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□if〜もしもの世界6〜教主
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黒い何かに身体の自由を奪われ、ある部屋に連れてこられたナツは周りを見渡す。
大きな窓からは日の光が眩しいくらいに差し込んでいるというのに、ナツを見つめる存在がいる所だけは黒く影に覆われていた。


コツリコツリと足音がナツに近寄る。
影から現れたのは、深紅のマーメイドドレスを着こなす女性だった。

「ナツぅ…やっと手に入れたぁ。ウフフフ」

妖艶とは彼女の為にある言葉だろうか。と、朦朧とした意識の中ナツは思った。
女性の指が一本、つう…とナツの頬を撫であげる。

「触んな…気色…悪ぃ…」
「ウフフ、可愛いわね。魔力が無くてもそんなに鋭い目つきが出来るなんて。そういうの大好きよ。」

コロコロを笑う女性にナツの背中に悪寒が走る。
ナツが深く溜息を吐くと、女性は何かを思い出したように掌を胸の前にポンと合わせた。

「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私がインフィニティの教主よ。私の名前もナツなの。運命だと思わない?」
「あー、そう…最悪だな…」
「ウフフ、本当はね、竜の申し子の血が全て欲しかったんだけど、気が変わったの。」
「……」
「魔力、足りないんでしょう?私のを分けてあげる。相性は良いと思うの。だって、」

にこりとほほ笑んだ教主ナツの掌から燃え盛る黒い炎が噴きあがる。

「た・べ・て・。ナツ…だいすきよ。」

黒い炎が蛇のようにウネリ、ナツの口元をさ迷う。

ナツは直感していた。

これが体内に入れば自分は終わりだと。
懸命に歯を食いしばるが教主ナツの拳がナツの腹にめり込み、衝撃からくる痛みに口を開いてしまった。
大量の黒い炎はナツの口から体内へと侵入をする。

「痛かったでしょ?ごめんなさいね?でも魔力も体力も回復したでしょ?」

拘束を解かれたナツが、こきり、と肩を回し無表情で教主ナツを見つめる。
その姿を見て教主ナツは身震いをすると、ナツに飛びつくように抱きしめた。

「ああ、思った通りね。黒い髪のナツも素敵!」

弾む教主の声が部屋に響いていた。



――――――

エルザは奇妙な魔力を感じ取り、それを辿って来て見れはナツが黒い何かに攫われる瞬間を目撃してしまった。


「グレイ!!」
「エルザ、ナツが攫われた!!」
「ああ、とにかく追うぞ!!ハッピーはルーシィを連れて外の安全なところまで避難していろ!!」
「あ、あいさー!!待ってるからね!!三人で迎えに来てよ!!」

力強く頷いたエルザとグレイを見送り、ハッピーがルーシィの襟元を掴もうとすると白い手が青い身体を撫でた。

「ルーシィ!!気が付いたの!?よかったぁ、今から安全なところに移動するね?」
「ナツ、の…ところへ…」
「駄目だよ。おいら達が行っても足手まといになるだけだよ!」
「お願い!!ハッピー!!」

ナツから魔力を貰ったからといっても、危うい状態なのは間違いないのにルーシィはハッキリとした口調で叫ぶ。
ハッピーはルーシィの強い意志に根負けしてしまい、溜息を吐く。

「おいらが危ないって感じたら、ルーシィを無理やり連れて逃げるよ?」
「ありがと…ハッピー…」

じゃ、行こうか?とハッピーは翼をだすとルーシィを持ち上げ、エルザとグレイの後を追って行く。



――――――




そんなに遠くないところから戦闘音が聞こえてきた。
だが、少し様子がおかしいのをルーシィとハッピーは感じ取り、慎重にその場所へと向かう。




「やめろナツ!!私の事が分らんのか!?」
「エルザ!!ありゃ本当にナツか!?」
「滅竜魔法を使えるのはナツだけだろうが!!信じがたいがあれはナツだ!!」
「じゃあなんで黒い炎なんだよ!?髪まで黒いぞ!!」
「それが分らんから困っているのだろうが!!」
「ナツ!!」
「やめろナツ!!」

二人の呼びかけに全く無反応のナツが眉ひとつ動かさずに攻撃を繰り出す。
滅竜魔法の応酬とそれがナツであることへの戸惑いからか、二人は防戦で精一杯だった。
ナツの背後では教主がエルザとグレイを見下すように笑っている。
その姿を不快に思った瞬間、二人はナツの攻撃を正面から受けてしまい、床に転がる。

「ナツ強―い。凄いわぁ、だって仲間って言うんしょ?その二人、手加減しないなんで残酷ねえウフフ。」

ナツの返事はないが、教主ナツはナツにすり寄り、頬に手を添えると顔近づける。

「ナツぅ…だいす…」

「ちょーっと待ったあああああーーーー!!!!」

ゼイゼイと息を荒げたルーシィがハッピーを脇に抱え、少しでも気を抜けば倒れてしまいそうな身体を懸命に自らの足で立っていた。

「あんたが誰だか知らないけどさっ!はぁはぁ…っナ、ナツに、そんなことしていいのはぁ…あああたしだけなんだからねっ!!サッサと離れなさいよ!でないと痛い目みるんだから!!ぅぅ眩暈した…か、覚悟しなさいよっ!!」


怒りのせいなのか、自分の言った言葉のせいなのかは分からないが、真っ赤な顔をしてフラフラになりながらも教主ナツにルーシィは詰め寄った。




続く

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