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□if〜もしもの世界4〜再会
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ルーシィとハッピーを救出するべく目的地にたどり着いたには良いが、乗り物酔いが酷いナツを抱え、グレイがニヤニヤと彼をからかう。

「まさかナツが乗り物に弱いとは意外だったな。くくく…」
「…う、せぇ…クソ氷」
「ナツの出発の時の反応はこれのせいか…しかしどうするのだ?その醜態ではルーシィ達を救出できるのか?」
「えるざ…ひ、くれ…」
「あ?何だって?ひ?」


エルザはナツの情けない姿に呆れ溜息を吐くが、グレイが弱々しいナツの声を何とか拾う。

「火くれ。燃えている…火。」
「火か?よくわからんが貰ってきてやろう。」

ナツの希望を叶えようとエルザが近くの食堂へ行き、薪に炎を灯らせナツに渡した。
震える手で火が燃え盛る薪をエルザから受け取り、それを喰う。
ナツの行動が理解できずに固まる二人を余所に、ゴクリと喉を鳴らし飲み込んだ。

「よし!行くか。エルザ、グレイ…?どうした、固まって?」
「「…酔いは良いのか?」」
「おう、ついでに魔力の補充も出来た。」
「「そうか…」」

二人の息が妙にぴったりで思わず噴き出しそうになったが、ナツはまだ説明していない事があることに気が付き、詳しく滅竜魔導士のことを説明した。

「なるほど、炎を喰えば回復するのか。なかなか便利だな。」
「いあ、そうでもねぇ、そうそう炎は身近には無いから。」
「氷ならあっけどよ。」
「…反対に倒れるっての。てか、もういいだろ?行こうぜ。」

そうだな。と三人は顔を合わせ、目的地へと向かった。


―――――

岩山に囲まれた殺風景な場所に教団のいやに派手な建物が建っていた。
見張りが何名かいるが、最強チームにとっては軽いもので気付かれずに建物の中に忍び込む。
静寂の中、三人は目配せをし、それぞれの目的を達成すべく行動に出る。

エルザは教団が今まで狩り続けた魔獣などのリストやそれに関わる人物達の特定。
グレイは他の二人の進行と退路の確保。
ナツはルーシィとハッピーの救出。





ナツは五感を極限にまで高め、周囲の様子を覗う。

(……信者が思ったより少ないな。違うか…信者というより武装兵か。ルーシィ達は…ん?この匂いは…あいつか…)

覚えのある匂いをたどり、地下室らしきところへ進む。
常人にとっては暗闇で明かりが無いと進めないが、視覚が優れるナツにとってはなん障害もなく階段を下へと向かった。
足音を響かせないように慎重に降りていくと、カビ臭い中に先ほど嗅ぎ取った匂いが段々と濃くなってきた。


少し広い場所にたどり着くと、ゆらりと暗闇より濃い影が人を形成する。


「お待ちしておりました。ナツ様。」
「そりゃどうも。」
「ルーシィ様とハッピー様はこの奥の部屋におります。」
「へえ、親切にありがとな…じゃ、通してくんね?」
「あぁ、言い忘れましたが、僕の名前は…」
「てめえの名前なんぞ興味ねぇ!!」

男性が言い終わる前にナツは火の玉を吐きだし牽制した。
牽制の炎が当たるはずもなく、男性は軽々とそれを交わす。
男の手にはすでに黒い大鎌が携えられ、ナツ目掛けて薙ぎ払ってきた。
初めはエルザと同じ換装かと思い、刃の部分を両手で挟み取り熱で溶かそうとすると、再び黒い霧に姿を替え、男性の手元に戻る。

「ちっ…」
「ははははは、ナツ様は教主の大切なお客人でございます。出来れば拳をお納めください。」
「ルーシィとハッピーを返してくれたらな。」
「いやいや御冗談を。お返しすればナツ様はお帰りになさるでしょう?」
「当たり前のこと聞くな。その割には本気で攻撃してんじゃねえか。」
「ナツ様も本気でははありませんか?」
「馬鹿にすんな。本気出したらてめえなんぞ、ものの1秒だ。」

再び薙ぎ払われる大鎌をバックステップで避ける。

今回の作戦はあくまでもルーシィとハッピーの救出だ。
しかし、この状態を武装兵に嗅ぎ付けられては面倒なことになってしまう。
ならば、答えは簡単。『ものの一秒』でけりをつけるのが得策だとナツは判断する。
大鎌を振り上げた瞬間にナツは地面を蹴り、素早く男性の懐に潜り込むと渾身の力で鳩尾に拳を叩きこんだ。
男性の身体はクの字に曲がり、声もなく崩れ落ちていった。

「ホントはこれくれらいじゃ、俺の気は済まねえがルーシィが待ってんだ。」

とりあえず、壁に掛っていた縄で男性を縛り上げ、ルーシィ達が居るという奥へと進んで行く。



―――――



男性の言葉にウソはなかったようで、ルーシィとハッピーの匂いがナツの嗅覚に届いた。
他の人物の気配がしないことを確認すると微かに光が漏れる扉を見つけ、そこを静かに開ける。

扉が開き、ビクリと肩を震わしたハッピーが降り返るとそこには慎重に部屋に入ってくるナツの姿が見えた。

「ナヅウウウウ!!」
「シッ…ハッピー無事か?なんで鳥籠なんかに入ってんだ?今開けてやるからな。」

鳥籠の隙間に指を入れ、力づくで壊しハッピーを助け出す。
ハッピーはナツの胸に飛び込み大粒の涙を流す。
ナツは優しくハッピーの体を擦る。

「ぅぅぅう…ぅぇぇえ…」
「待たせて済まなかったな…怪我は大丈夫か?」
「うんうん大丈夫…うええ、それよりルーシィが…るーじぃがぁ…」

ハッピーを肩に乗せ、少し先にある鉄格子の方へと向かう。
鉄格子の向こうには手錠をはめられ、ぐったりと横たわっているルーシィの姿があった。

「ルーシィ!!」

ナツが呼びかけるが全く反応がないので耳を澄ますと、浅くはあるが呼吸音が聞こえ安堵する。
ハッピーに魔水晶の事を聞き、ナツに焦りが出た。
ここに来るまで、相当な時間がたったはずだ。それを考えれば魔力が底をつくもの時間の問題だ。

鉄格子を溶かし、ルーシィに駆け寄る。

「っ、ルーシィ!!」

冷えた身体を抱きあげ、もう一度名前を呼ぶと、ルーシィは微かに瞼を開き答えた。








「ナ、ツ…」



彼を呼ぶ弱り切った細い声に、ナツは泣きそうになった。

続く

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