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□if〜もしもの世界〜ルーシィ奮戦記
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「やだっ!!その仕事あたしも一緒に行く!」
「仕方ないだろ!先方の事情なんだから!!」
「やだやだ…うあーーん!!エルザぁ、ナツがいじめるぅぅ!?」
「なんでそうなるんだ!?ルーシィ!!しかもよりにも寄ってエルザかよっ!!」

事もあろうか、世間で言う痴話喧嘩にエルザを巻きこんだルーシィはドヤ顔でエルザの背後に隠れている。
ナツの背筋に冷たいものが流れていく。

「なに!?ナツ。お前がルーシィを泣かせる奴だとは思っていなかったぞ!!」
「は?ちげーって…っは、話を…聞け…っての…ぅおっ…あぶねぇ!?」

エルザのお仕置きを懸命に避けていたナツだが、妖精女王に敵う訳も無く、数分後には床に沈んでいた。
大きなコブが出来たナツを目の当たりにしたルーシィは流石にエルザに告げ口した事を反省し、グレイにかち割氷を作ってもらうとナツの顔を冷やすために膝をついてタオルで巻いた氷を当てる。
ヒヤリとした心地の良い冷たさがナツの頭部を癒す。

「…グレイの氷ってのがムカつくが、悪くねえ…」
「ごめんね?ナツ…だって、ナツが一人で仕事に行くっていうから…」
「今回が初めてって訳じゃねーだろ?」
「うん…そうなんだけど…でも、今回はあたしも行く。報酬いらないから。ついていくだけだから。ね?ナツ…」

ルーシィが仕事に関してここまで聞きわけがないのも初めての事で、流石のナツも困り果てた。
眉を下げ、涙を堪える様子に同行を許可しかけたが、今回の仕事は評議院絡みの為、ついてくるだけでもナツの心労は量りきれない。(ルーシィの性格からトラブルが無いとも限らないから…)
詳細は大まかな事しか聞いていないが、『滅竜魔導士』について確認したいから、というのが、評議院の研究者からの依頼だ。
ナツは起き上がり、子供のように駄々をこねるルーシィの頭をゆっくりと撫でながら説得するが、我慢の限界なのか、とうとう泣き出してしまった。

「だって、だって!!その研究者って女の人じゃん!?しかもあたしと同じ名前って悪意しか感じないよ!!」
「…は?」
「ナツがあたし以外にルーシィって呼ぶのが耐えらんないっ!!」
「…は…え…な?」

胸の前に拳を作り力説しながら涙を流すルーシィの予想外な台詞に、ナツは言葉も出ないようだ。
遠巻きに事の成り行きを見守っていた仲間達も、揃って口をポカンと開けたまま固まっていた。
そんな中で、ミラだけが、あらあら、と言いながらにこやかに微笑んでいた。

「ナツ?間抜けな顔しないでルーシィに何か言ってあげなきゃ、ふふふ、愛されてるわね?」
「…楽しんでんなミラ…はあぁ…」

ミラの言葉に呆れたナツだったが、マフラーでさり気なく隠しているが耳が赤くなっているのを看板娘は見逃さなかった。
後でからかうネタが出来たわ、とほくそ笑んでいるのを誰一人と気が付くものは居ない。

未だに胸元の拳は握られたまま、小刻みに震えながらナツに連れて行け。と訴えるルーシィの両頬をつまみ、ちょっとだけ力を入れて左右に引っ張る。

「あのな、確かに名前はたまたま同じかもしれねーけどよ?」
「いはははは…いふぁいあふ!!」
「初対面、しかも評議院の奴にファーストネームで呼ぶ訳ないだろ?」

指が緩んだのに気が付いたルーシィは自分の頬からナツの手を剥がすと顔を真っ赤にして反論した。

「だって、その人がファーストネームで呼んでもいいっていったらどうすんのさっ!!ルーシィて呼ぶの?やだやだナツの馬鹿!!」
「そうきたか…」

戦闘のセンスは一級品だが、一人でいた時間が長かったせいか、仲間以外とは人付き合いが苦手なナツ。
ルーシィの事を理解しているが、女心は掴み切れていないようでどうすれば彼女の機嫌が直るのか必死に考える。

依頼は、ほぼ強制。研究者もその人が竜に関して研究しているから変更は無い。

竜の研究をしている人がいた事に、もしかしたらイグニールの情報を掴めるかもしれないと思い強制とはいえ、つい請け負ってしまったが、今はそんなことより目の前のルーシィに納得させる事がナツにとっては先決だ。

「分かったルーシィ。お前以外には絶対にルーシィって呼ばねえ。セカンドかラストネームで呼ぶ。それでいいな?だからギルドで待ってろ?」
「ぐす…約束だよ?」
「おう、約束する。」
「分かった…行ってらっしゃい…」

急にしおらしく承諾したルーシィに肩すかしをくらった感じのナツだったが、気が付けば研究者との待ち合わせの時間が迫っていた。
ナツはルーシィの涙をふき取るとミラにマスターへに伝言を頼み、入口に置いておいた荷物を掴むと目的地へと駆けだして行った。

「甘いなナツは。」
「そうだな。いろんな意味でルーシィにだけは甘いなナツは。」

エルザとグレイは、ナツを見送ると、にこやかに鍵を取りだし星霊を喚び出すルーシィの動向をただただ見守っていた。

続く
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