツ。」

カナは突っ伏したまま、片腕を上げると、掌をひらひらと振って、潔く負けを認めた。
魔水晶の中身を見る事が出来なくなった事を理解した仲間達は、各々の席へ座ると何時もの喧騒が戻ってきた。

「ナツぅぅぅ!!」
「ぐふぉ!?」

ナツが肩の力を抜いた所にルーシィが胸に飛びついて来たせいで、正常に息ができずに咳き込んでいるが、そんなことはお構いなくに更に力を込めて抱きしめてくる。

「ナツナツ!無事でよかった!!もう酒飲み勝負なんて二度としないで!!」
「分かった、ルーシィがそう言うならもうしない。」
「ん?」
「どうした?」
「んん?何でもない。ほら、ミラさんに水貰おう。」
「そうだな。喉も渇くしな。」

ナツはカウンターへと向かう際に、ルーシィの髪を一房掬うと指にくるりと巻いて直ぐに離した。
その動作に、ちょっとした違和感を感じたルーシィは、ちらりとナツを盗み見たが、頬は赤くなっているが足取りはしっかりしていて、特に変わったところは見られなかったので酔っているせいだと思うことにした。
事実、先にカウンターに座っていたエルザと次の依頼の件で話を始めていた。

「ミラさんミラさん。ナツ、あんなに飲んだのにあんまり酔った感じ見られないですね?」
「ふふ、そうね。でも、お酒を飲んでも変化がないって人は慎重で冷静なタイプの人が多いっていうから。」
「あ、なるほど。」
「ナツは、当てハマってるってことね。ある意味分かりやすくて面白いわ。」

面白い発言に苦笑いをしたルーシィは、ケーキセットを注文して食べていた。すると、エルザと話が終わったナツが話しかけてきた。

「ルーシィ、お前さ、ホントお約束な奴だよな?」
「どうして?」
「クリームついてる。」
「え!?どこどこ!?やだ、どこ!!」

付いているであろう場所を隠すために動いたルーシィの手をナツは掴むと、そのまま引き寄せ口元のクリームをべろりと舐めとった。
甘。と呟くとそのままルーシィの唇を自分のそれで塞ぐ。
突然の事に驚きはしたが、ナツからのキスに浮かれたルーシィは啄ばむ様なキスの間に唇を舐めてくる彼にされるがままでいた。
その一部始終を隣で見ながらケーキを食べていたエルザのフォークが手から離れ、床に落ちた音でルーシィは我に返る。
我に返ったルーシィの脳内では光速の早さで情報処理がされ始める。

―――お酒臭いっ!?て、違うでしょ!?
ナツがギルドでキスをしてきたってどういうこと!?
あたしの部屋やナツの家でハッピーと一緒に居る時は、ナツは何時も通りであたしから甘えて。
でも、二人きりの時は甘えていくと思いっきり甘やかしてくれるんだよね。
人が居る時ぜっったいにしてくれないナツからのキスとかキスとか!?ナツからキスウゥ!??ほええええ!!―――

そこで情報処理はブツンと終わる。
ルーシィが距離を置こうとして椅子から落ちそうになったが、ナツの片腕が腰に周り無事だった。

「…っナ、んン!?」

腰を引かれた際に、椅子から立ち上がったルーシィは何かを言わなくてはと思い、口を開く。だが、それがいけなかった。
ナツの舌が侵入してきて口内を味わうかのように、ゆっくりと舐める。流石のルーシィもギルドでここまでされると恥ずかしく、既に真っ赤な顔が首元まで染まっていた。ナツのマフラーや服を引っ張って抵抗をしてみたが、腰のほかに手で後頭部まで掴まれてしまっては、離れることもできなくなっていた。
ナツの舌に捕まるまいと必死に逃げていたが、狭い口内に逃げ切れる筈も無く、捕えられたルーシィの舌はナツに巻きとられる。
暫くルーシィとのキスを堪能していたが、彼女の力が抜けきったと感じたナツは、唇を一旦離し、呼吸が整うまで優しく額や頬に唇を落としていた。

その隣では、嬉々と目を輝かせているミラと、顔を真っ赤にして動きが鈍くなったエルザが耳打ちをしている。

「……み、ミラ。こここ、こういう場合私はどうすすすれば、いいい良いのだだ!?」
「うふふふ。簡単よ。家族は優しく見守るものよ。」
「そそそそうか!?見守るのか?って出来るかぁああぁ!!」

エルザはキスシーンに対する許容範囲が超えてしまったのか、食べ残していたケーキの皿を持つとギルドを飛び出してしまった。
仲間達も初めの内は、面白がって囃し立てていたが、段々と濃くなっていくキスシーンを目の当たりに出来なくなったのか、皆はそっと目を逸らす。中には耳を塞ぐ者もいたとか。


呼吸が整ったルーシィが目を開ければそこにはナツの顔が有る。このままではまたキスをされて、それこそもう逃げられないだろうと判断したルーシィは、残る力でナツを突き飛ばすと、ふらつく足腰に力を入れギルドから逃げ出した。
突き飛ばされたナツは唇をひと舐めすると、何事も無かったようにミラに向き合う。

「どうしたのナツ?逃げられちゃったわね。」
「ワザと逃がしたんだよ。それよか、さっきの酒代はカナに請求しといてくれ。」
「分かったわ。」
「あと、ハッピー宜しくな。」
「勿論よ。頑張ってねナツ。」


にこやかな看板娘に見送られ、火竜は獲物を捜すべくギルドを後にした。


おしまい



そうそう、砕け散った映像用の魔水晶の中身は、ナツとカナの記憶の奥底へと消えていった。





かも?




林檎からmo様への贈り物
日ごろの感謝と、お誕生日のお祝いの気持ちを込めて。
何時もありがとうございます。
お誕生日おめでとうございます!!

2014/07/09

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