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□if〜もしもの世界2〜出発
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肌に感じる空気は冷たいのに、手首に感じる重い存在は、生ぬるい。
ルーシィの手首に取り付けられた手錠の魔水晶が、彼女の魔力を吸収して妖しく鈍い光を発している。
何とか外そうと試みたが、身体に思うように力が入らない為、手錠はガチャリと音を立てただけだった。
視界に入るのは、冷たい鉄格子とその向こうにやけに丈夫そうな鳥籠に入れられたハッピーの姿。

「ハ…ピー」
「ルーシィ気が付いた?良かった…なかなか起きないから心配したんだよ。」
「うん…ご、めんね…心配、かけて…」
「無理しないで、喋るのも辛い筈だよ。おいらは大丈夫だから、鳥籠も結構快適だよ?」
「ばかぁ…無理して、んの…ハ、ピーじゃない…」

鉄格子と鳥籠に遮られてはいるが、ハッピーの無事な姿にルーシィは安堵する。
だか、ルーシィは魔力を吸収され続けられているせいで、再び瞼は閉じる。

(ナ…ツ…)

唇だけが彼の名をなぞり、意識を手放す。

「るーじぃ…えぐっ…」

牢屋という狭い部屋にハッピーのすすり泣く声が木霊していた。

―――――――



(…ルーシィ?)

地図を元に作戦会議に参加していたナツがふと、窓の外に顔を向ける。

「どうした?ナツ」
「いあ、何でもない…悪い。」

意見が飛び交い一段と騒がしい中、ナツはルーシィに呼ばれた気がしたが、そんなはずはないと意識を会議に向け直す。
それでも耳に、いや、頭にルーシィからの呼び声が残り、集中出来ないでいた。

「まどろっこしい…」
「ナツ?」
「俺が行く…」
「駄目だ。奴等の狙いはお前じゃ、ナツ。」

即座にマカロフに否定され、珍しくナツの頭に血が登る。
ぐしゃりと机の上の地図を握りつぶすと、一瞬にして燃え上がり、ナツの体からユラリと陽炎が立ち上った。


「尚更俺が行く。守られんのは性に合わねえ っ!!」
「今回ばかりは駄目と言ったら駄目じゃ!!」

ナツが始めて感情を露にする様子にギルド内が静まりかえる。
滅竜魔法は感情に左右されやすい為に、今までナツは出来るだけ冷静に過ごしてきた。その為、周りはナツは冷静な奴と認識していた。
仲間達は、きっとこれが本当のナツなんだ。といともあっさりと納得した。


駄目だ、俺が行く。の繰り返しに業をにやしたナツは、遂に本音が言葉になる。


「はっきり言わせてもらうけど、教団なんかにゃ興味ねぇっ!!俺はルーシィとハッピーさえ助け出せればそれでいい!!俺が目的!?なら、返り討ちにしてやんよ!!」
「なんじゃと!?」

睨み合うマスターと火竜。
そこに鶴の一声ならぬ、妖精女王の一声が響いた。


「今回ばかりはマスターの負けです。我々はナツの意見に賛成します。そして、何よりも、ルーシィはナツを待っているはずです。」

エルザの凛とした声にマカロフは折れるしか道は無いように感じた。
周りを見渡せば、俺も、私もとエルザに同意する仲間達が手を挙げている。

「はあぁ〜仕方がないのう。ならば、ナツ、エルザ、グレイ!!お前達三人はルーシィの救出!!他の者達はサポートに回れぃ!!評議会はワシに任せよ!」

今まで議論していた作戦が、意図もあっさり決まってしまうのは、いかにもフェアリーテイルらしいとマカロフはニンマリと口元が緩む。。
うおおおおっと、雄叫びが上がり建物をビリビリと揺らす。
皆が三人の背中を叩きエールを送るなか、ナツがある疑問を口にする。

「なんでルーシィは俺を待ってんだ?それを言うなら俺達だろ?」
「………はぁ、…お前…そこは天然だったんだな…」

かくっと頭を傾げるナツの姿に、さすがに呆れ返るグレイだった。


「ナツ、グレイ!!時間が勿体無い。細かい作戦は列車の中で伝える。行くぞっ!!」
「おう!!」
「…おう…」
「何だ?ナツ。さっきの威勢はどうした?」
「いあ、何でもない…うん、大丈夫大丈夫俺はルーシィを助ける…ルーシィを助ける。だから大丈夫…あ、ハッピーも助ける…うん…」


急に大人しくなり、大丈夫と呪文の様に呟くナツにエルザとグレイは疑問を感じながらも、三人はルーシィとハッピーを助けるべくフェアリーテイルを後にした。




続く

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