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□if〜もしもの世界〜幼い頃の約束
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「ナツとの約束?」
「そ、約束。ルーシィはギルドに来たばかりの頃に、何時か教えてくれるって話してくれていたじゃない。」
「そうでしたっけ?」
「そうよ。」
「そうなのかな?」
「うんうん。そうよ。」

心当たりがない質問をされ、小首を傾げて悩んでいたが、ニコニコと屈託の無い笑顔でミラがそう言うなら言っていたのかもしれない。とルーシィは彼女の質問に答えようと口を開く。
その隣で一部始終を聞いていたハッピーは、魚を頬張りながら誘導尋問に見事に引っ掛かったルーシィを呆れた目で見ていた。


――――――


桜色の髪の少年が、急な階段をもろともせずに駆け抜ける。
辿りついたのは、とある宿屋の一室のドアの前。少し乱暴にドアを叩くと、ガチャリと鍵が開き、女性が顔を出した。

「おはよう!おばちゃんルーシィ起きてるか?」
「おはよう。ナツ君。ふふ、起きているわよ。今お弁当の用意をしているからもう少し待っていてね?」
「おう!!…ルーシィが作っているのか?」
「そうよ。」
「…ルーシィ…が?」
「大丈夫よ。私も手伝ったからね?」
「ママ!!余計なこと言わないでよぅぅ!!」

二人の会話が聞こえたのか、奥からルーシィの怒った声が聞こえてきた。
ナツが疑心暗鬼になるのも当然で、以前、砂糖と塩を間違えたお約束なクッキーを食べたばかりだったから。
(ナツは黙って食べきっていたが、ルーシィが後で色が焦げすぎたので渡していないクッキーを食べて漸く判明したらしい。)

今日は、ナツとルーシィに加えて、エクレアとルーシィの母であるレイラと共にピクニックをするので、ルーシィが母の助け(8割)を受け、お弁当を完成させたという訳だ。



初夏の爽やかな風が通り抜ける、芝生が敷き詰められた広い公園に4人はやってきた。

「うひょう!!そんなに人がいねえなルーシィ!!」
「うん!!朝早くきて正解だったね!!」

目的の場所に辿りつくと、荷物を置くや否や走り出すナツとルーシィ。
荷物の所では、走り去る二人に注意をした後、エクレアとレイラは腰を下ろし話に花を咲かせていた。

「貴女方に会えて、本当に感謝しています。」
「エクレアさん?」

一緒に遊ぶナツとルーシィに目を向けると、静かにナツの村での生活を語り始めた。
ナツが扱う魔法の事で、村では孤立している事。
ナツの笑顔が最近めっきり減ってしまった事。
気分転換を兼ねて、ナツをエクレアの占いの家業の手伝いをさせながらこの街に滞在している事。
そして、二人が仲良くなってからナツからルーシィの名前を聞かない日が無くなった事。
エクレアはここでふんわりと笑顔を見せる。

「ナツがルーシィの事を話すときは、本当に嬉しそうに笑う。」
「ルーシィもそうです。ナツ君と出会えて、本当に良かった。あの子のあんなにも楽しそうな笑顔は久しぶりです。家の事情で本当の友達なんて今まで居ませんでしたから。」

この街に来てよかった。二人の大人の声が嬉しそうに重なった。


「ん?ルーシィ何作ってんだ?」
「んー?と、ここ、あ、ナツ。コレね?シロツメクサの花冠だよ。」
「…ふーん。」
「あ、興味ないわね。」

確かに花冠には興味なかったナツだが、それを作っている真剣なルーシィを出来あがるまでずっと見ていた。
段々と長くなるシロツメクサの花冠にナツは、ふ、と思いつく。

「ルーシィこれも入れてくれよ。」
「あ、これって。」

ナツの手には日当たりに良い所ではなかなか見つける事の出来ない四つ葉のクローバーがいくつか握られていた。

「これって、縁起がいいんだろ?」
「うん、そうだよ。ありがとうナツ。そうだ、ナツも作ってみる?花冠。」
「うえ、難しんだろ。それ…。」
「やってみなきゃわかんないよ?ね?」

細かい作業などが嫌いなナツにとって花冠を作るなんて性に合わないと思っていたが、ルーシィがニコニコと無邪気に作る事を進めてくるので断れず、シロツメクサを摘むと、ゆっくり教わりながら花冠を作り始める。

「・・すぎんだろ…。」
「なに?」
「…なんでもね…」
「???あ、ナツそこをクルンとこう回すんだよ。」
「こ、こうか?」
「うんうん!そう!!上手じゃないナツ!!」

ルーシィに褒められ、嬉しくなったナツはにやける口元をマフラーで隠しながら作業に集中する。


二人は四つ葉のクローバーを分け合い、漸く花冠が完成した。

「ルーシィ。」
「なあに?」

ポフン―――

ナツはルーシィの頭に、今しがた完成したばかりの四つ葉のクローバーがまるで宝石のように中心に鎮座した花冠を乗せた。

「ほえ…」
「うん、似合ってる。可愛いぞ!」

金色の髪に映える白と鮮やかな緑。ナツは素直に思った事を口にした。
ナツの満面の笑顔を目の当たりにしたルーシィの頬が赤く染まる。

「か、かかか!?」
「?蚊?刺されたのか?」
「ちちち、ちがっ…」
「ふーん、ま、いいや。腹減ったから飯食おうぜ。」
「……」
「ルーシィ?」

ポフン―――

返事がないルーシィを心配してナツが振りかえると、頭の上からシロツメクサの香りが漂ってきた。

「先越されちゃった。ナツにあげようと思って作っていたんだ。可愛いよナツ。」
「お、男に可愛いとか言うな!!」
「ぷぷ、顔赤いよ?ナツ。可愛い。」
「う、るせ。どの口言うか!!」

本気では無いが、怒った表情をするナツ。ルーシィにとってはそんな少年の様子も気に入ったようだ。
言うなと言われた言葉を再び声に出す。

「やっぱり可愛いよナツ!!」
「まだ言うか!?」

ルーシィはナツから貰った花冠を落とすまいと両手で庇いながらナツから逃げる。
ナツはルーシィから貰った花冠を落とすまいと片手で庇い、少女を捕まえようともう片方の手を伸ばし追いかける。


「ぜぇぜぇ…ナツ…はぁ…はぁ…」
「なんだ?」
「何だ…ハァ…じゃないわよ!!捕まえるハァ…ならさっさと…捕まえてよねっ!?」
「いあ、なんとなくずっと追いかけたかったから。」
「何そのいじめっ子発言は…しかも息切れしてないとか…はあ…」

疲れ切ったルーシィが草原に座りこむと、汗はうっすらとかいているが息切れを全くしていないナツを恨みがましく睨むが当のナツはどこ吹く風。

「だってよ。俺、もうすぐ村に帰るんだ…だからいっぱい遊びたくて…」
「…え?帰っちゃうの?」
「うん…」
「帰っちゃうんだ…」

楽しかった雰囲気が一変して、沈んだそれに変わってしまった。
沈んだ雰囲気に気まずくなったルーシィは暫く俯いていたが、意を決してナツと目を合わせる。

「じゃあ、ナツ。約束しよう!!」
「約束?」
「うん!!約束!!」
「ぅわ…ルーシィの約束って…塩クッキー?」
「そ、それはもう忘れてよ…泣くよ?」
「冗談だっての。約束かぁ。いいぜ。どんなのだ?」
「お互いに約束するの。あたしとナツの約束とナツとあたしの約束。」

約束の意味は分かるが、ルーシィの言葉に引っ掛かりを感じるナツは首を傾げる。

「つまりね?たとえば、今あたしがナツに明日も遊ぼうって約束して、ナツがいいよって言うでしょ?」
「うん。」
「で、ナツは、明後日も遊ぼうって約束するの。それで、あたしがいいよって言うの。そうするとささっきのはナツの約束で、今のはあたしの約束になるの。分かる?」
「うー……?なんとなく…?」
「??あれ?でも、あたしも良く分かんなくなってきた?」
「…ルーシィ…」

自分から言い出した事に頭を抱えているルーシィにナツは白い目で見ていたが、ルーシィの目の前に座ると、約束しようぜ。とニカリと笑った。

「じゃあ、あたしからね?」
「おう。」

ルーシィは深呼吸すると、赤くなる頬を隠すかのように両手で包むと、真剣な表情で約束をする。

「あたしのヒーローになって欲しいの。」
「ヒーロー?」
「うん、ホントはね、王子様とかに憧れていたけど、ナツは王子様よりヒーローが似合っている気がするから。」
「ひーろー…」
「…分かってる?」
「失礼な奴だな!?そ、そんくらい知ってるぞ!!よし、いいぜ。ルーシィだけのヒーローになってやる!!」
「え…」
「ん?」

ルーシィは両手で隠しきれない程に、顔中が真っ赤になっていたが、この時はまだナツには理解できてはいなかった為、疑問から首を傾げる。

「なんかおかしいか?」
「ううううん!?可笑しくないよ!うん!!すっごく嬉しい。」

ルーシィの満面の笑顔にナツの頬が赤くなるのが分かり、マフラーでそっと気付かれない様に隠す。

「じゃあ、俺の約束は…」





――――――


「いたたたたたぁああ…っ!?」
「何をべらべら喋ってんだお前は…」
「あら、ナツお帰り。駄目よぉ。女の子にアイアンクロウなんて可哀そうじゃない。」
「なら、聞くなミラ…」
「あら、なにをかしら?」

しらばっくれるミラを一睨みするとナツはルーシィの頭にポフンと何かを置いて立ち去っていた。
そんなナツの耳が赤くなっていたのをミラは目撃していたが、後が面倒なので黙っている事にした。

「あら、シロツメクサの花冠ね?」
「え?あ、ホントだぁ。えへへ。タイムリーってやつですね?ミラさん。」
「そうね。ふふふ。綺麗に作ってあるわね。」

ナツが居ない間に二人の約束を聞きだそうとしていたミラだったが、アスカの散歩に付き合っていたナツが帰って来てしまった為、諦めなければなくなった。(ナツの監視がきつい為、約束の内容を聞こうとすればルーシィを連れ出されてしまうから。)

アスカが両親であるアイザックとビスカに駆け寄り、花冠を頭に載せ、くるくると回り披露する。

「だだいま、パパ、ママ見て見て!!」
「お帰り、上手に出来たわね。可愛いわよアスカ。」
「お姫様みたいだな。」
「ナツ、凄い上手なんだよ。だから、ほら。パパとママの分も一緒に作ってくれたの!」

小さな手から、両親の頭に綺麗に作られたシロツメクサの花冠が乗せられる。


…ナツが花冠を上手に作る…?

今の話を聞いていたギルドの仲間たちが一斉に同じ疑問を持ち、視線はナツに集中した。
仲間の疑問に、ナツは首を傾げ近くに居たエルザに聞いてみる。

「なんだよ。可笑しいかエルザ?」
「い、いあ、可笑しくは無いが…多分だがな、そんなイメージは無いのだろう…お前は冷静だが細かい作業は進んではしないだろう?どちらかといえば体力系の仕事をよくしているからな。」
「んー?そういや、そうかもな。」
「だろ?ははは…」

エルザの乾いた笑いにナツは訳が分からず溜息を零すと、耳に仲間の囁きが聞こえてきた。

「意外だな。」
「あんな眼つきが悪いくせに器用とか反則だろ。」
「なにが反則なんだ?」
「女ってのはギャップに弱いんだ。分かるな?」
「!!そう言う事か!?」
「そうだ、可愛いルーシィちゃんがあんな凶悪顔に簡単に惚れるなんてありえない!」
「てか、ルーシィちゃんといえば見たか?今日の胸元!?」
「おうおう見たぞ。いつも張りがあっていい谷間してんなァ。」
「それもあるけどよ。隠し切れてねーんだよ。」
「なにが?」
「キスマー…ぐはっ!!!!」

いまの話をしていた人物は、ナツによって床に沈んでいた。
無表情だが、片眉を上げたナツが淡々と話す…

「てめーら…どこ見てんだ?灰にしてやんよ。」
「遠慮しておきます!!」
「遠慮すんな。仲間だろ?存分に滅竜魔法喰らってみな。サービスするぜ?」

ぎゃああああああああああ……


阿鼻叫喚…今日のギルドはそんな感じ。



「ねえ、ナツを止めないの?ルーシィ?」
「え?なんで止める必要あるの?ナツ楽しそうだよ。」
「……ルーシィって…バカだよね。今のナツを止められるのってルーシィだけなのに…」
「ちょっと!!バカってなによバカって!!」
「そこに怒るんだ…」
「なにが言いたいのかしら?ハッピー?」
「いひゃいひゃいごめんルーシィー!?」

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