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□if〜もしもの世界8〜始まり
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ルーシィは魔力の件の他に衰弱も見られた為、一週間ほどの入院が必要と診断され、安静にしないと長引くと言われた帰り道、ルーシィの相棒の青猫は自分と同じ色の青空を見上げ断言した。

「安静なんて無理だね。おいら自信もっていえるよ。」
「ん?どうしたハッピー?」
「何でもないよナツ。ナツこそ体調はどう?」
「ああ、まずまずかな。」

ナツは炎とはいえ、異質な黒い炎を摂取したせいか3日間ほどはルーシィのお見舞い以外ほぼ宿のベッドの住人だった。
ハッピーはナツの勧めもあってか、街の観光を少しはしていた様だ。勿論、ルーシィやナツに珍しいお土産を買ってきてたり、いろいろな話をしていた。

ギルドの仲間達がお見舞いに来ると言っていたが、少々遠いのと誰かが来るとルーシィの『安静』が守られない恐れがあるからとナツが断っていた。
エルザとグレイは退院の時に来ると約束していた。



「今日やっと退院だね。ルーシィってばよく一週間耐えたね?途中で暇だ―って、暴れるかと思ってたけど。クププ」
「ま、あのお堅いカプリコーンに見張りを頼んだのが良かったかな。」

ナツは体調が良くないので見張り役としてカプリコーンに(自らの魔力を使う事になるが)、ルーシィの見張りを頼むと快く承諾してくれたのだ。ルーシィには気の毒だったが。

もうすぐ病院に着くという所でハッピーが何かを思いついたように棒読みで話し始める。

「あーそうだーナツー。おいら用事があったんだーちょっと行ってくるねー。お昼には戻るよー。」
「…お前は…ま、いいか。マグノリアに帰ったら魚釣りにでも行くか?」
「あいさー!!全部おいらのだよ!!」
「おお、いっぱい釣ろうな。」

約束だよー!!とハッピーは無駄にMAXスピードで遠ざかっていく。
次いで遠いところから、おいらは空気の読める猫なんだーー!!なんて台詞がナツの耳に届いたが聞かなかった事にした。



――――――

何人かの入院患者とすれ違いながら、少し長めの廊下をナツは歩いていた。
ルーシィは退院は出来るものの、もう少し自宅療養が必要な為、どうやって部屋に閉じ込めておこうかと頭を悩ます。
いつまでもカプリコーンには任せることは出来ない。

ならば、

(縛っとくか?)

などと物騒な事を考えているうちにルーシィの病室に着いた。
コツコツとノックをすれば中から元気な返事が返ってきたので、中に入ればルーシィはベッドに腰掛けていた。

「よお、準備は出来てるみてぇだな。」
「うん、ばっちり!エルザ達が来たら帰れるんだよね?」
「ああ、入院費の手配を頼んであるからな。」
「うううう、ご迷惑掛けます。」
「…違うだろ?今回の件はルーシィは迷惑なんてかけてねえ…顔上げろよ。」

申し訳なさから俯いているルーシィの頭を優しくなでる。
それでも俯いたままのルーシィの両頬を掌で包み込み、顔を上げて目線を合わせる。

「お前は、あの時の約束を守ってくれた。でも、俺は未だに守れていない。」
「そんなことないよ。ナツは約束守ってくれたよ!!」
「ありがとな。ルーシィは優しいから…」
「違う!!だって来てくれたじゃない!!」
「だけど、傷つけた…」

今は消えてしまったが、首に痣が残っていた場所に視線を落とす。
黒い炎に支配されていた時もナツにはおぼろげだが意識はあったせいで、大切な仲間を傷付けてしまった事実にナツは一週間ずっと苦しんでいた。
なにも話さなくなったナツの手の上にルーシィは自分の手を重ねる。

「ナツの手はあったかいね。」
「は?」

突然の的外れの言葉にナツは思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
ルーシィは華が咲くようにふんわりと微笑んでいる。


――――――

「魔力は戻ったし、傷もお医者様のお陰で治ったし、問題ないの。」
「ルーシィ…」
「あたしは今ナツの傍に居るじゃない。あたしはそれで充分なんだよ。」
「……」
「もう、聞いてるナツ?だからね、ナツがあたしを助けてくれた。ナツの手があったかいって感じれる。あたしは今それが凄く嬉しいの!!」
「ルーシィ…」
「でも…一つだけ…その…」

今度はルーシィが黙りこんでしまう。

頬に添えているナツの両手の体温よりルーシィの頬の方が熱くなっていた。

「うー、いくら緊急事態だったからってあれは…ちょっと…」
「あれ?」

ルーシィの眼はキョロキョロといろいろなところをさ迷い、最終的にナツの唇に止まる。
その視線に気が付いたナツは、ああ、と納得したように頷きながらルーシィの頬から手を離す。
ルーシィはナツの手が離れたことを残念に思いながら、恥ずかしさのあまり再び頭が俯いていく。

「あれね?」
「うん…あれ…」
「あれは魔力を手っとり早く渡す為にしたんだ。気にすんな。てか、ルーシィだってしただろ?」
「あい…そうでした…」

ナツは頭の旋毛が見えるまで俯いてしまったルーシィの姿に、笑いがこみあげてくる。


「なんだ、気にしてたのか?くく…」
「うう、笑わなくたっていいじゃない…ナツの意地悪…いいよ気にしないから…うん、気にしないったら気にしないんだから…今まで悩んでいたあたしが…」
「冗談だ。気にしろ。」
「え?」




――――――

その言葉にルーシィは勢いよく頭を上げた。


ごつん


鈍い音と共にルーシィは頭に感じた強烈な痛みに涙を浮かべながらナツを見ると顎を押さえて痛みに耐えている姿が目に入る。
恨みがましく睨んでくるナツに流石のルーシィも怯んでしまった。

「…ルーシィ…」
「あ、あい…」
「いあ、なんでもねぇ、目測誤った俺が悪かった…すまん…」
「目測って何?、よく分かんないけど、ごねんね?ナツ…顎大丈夫?」

既に赤くなっているナツの顎に手を添えようとした瞬間、ルーシィはナツの腕に中に閉じ込められていた。
その事実に気が付いたルーシィに徐々に顔が真っ赤になっていく。

「さっきの続きだけどよ?今だから言うけどな…ルーシィだから、迷わずあの方法を取れたんだ。ほら!気にしろ。気にして気にして眠れなくなるくらいに、気にしろ。」
「横暴だよ!!」
「まあ、聞けっての。でも、俺はあの時は夢中で気にしてなかった。」
「う、うん。」

抱き締めていたルーシィを顔を見ることが出来る様に少しだけ力を緩める。

ナツの優しい眼差しにルーシィの頬が火照り始めた。


「ルーシィがギルドに来るまでは1人でいたから、大切なもんなんて無かった。だから、気が付くのが遅かったんだと思う。」

ルーシィの額に口付けを落とす。

「ルーシィが俺の前からいなくなると思ったら、怖かった。だから夢中で魔力を分けた。ハッピーに止められなきゃ、ぶっ倒れるまでやってたかもな。」

ルーシィの眼には溢れんばかりの涙か溜まっているのをナツは吸いとる。

「だから、大切なものはさっさと手にいれてしまおうって、決めた。失う前に…な。」

ルーシィが瞬きをすると、ほろりと涙が一筋流れた。


「ルーシィ、好きだ。ずっと傍にいてくれ。ずっと、ずっと守るから。」
「うん!!ナツうん…あたしもナツが好き。大好き。ナツ、ずっと傍にいて。あたしもナツを守るから。えへ、新しい約束だね。」
「約束、じゃない。」
「え?」


コツンとお互いの額を合わせる。




誓いだ。





そう囁いたナツはルーシィの唇に自分の唇を合わせた。

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